[大学]の記事一覧

2009年10月07日

名古屋大学病院で男児の遺体を巡って問題が生じる。

男児遺体安置問題 名大病院、遺族に1日2万円請求

 名古屋大病院(名古屋市昭和区)で死亡した中国籍の1歳男児の遺体が2カ月以上にわたって病院内に安置されている問題で、病院側が男児の遺族に対し「遺体を引き取らなければ、1日あたり2万円を請求する」などとする内容証明付き文書を送っていたことがわかった。遺族が望む病院外の中立の立場の医師による解剖はめどが立たないままで、遺族側は不信感を強めている。

 文書は病院側代理人の弁護士名で9月7日付。「貴殿らは埋葬・火葬の義務があり、このままではご遺体を遺棄されたとの評価にもなりかねない」として、1週間以内の引き取りを要請している。

 遺族が医療過誤を主張している点については「法律上、過誤の有無と遺体引き取り義務は全く別」と指摘し、「賠償を条件にされてご遺体を引き取られないということは、威力によって当院の業務を妨害するもの」と主張。その上で、文書が届いてから引き取られるまでの間、1日あたり2万円を支払うよう要求している。一方、遺族側は、現時点では賠償を求めていないとしている。

 病院側の弁護士は朝日新聞の取材に応じ、「1カ月以上も進展がない中、ちゅうちょもあったが、打開策として病院側の考えを示す必要があった」と語った。金銭を求めたのは「遺体の早期引き取りを促す意味合いだった」とし、金額の根拠は「一般の葬儀社が遺体を保管する場合の平均」と説明した。

 文書の内容に驚いた遺族は、文書の原本を病院に突き返したという。母親(43)は「子どもに何が起きたのか知りたいだけなのに。なぜ、お金目当てのように言われなければならないのか」と悔しさをにじませる。遺体は、病院内に2室ある霊安室のうち1室で低温保管され、遺族は今も毎日、霊安室に通っているという。

 病院側は「遺族が推す医師立ち会いの下、解剖する案を遺族に再三確認したが、回答がなかった」と説明している。しかし、母親は「身近にそんな医師はおらず、死亡当日に断った話。その後も打診を受けた記憶はない」と、言い分は対立している。

 同病院の松尾清一院長は「遺体の引き取りが進展すれば、内容証明郵便を撤回する」としつつ、文書の内容について謝罪するかどうかは「現段階ではコメントできない」と述べている。



 ようわからんですね。

 病院側は解剖しようと遺族にもちかけ、遺族は解剖を断ったにもかかわらず解剖をしろという

 中国籍ということは、そこらへんに何か言語的な齟齬があったんでしょうかね。

 話し合えば解決する内容だとは思いますが…。解剖せずに留置しておくというのも意味分からんですしね。

関連
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2009年10月06日

2009年度のノーベル医学生理学賞は「テロメアとテロメラーゼ」

ノーベル医学・生理学賞、染色体保護に関する発見で米国の3氏に

 スウェーデンのカロリンスカ研究所学は5日、今年のノーベル医学・生理学賞を、染色体の保護に関する発見をした米国のエリザベス・H・ブラックバーン、キャロル・W・グレイダー、ジャック・W・ショスタクの3氏に贈ると発表した。

 授賞理由は、「テロメアとテロメラーゼによる染色体保護機構の発見」。3氏は、細胞分裂時に染色体がどのようにコピーされ、分解されずに保護されていたかを解明した。

 遺伝情報が含まれる染色体の末端には、染色体を保護する役目を持つ「テロメア」という構造がある。この部分は細胞分裂のたびに長さが短くなり、ある限界を超えて短くなると染色体が不安定になる。しかし、酵素「テロメラーゼ」によりテロメアの修復が行われる

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校のブラックバーン教授とマサチューセッツ総合病院のショスタク教授は、テロメアのDNA配列を発見。また、ブラックバーン教授と米ジョンズ・ホプキンス大学のグレイダー教授は、テロメアを修復する酵素「テロメラーゼ」を単離、同定した

 細胞が「高齢化」すれば、染色体のテロメアが短くなる。逆に、テロメラーゼの働きが活発でテロメアが修復され続けば、細胞の老化を遅らせることができる。この現象は、分裂し続けるがん細胞にも大きく関係している。3氏の研究は、細胞分裂のメカニズムを解明し、がんをはじめとするさまざまな疾病の治療に寄与したことから、授賞対象となった。



 日本人は惜しくも、漏れてしまいましたが、今年の受賞はテロメアとテロメラーゼの構造解明によるものということです。

 おめでとうございます!!

