異常を拾い上げる能力 「5000人の胃がん検診をしたが、
1人も胃がんが見つからない」
ある検診の担当者からこんな相談を受け、国立がんセンターがん予防・検診研究センターの森山紀之センター長(59)は耳を疑った。
胃がん検診では、通
常700人から1500人に1人の割合で胃がんが見つかる。「見つけられるべきがんが、見落とされている可能性が高い」と直感した。撮影技術が低いか、フィルムに写っているがんを読影できていないか、どちらかだ。
検診を受けて異常なしと診断された直後に、自覚症状でがんに気づく例は枚挙にいとまがない。
早期胃癌検診協会の丸山雅一理事長(65)は「早急に全国の検査機関、検診実態を把握し、標準的な検診方法のガイドラインを示すべきだ」と指摘する。
がん検診の中で唯一、全国的に標準化された検診精度を実現しつつあるのが
乳がんだ。その読影講習会が今月21、22の2日間、名古屋市中区の国立病院機構名古屋医療センターで開かれた。主催はマンモグラフィ検診精度管理中央委員会(精中委)。外科や放射線科など49人の現役医師が受講した。
「この症例は一見おとなしく見えますが、要精密検査です。次の症例は、気にはなりますが、石灰化の形態や分布から良性と診断できます」
読影能力にたけた講師の声に集中する受講者。次々示されるマンモグラフィー(乳房X線撮影)フィルム。ルーペを使って食い入るように確認する受講者の姿から、その判断の難しさが伝わってくる。
精中委教育・研修委員長の遠藤登喜子名古屋医療センター放射線科部長(57)は「異常なしを異常なしと診断し、異常を異常と診断するのは難しい。だが、この力がもっとも重要」という。
講習は読影の訓練だけで終わらない。120分間で100症例300枚のフィルムを診断する読影試験を行い、受講者1人1人が合格点に達したかどうか評価される。
異常を拾い上げる能力と正常をふるい落とす能力が、ともに80%以上の精度であれば合格ラインB、85%以上でA。それ以下のC、Dと評価された受講者は半年後に再試験を受け、B以上を目指すことになる。
平成10年のスタート時から11月1日までに9514人が受講し、7408人が合格した。X線撮影を行う診療放射線技師を対象にした撮影技術講習会もあり、9月18日までに9788人が受講し6393人が合格した。来年4月からは、評価認定に5年ごとの更新制度を導入する。
がん予防・検診研究センターは16年2月から、最先端の技術で、がんをどの程度発見できるか調査を始めた。1年間に約3900人を検診し、192人から大小、何らかのがんが見つかった。実に20人に1人の割合だった。「予想よりも3倍から5倍多かった」と森山センター長。追跡して調べる必要がある“がんの芽”の多さを裏付ける数字といえる。
現在は、異常なしと診断された人から、1年後にどの程度がんが見つかるかの追跡調査中だ。マンモグラフィーの分野で定着しつつある読影と撮影の精度管理システムを、他の部位のがん検診に応用できないか研究も進めている。
「わずか3ミリの胃がんを必ず見つける必要はないが、
1年後の発見では手遅れになるがんは見つけたい。そのために必要な検診精度を導き出すにはまだ時間がかかる」
がん検診精度の研究は始まったばかりだ。
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日本人といえば胃がんです。昔は一番ヤバかったんですけれど、数年前に肺癌に追い抜かれたんですかね。それも、放射線科医の努力の賜物なのでしょう。胃がんは、早期発見できれば助かる病気になってきています。検診する医者も腕を磨くべきですし、自覚症状のない人でも積極的に検診に足を運ぶべきなんです。後悔するより行動、です。
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