腎臓移植じわり浸透 提供、年100人超 移植のため、
死後に腎臓を提供した人が、昨年110人となった。95年の日本臓器移植ネットワーク設立以降、100人を超えたのは初めてで、過去最多となった。移植コーディネーターや医師らの地道な活動に加え、「臓器提供は、権利の一つ」という新しい考えから、家族への説明の場で、患者本人の意思をくみ取ろうとする取り組みが浸透しつつある。臓器売買事件や病気腎移植の発覚で、不透明な印象を持たれがちな腎臓移植だが、理解は徐々に広まっているようだ。
●説明で権利・意思尊重 昨年の腎臓提供者110人のうち、8人が臓器移植法に基づく脳死からの提供、残りは心停止後だった。計197人に移植された。愛媛県宇和島市の病院で明らかになった臓器売買事件や病気腎移植が報じられた10月以降も29人いる。
約1万2千人の腎移植希望者に比べると、ほんの一部だが、ネットワークが95年に希望者登録を始めてから、脳死、心停止後の移植とも最も多かった。
福岡県の提供者は、愛知県の11人に次ぎ、全国で2番目に多い9人。
秋、脳卒中で脳死状態になった女性患者が県内の病院に運ばれた。回復の見込みがなくなり、医師が「手を尽くしましたが治療できることはなくなりました。ただ、臓器提供という選択肢は残っています」と話した。家族は、移植コーディネーターからの詳しい説明を望んだ。
間もなく、コーディネーターの岩田誠司さんが病院に到着。病室とは別の静かな部屋で、家族と向き合った。女性は臓器提供意思表示カードを持っておらず、脳死での移植はできない。岩田さんが「
カードがない場合でも心停止後に腎臓と眼球、膵臓の提供ができます」と説明すると、腎臓提供を申し出たという。
岩田さんは「どのような思いだったのでしょうか」と、家族に尋ねた。「昨夜、(臓器売買事件の)ニュースをみて移植の話をしたばかりでした。本人が機会があれば、協力したいと言っていました」という答えが返ってきた。
患者の家族に、移植の話をどう切り出せばいいのか。福岡県は一昨年、パンフレットをつくった。県内の主な救急病院や脳神経外科の医師や看護師に、家族へ渡してもらうように頼んでいる。岩田さんは「パンフレットを地方自治体がつくってくれたことの意義が大きい。かつての『提供すれば誰かの命を救うことになる』という説明ではなく、臓器提供を権利ととらえ、患者さんの意思を尊重するためだと考えている」。
A3判のパンフレットには「患者様やご家族の意思、権利を守るため、移植医療についてのお考えを確認させていただいております」とあり、家族が説明を希望すれば、コーディネーターに連絡が入る。この2年間に同県内で提供者となった16人のうち12人は、こうした情報を受けて提供を申し出た。パンフレット方式は宮崎県などでも始まっている。
●救急医の協力も好影響 実はネットワーク発足前の90年代前半まで、死後の腎臓提供者は年100人を超えていた。150人程度の提供があった時もある。当時、各地の移植医が地元の救急病院と連絡を取り合って地域ごとのネットワークをつくり、提供があると、移植医の患者に回すという暗黙のルールがあった。
その一方で、95年に臓器移植法成立を前提として、日本腎臓移植ネットワーク(現、日本臓器移植ネットワーク)ができた。公平性を保つため、全国一律の登録システムができたことで、逆に、提供者数は減り始める。
ある移植関係者は「家族の同意を取る手続きが厳密で、脳死の診断にも慎重さが求められるようになり、提供者が出にくくなった。救急医の協力を得るのが難しくなり、移植医も提供者を探そうとする動機がなくなった」と話す。宇和島徳洲会病院の万波誠医師が独自のネットワークをつくり、病気腎などの生体移植を行っていた背景に、こうした提供者数減少があったとの指摘もある。
救急医療の現場で、臓器移植の情報提供に悩む医師は少なくない。
「救急という役割と相反する移植を結びつけたくない」
「悲しむ家族に追い打ちをかけるようなことはしたくない」
だが、移植に救急医の協力は欠かせず、理解も深まりつつある。
昨年6人の提供者があった北海道。04年以降、道の提供者20人のうち13人にかかわっている救急医がいる。
札幌市立札幌病院救命救急センターの鹿野恒医師は、04年から臨床的に脳死と診断され医学的に移植可能な患者の家族には必ず臓器提供の説明をしている。「救急医は残された家族の気持ちや今後何を望むかをくみ取る必要がある。臓器提供の希望があっても申し出ることができない家族もいる」と話している。
脳死と診断された後、「長くて1カ月、通常1〜2週間で亡くなります。皆さんとこれからの終末期医療を考えましょう」。患者の意思や意思表示カードを持っているかを確認していない場合、「臓器を提供することもでき、移植コーディネーターの説明を聞くことができる」と加える。
決して言わないのは「臓器が不足している」などの移植の現状だ。
鹿野さんは札幌医大病院に勤務していた時を含め13人の家族に同意してもらった。うち11人は説明がきっかけで申し出たケースという。
提供者が100人を超えたことに、日本臓器移植ネットワークの菊地耕三理事は「提供病院への情報提供や社会への普及啓発といった効果がようやく表れてきた」と話している。
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現実は難しいです。臓器が足りない、じゃあ臓器を募集しよう!なんて出来るはずもありません。移植コーディネーター、医療従事者は、患者だけでなくその周囲にいる人に、説明せねばなりません。最愛の人が命を失おうとしている状況でありながらも、臓器移植の道を提示する、しかし単に提示するだけではなく家族のことを念頭において説明する。そのさじ加減は経験で身につくものというより、やはり医者や移植コーディネーターの人間性でしょう。
腎移植が年間100件を越えたのはとても誉れ高いことです。この数字は、提供してくださった人の魂と、同意してくれた家族、更には陰ながら橋渡しに徹した移植コーディネーターと医師の力があって達成されたことです。年間1万人以上の患者が腎臓を欲している中で、どこまで移植件数を増やすことができるのかは分かりませんが、目の前にある命、目に見えないながらもどこかで確実に生きている命を「救う」という意識が、腎臓移植をより広げると信じています。
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