 しかし、10年後ぐらいになるとはいえ、誰が受賞するか分からないものですなぁ。京大の山中教授はほぼ確実といわれていますが、その受賞もおそらく10年以上後になるでしょうね。

関連
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2009年10月04日

佐賀大学医学部で保育園児とのコミュニケーション実習を行う

佐大医学部生、保育園児とコミュニケーション実習

 佐賀市の佐賀大学医学部1年生が、同市大和町の「保育園ひなた村自然塾」(藤崎博喜園長)で、子どもとのコミュニケーションのとり方を学んでいる。将来の医者として必要な対人能力を養うのが狙い。

 現代の学生は少子化などの影響で、コミュニケーション能力の不足が指摘されているため、昨年から校外実習先に幼稚園や保育園が加わった。同園では学生100人が、9月25日から10月2日まで3班に分かれ、2日ずつ園児と触れ合っている。

 30日は、33人の学生が4、5歳児クラスで、子どもたちと一緒に体操をしたり、運動会で飾る万国旗を作った。運動会の親子競技の練習では、学生が「お父さん」「お母さん」になり、園児と一緒に歓声を上げた。

 小児科医を目指す鹿児島県出身の冨田宜孝さん(20)=佐賀市=は「子どもと遊ぶのは楽しく、つい夢中になってしまった。とても勉強になる」と話していた。



 医大でやるのは珍しいですねぇ。私はこういう保育園で子供たちと戯れるのって、高校生のときにやりました。

 実際、やっぱり医学部に入っても、医師として最大に求められるコミュニケーション能力がない学生というのは案外います。まあ今の日本の受験システムではどうしても、医師に向いている人よりも勉強が出来る人が集まりやすい傾向にあるので仕方ないといえば仕方ありません。

 こういう実習を各大学でやったら、今より少しはマシになるのかなとも思います。
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2009年09月28日

京大外科交流センターを設立し、若手医師にアピールする

京大外科 脱“白い巨塔”

 地方の医師不足や激務である外科医離れが深刻な問題になる中、京都大医学部(京都市左京区)の三つの外科が中心となって設立した全国でも例のない交流センターが本格的に動きだし、他大学や医療関係者から注目されている。各科の教授が決めていた大学関連病院の人事権や研修方法などを集約し、閉鎖的になりがちな医局の枠を超えて優秀な外科医を育て、地域に人材を適切に配置しようとする試みだ

 大学医学部では、教授を頂点とした医局が関連病院を含めた人事権を持ち、臨床研修なども縦割りで行ってきた。だが、新たな臨床研修制度が2004年から始まり、研修医が自由に病院を選べるようになったため、待遇が良く、症例の多い都市部の民間病院に人気が集中。医局に残る研修医が激減した。とりわけ外科は産婦人科などとともに、激務で訴訟になるリスクも高く、研修医に敬遠されて深刻な人材難に陥っている。

 こうした大学病院離れと外科医不足の解消を狙い、京大医学部の消化管、肝胆膵・移植、乳腺三外科の教授らが中心となり、06年12月に京大外科交流センターを設立した。徐々に会員を増やし、現在は三外科の卒業生などを中心に医師635人、京都や滋賀、大阪などの関連病院67法人が会員になっている

 8月には社団法人になり、新たな臨床研修制度(後期研修も含め5年間)を終えた医師が現場に出始める今年から、本格的に稼働している。

 柱は研修と人材配置。手術の技能向上のための実地研修を始めた。関連病院の医師ニーズや症例数などの情報を開示し、会員から希望者を募って引き合わせる人事調整も動きだしている。今後、職場情報のデータベース化や、女性医師も働きやすい就労環境の整備支援なども予定する。

