「集約化」で医療資源の有効活用と過重労働の軽減を江原朗さん(北大大学院医学研究科客員研究員)
「医師不足を根本的、長期的に解決するには医師の絶対数を増やすしかないが、
短期・中期的な応急措置としては“集約化”が有効だ」―。
こう話すのは、北大大学院医学研究科客員研究員で小児科医の江原朗さん。医師は「不足」しているのではなく「偏在」しているだけと言い続けてきた厚生労働省も、昨年2月の政府答弁書で「医師不足」を認めた。さらに昨年は多くのメディアで、医師不足による救急患者の受け入れ不能、診療科や病院の閉鎖、医師の過重労働などの問題も取り上げられた。集約化が実現することによって、医師不足はどの程度解消できるのか。そして、地域医療はどう変わるのか―。江原さんに聞いた。
― 江原先生が考えていらっしゃる“集約化”について、具体的に聞かせてください。
救急患者の受け入れ不能が各地で発生し、医療提供体制の不備が社会問題になっていますが、これは「
中途半端な規模の病院がたくさんあるのが原因だ」と指摘する声も少なくありません。医療資源を地域の拠点病院一か所に集めれば、これらの問題も解消できます。一般的に、病院は集約化が進んでいる方が、スケールメリットによる資材調達費用の軽減など、経営環境においても改善が見られるといわれています。英国やカナダなど海外でも集約化と機能分担が進んでおり、医療資源が効率的に使われています。
厚生科学研究費補助金(医療技術評価総合研究事業)の2001年度総括研究報告書(主任研究者=田中哲郎・国立公衛生院母子保健学部長)によると、
夜間の救急患者の5割は小児です。ところが、それを診察する小児科医の数は全く足りていません。06年の時点で、全国の医師数約25万人のうち小児科医はたったの1.4万人(5.6%)。勤務医数で見ると、16万8327人のうち8228人(4.9%)しかいないのです。また、産科領域でも、産婦人科勤務医5361人、産科勤務医322人と少ない状況です。
しかも、体力的に元気な20代後半の医師が増えていないのです。20代後半の小児科医の数は、1996年は1522人、2004年は1519人と、ほとんど変わっていません。産科と産婦人科の勤務医は、1070人から837人と減少しています。
若い医師が増えないので、小児科医の高齢化が進んでいます。小児科医の平均年齢は、1982年は42.4歳、92年は44.5歳、2006年は49.0歳と上がる一方です。また、団塊世代の勤務医の定年退職もさらに続くので、小児科医不足はさらに深刻なものになります。医師数を大幅に増やす政策と集約化を同時に、しかも早急に進めなければ、各地で「無専門医地区」が発生してしまいます。
05年12月、厚生労働省、文部科学省、総務省が「小児科・産科における医療資源の重点化・集約化について」というタイトルの通達を各都道府県に出し、多くの都道府県は集約化に向けて医療対策協議会を立ち上げています。また、日本小児科学会も、二次医療圏を基本的な単位として地域小児科センターを整備し、集約化・重点化した上で、24時間365日体制の小児科医療を提供しようと提言しています。この提言では、「入院機能の集約化と外来機能の継続」をうたっており、「時間外・休日の救急外来や入院機能は集約化された施設が行うが、日中の外来診療は各地の病院小児科がこれまで通り実施する」としています。
―勤務医の過重労働問題も「集約化」である程度改善できますか。
過重労働に苦しむ医師たちと比較的ゆとりのある医師たちが、地域の拠点病院で一緒に診療を行えば、労働時間も平均化され、より効率的な医療サービスが提供できます。
医師の勤務時間を法定労働時間(週40時間)に収めた上で、24時間診療体制をつくるとなると、交代制にして医師を1人常駐させるだけでも、4.2人以上必要ということになります(168時間/40時間=4.2)。実際には最低7、8人の医師が勤務していなければ、各診療科の専門医による24時間365日体制の医療は提供できないということになります。現在、病院当たりの小児科医数は2人強。従って、3つ以上の病院の小児科を1つにするくらいの思い切った重点化が必要になります。
逆に言えば、現在の医療機関ごとの小児科医数では、24時間体制の診療は不可能です。すべての二次医療圏で小児科医の数が10人以上(勤務医・開業医の合計)いるのは、04年の時点で、栃木、茨城、岐阜、大阪、兵庫、鳥取、愛媛の7府県だけなのです。
―NICU(新生児集中治療管理室)はどこも満床だといわれていますが、この問題も集約化で解決できますか。
周産期の領域では、拠点病院への重点化と機能分担がある程度進んでいます。NICUを増やすためには、新しいポストと予算を用意して、周産期に携わる医師・看護師を増やす必要があります。
―「集約化を進めると、近所の病院がなくなって通院が不便になる」という声も出てくると思いますが。
小児救急医療の受診者は軽症患者が多く、時間外・休日の受診数は小児1人当たり年間1回程度です。また、入院のために二次搬送となる患者は受診者の5%前後にすぎません。従って、拠点病院から遠く離れた地域では、小児科医以外の医師がまず応急措置を行い、必要があれば拠点病院に搬送することで、対処は十分可能だと思われます。
地域医療の衰退を懸念する声もありますが、高速道路など交通網の整備により、地方から中核病院へのアクセスは以前と比べるとかなり改善されています。
受け入れてくれるかどうか分からない病院が近所に何か所もあるより、ちょっと遠くても「24時間365日、確実に受け入れてくれる病院」が一つある方が、患者にとっても医師にとってもメリットが大きいでしょう。
北海道の「小児科医療の重点化計画」で提示された小児科の重点化施設から、15歳未満の住民の居住市町村までの距離を測定すると、約9割の人が50キロ以内。車を使えば1時間以内に到着できる範囲に住んでいるのです。一番大事なことは、「いつでも必ず受け入れてくれること」だと思います。
もちろん、過疎地域の医療をなくしてはいけません。こうした地域にはプライマリーケアに強い医師を招聘したり、交通網を整備したりする必要があるでしょう。クマしか歩かないといわれている高速道路でも、地域医療においては重要なインフラなのです。
うーむ、そのとおりですねぇ。
今の現状、つまり医療費もそこまで変わらずに、小児救急医療の質を日本全体で保つためには、結局中途半端な病院を変えなきゃならんですな。現実的に考えて。
大病院の医師はどれだけ働かされるんだってくらい働いてますからねぇ。開業医や中堅クラスの病院が果たしてどこまで受け入れるのか、ということが不明瞭なため、結局大病院に送られて負担が増えている、という悪循環が一番困ります。
そのためにいっそのこと大病院に集約したらどうか、ということなのでしょう。
別の考えとしては、大病院はそのままに、中堅クラスの病院をグレードアップ、例えば地域の夜間診療を行っていない開業医が今以上に中堅クラスの病院を支えるとか。実際、余裕のある医師ってのはいますからね(小児科に限って言えば、少ないでしょうけれど)
あと10年、20年すれば多少なりとも医師不足も解消されるかもしれませんが、その10年の間にどれだけ医師の負担が増えるかと思うと、ゾッとします。応急処置的にパワーバランスを偏らせるのは、まぁ正しいかなと。