 理事長の小泉欣也医師は「10年間の徒弟制度に耐えないと一人前の外科医になれないといわれたり、上からの命令で関連病院に行くような医局の慣習は若い医師から敬遠されている。きちんとしたプログラムで地域医療に貢献できる外科医を育てたい。将来的には他大学とも連携し、京都全体の外科交流センターにできれば」と話している。



 昔のように殿様気分で椅子に座っているだけの医局上層部には従いたくない(従わなくてもいい)というふうに、若い人は思っていると思います。

 本当に自分のスキルを養える場所、最良の医師になるための正しいステップを、自分で探すことが出来るようになったからこそ、医局側も古臭い体制を捨てて、変わらなければいけません。今ここで変われなかった医局には、誰も入らないでしょう。それは地方だからとか大学病院が不人気だからという理由ではなく、間違いなく「何も考えていなかったから」です。

 京大のこのシステムは大変素晴らしいと思います。運用さえ誤らなければ、万人に喜ばれるシステムです。
posted by さじ at 15:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | 大学

勤務医110番に大学院生や外科医から相談が相次ぐ。

勤務医110番に相談相次ぐ

 勤務医を中心につくる労働組合「全国医師ユニオン」(植山直人代表)は27日、「名ばかり管理職」や勤務医の労働条件に関する電話相談を受け付けた。長時間労働や頻繁な当直、残業代についてなど計29件の相談があった。

 ユニオンによると、大学病院や外科の勤務医からの相談が目立った大学院生が雇用契約を結ばずに無給で診療させられている▽医師としての勤務が厳しくて自殺したのに、過労死による労災が認められない▽患者の家族から脅迫があって精神的に参ってしまい働けなくなった、などの相談があったという。



 なんか、せつないですねぇ。

 確かに大学院生の問題が挙げられていますが、今でも無給で働かせているところも結構あるんじゃないですかね。ちゃんと考えているところは、給料を払っているようですけれども。

 勤務医は医師の中でも過酷なのですから、それなりの社会保障を考えていただきたいところです。

関連
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2009年09月27日

都道府県別の研修医募集定員を発表する。

研修医、6都府県合計4割切る

 厚生労働省は24日、2010年度の新卒医師の臨床研修制度について、都道府県別の募集定員を発表した。

 全国の定員総数は09年度より749人(約6・5%)少ない1万699人。04年度の同制度開始以降で初めて、東京や大阪など大都市を抱える6都府県の割合が全体の4割を下回った。同制度により、都市部の一般病院に研修医が集中し、地方の大学病院などで医師不足を招いたとの批判を受け、厚労省が偏在解消のため今回の募集から都道府県別の定員上限を設けており、その影響も出たとみられる。

 これまで研修医が集中していた東京、神奈川、愛知、京都、大阪、福岡の都市部6都府県の合計は全体の約39・7%で、09年度より1・6ポイント減少した。

 都道府県別で、募集定員の減少数が最も多かったのは、大阪の130人減(定員682人)、次いで愛知の116人減(同583人)、神奈川の81人減(同671人)。東京は33人減(同1511人)だった。増加数が多かったのは、埼玉の79人増(同421人)、石川の35人増(同168人)、鹿児島の30人増(同165人)など。埼玉はこれまで人口が多い割に研修医が少なく、今回は大幅に増員された。

 募集定員の上限は、人口や医学部定員に基づいて設定される。厚労省は今春に試算値を公表したが、初回となる来年度は激変緩和措置が取られるため、上限を上回る都道府県も多い。



 まあねえ。難しいんですけど。

 これで減らしてよくなるんだったらまぁ、いいかなぁと思いますけれども、根本的解決のためには、どこの病院も、研修医にとって魅力あるシステムにすべきなんですよね。

 まあどこで研修しても同じ、ってのはあるかもしれませんけれど、やっぱり研修医のために労力割いて考えている病院ってのは、地方でも人気ありますよ。研修医のために隔週ぐらいでトレーニング講座を開いているところとか。
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2009年09月12日

札幌医科大学とスキー連盟が連携協力協定を結ぶ。

大ジャンプ狙い医と連携=スキー連盟と札幌医科大が協定

 全日本スキー連盟(SAJ)と札幌医科大学が、ノルディックスキー・ジャンプの競技力向上を目指して連携協力協定を結んだ。札幌・大倉山ジャンプ競技場をジャンプの競技別強化拠点「ナショナルトレーニングセンター」とする事業の一環で、来年2月のバンクーバー冬季五輪などで飛躍を目指す選手の力を引き出すことが狙いだ。

 札幌医科大は国内でいち早く、運動療法や物理療法で身体機能の改善を促す「理学療法学」の講座を大学院に開設。整形外科医と理学療法士が綿密に連携して、スポーツ医学の研究や臨床、教育に力を注いでいる。

 また、初代学長の大野精七氏はSAJ設立や1972年札幌五輪の開催に尽力。以前から大学の整形外科医や理学療法士らが個別に有力選手を支援したり、冬季五輪の日本選手団で医療スタッフを務めたりと、スキーとのつながりは深い。

 今後は、既に着手している選手個々の身体的データの計測や栄養管理、トレーニング法の指導などのほか、連携する分野を広げていく方向。片寄正樹教授(臨床理学療法学)は「女子選手に婦人科から助言したり、必要に応じて呼吸や神経科学の専門家が診たりと、大学にあるリソース(資源)を活用したい」と話す。

 両者の協定は、選手の支援で得た情報を一般市民の健康増進に応用することも視野に入れる。SAJの笠谷幸生競技本部長は「アスリートの研究が予防医学につながるのであれば、必要に応じて(大学側の要望に)協力していきたい」と言う。



 札幌医大、やりますねー。

 スポーツも科学ですからね。トレーニングや、特にスキーなどのように技術力を要求される競技では、医学と連携するのは賢い。どんなスポーツもそうですけれど、医科大学が力を注いでいる点が凄いですね。日本選手に不利になってきたと言われているジャンプですが、頑張ってほしいです。
posted by さじ at 07:44 | Comment(0) | TrackBack(0) | 大学

2009年09月10日

外来患者の約6割が受診した病院に満足している

外来患者の約6割が病院に「満足」

 外来患者の約6割が受診した病院に満足していることが、厚生労働省が7日までにまとめた2008年受療行動調査の概況で分かった。

 調査は昨年10月21-23日に、全国484の一般病院(特定機能病院、大病院、中病院、小病院、療養病床を有する病院)にかかっている外来・入院患者20万75人を対象に実施。15万4185人(外来患者10万946人、入院患者5万3239人)から有効回答を得た。

 それによると、外来患者に受診した病院に「満足」しているかを尋ねたところ、「満足」が58.0%で半数を超え、これに「ふつう」29.0%、「不満」5.4%などが続いた。

 病院種類別に見ると、「満足」の割合が最も高かったのは特定機能病院の63.2%で、以下は小病院61.2%、大病院59.3%など。

 項目別に外来患者の満足度を見ると、「看護師、その他の病院職員による看護や対応」「医師との対話」「医師による診療・治療内容」について「満足」と回答した患者は5割を超えた(それぞれ57.6%、57.0%、55.7%)。一方、「待ち時間」では「不満足」30.6%、「満足」24.4%、「診療・治療に要した費用」では「不満足」24.0%、「満足」14.4%と、いずれも「不満足」が「満足」を上回った。

 また、外来・入院患者に対し、過去5年間にかかったことのある医療機関で不満を感じた時に誰に相談したかを尋ねたところ(複数回答)、「主治医」が71.1%で最も多く、これに「家族・友人・知人」62.3%、「別の医師」36.7%などが続いた。

 相談相手別に見ると、相談した結果「役立った」のは「主治医」が74.6%と最も多く、以下は「家族・友人・知人」60.9%、「医療機関のスタッフ」56.4%などだった。

 さらに、外来患者に診察時間について尋ねたところ、「3分以上10分未満」が53.4%で最も多く、以下は「10分以上20分未満」16.4%、「3分未満」13.6%などが続いた。

 診察前の待ち時間については、「30分以上1時間未満」が24.5%で最も多く、次いで「15分以上30分未満」23.5%、「15分未満」20.7%など。

 厚労省では、診察時間の「3分未満」が05年の前回調査から2.8ポイント低下する一方、「3分以上10分未満」「10分以上20分未満」がそれぞれ2.8ポイント、2.4ポイント上昇しているなどと指摘。「無回答」の割合を考慮に入れる必要があるとしながらも、医療機関側が「3分診療」を避けて診察時間を長くしようとした結果とも推測できるとしている。



 大きな病院だと、3分診療どころじゃないですけどね。しかし診療時間を長くすると、待ち時間も長くなる、という悪循環。

 でも今は結構いい具合までいってるんじゃないですかね。折衷案というか。6割が満足、というのをどうとるか、ですけど。私自身、病院の外来は待ち時間長いし、面倒だと感じる点はありますが、仕方ないとも思ってますからね。医者側としては、6割が満足ならいいかなーという気もしますし、病院側としては、残り4割のために何かもっとできることがあるんじゃないかと模索する、そういう姿勢でいいと思います。

 もっと細かい単位で時間を教えてくれれば一番いいんですけどね。人数だけでも表示するとか。

関連
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医学処:「外来5分ルール」が医療従事者に不評な理由
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posted by さじ at 08:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | 大学

2009年09月08日

島根県の外科医師養成に向け、島根外科ネットワークを設立する

島根外科ネット設立 専門技術学ぶ環境整備へ

 島根県内の20医療機関と島根大医学部、県が、島根外科ネットワークを設立した。外科医師の養成、働きやすい環境づくりの実現に向け連携する。

 出雲市で5日あった初会合には、県内全域から基幹病院の院長や副院長、県健康福祉部の錦織厚雄部長らが出席。会則を定め、代表世話人に中川正久・県参与を選んだ。

 県医療対策課によると、昨年10月現在、県内の病院勤務の外科医師は113人で、2年間で10人減。「松江、出雲両市を除くすべての地域で不足している状況」という。若い医師は、指導医がいて多くの症例を経験するなかで技能向上が図れる都市部の病院を目指す傾向が強いという

 組織の枠を超えて症例を学びあえる態勢をつくり、若い医師が専門的技能も身につけられる環境を整え、中長期的視点で医師確保に結び付けていくことを確認。事務局を島根大医学部の消化器・総合外科に置く。世話人会(5人)を中心に具体的事業を決めていく。

 会合では、県西部の病院が現在、直面している医師不足の早急な解決をネットワークの活動の柱にするよう求める意見も出された。発起人の田中恒夫教授は「若い研修医に専門医になれるんだ、という環境をアピールし、残ってもらえるようにしたい。ひいては各地域で外科医師が増えることにつながる」と話している。



 こういう画期的な案を待っていました。地方だからといって専門医療が都市部に劣るわけではないとは思いますが、都市部に比べると若手をひきつけるために本気で考えてこなかった感は否めません。

 こうやって、本腰入れて、若手育成のために組織が協力してネットワークを立ち上げる。素晴らしいことだと思います。案外都市部にいくよりも伸びるかもしれませんね。短絡的に考えるのではなく未来を見据えて行動することが大事です。
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2009年08月04日

福島県立医大で、胃管と間違えて静脈に空気を入れる医療ミス。

医療ミスで2歳男児が意識不明 福島県立医大

 福島県立医大は3日、付属病院で7月に実施した県内の男児(2)の手術で、誤って静脈に空気を注入する医療ミスがあったと発表した。男児は意識不明の状態が続いているという。

 同大によると、7月29日、男児の胃食道逆流症を治療する手術を実施。20代の女性麻酔科医が胃に空気を送ろうとした際、鼻から胃につながるチューブを使用しないといけないのに、右足から静脈につながる別のチューブに注射器で空気100ミリリットルを送ってしまった

 それぞれのチューブは太さがほぼ同じ。男児の体に手術用のシーツがかかっていたため、麻酔科医が手探りでチューブを選び、注入したという。麻酔科医は「正しいチューブと信じてしまった」と話している。

 同病院は、注射器の色を変える措置を取り、来週には外部専門家による調査委員会を立ち上げる予定。



 確かに手術時の麻酔科パートはごちゃごちゃしていますが…胃管とルートを間違えて空気を注入してしまうってのは・・・。

 未然に防げた事故です。二度とこういうことが起こらないよう、全国的に対策してほしいですね。色を変えるとか、形を別にするとか、対策方法はいろいろあるでしょうから。

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光駆動ナノマシンで赤血球の解剖に成功した名古屋大学

光駆動ナノマシン 光で操る“細菌サイズ”ロボ

 細菌サイズの医療用ロボットが、患者の体内に入り込んで病気を治してくれる−。SF映画「ミクロの決死圏」(1966年公開)のような医療技術が、実現しようとしている。名古屋大学工学研究科の生田幸士教授が開発した「光駆動ナノマシン」だ。光で加工し、光で動かすのが特徴で、今年2月には、世界で初めてロボットによる赤血球の解剖にも成功。さまざまな病気の治療法が、根本的に変わるかもしれない。

 「このカブトムシやロボットは細菌とほぼ同じサイズです。微細な立体加工技術がナノマシンを実現しました」

 顕微鏡の写真を見せながら、生田さんは語る。

 物質をナノメートル(100万分の1ミリ)レベルの分解能で加工するナノテクノロジーは、主に半導体分野で発展してきた。この分野は平面加工が中心だが、生田さんは「立体を作りたい」と考えた。長年、医療ロボットの研究に携り、ナノテク応用の必要性を感じていたからだ。

 精緻な立体加工を可能にしたのが、92年に開発した世界初の「マイクロ光造形法」という技術。紫外線照射で液体から固体に変化する性質を持つ光硬化樹脂に、凸レンズを通して紫外線レーザーを当てる方法で、液体樹脂内の焦点部分だけが透明に硬化する。液体部分を洗い流すだけで設計図通りの3次元構造が完成する。

 開発当初の分解能は5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)だったが、その後の研究で約50倍の100ナノメートルレベルまで向上した。光造形法の利点は、光学顕微鏡程度の装置で時間も手間もかけず製造できることで、現在はナノレベル立体加工技術の主流となっている。

 医療用ロボットとして動く原理は、微小世界で作用する物質のユニークな性質を利用した。

 「液体の中に置いて赤外線レーザーを照射し、部品内で焦点を結ぶ。レーザーの焦点を動かすと、部品はそれに追従して動く」

 レーザートラップと呼ばれ、物体が透明かつ微小な場合に初めて可能になる。これを応用することで光駆動ナノマシンが実現した。



 はー。人類の歴史は地球の歴史に比べたら浅いものですが、100年前と比べて、なんという進歩でしょう。

 あと10年、20年後に、このナノマシンで治療法が出来ていても何にも不思議ではありません。

 抗生物質の発見もわずか80年前。CTやMRIに至ってはほんの何十年かの歴史しかありません。人間の想像できることなら何でも実現可能、と誰か言っていましたけれど、医療においてもそうなのかもしれませんね。

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2009年07月24日

医学部の入学定員を更に増加し、8855人に。

医学部の入学定員、8855人の計画…文科省

 文部科学省は17日、全国の国公私立大の医学部の来年度の入学定員について、過去最多だった今春からさらに最大369人増員し、8855人とする計画を発表した

 医師不足に対応するため今後10年間、増員を続ける方針。卒後も一定期間は地域にとどまる条件を課すなどして医師偏在の解消を目指す。

 塩谷文科相が17日午前、地域医療に関する関係閣僚会議で明らかにした。増員の内訳は、〈1〉各都道府県7人以内の「地域医療枠」(最大329人)〈2〉各大学3人を上限に、臨床現場には出ない研究医を養成する「研究枠」(同10人)〈3〉併設の歯学部で定員を減らした場合に医学部の増員を認める「歯学代替枠」(同30人)――の計369人。

 地域医療枠は、勤務地を一定期間限定した入学枠を設ける大学などが対象。従来は、都道府県が地元大学だけを対象に割り振り先や人数を決めていたが、今回は、ほかの地域にある大学から派遣された医師も地域医療を支えている実態を踏まえ、7人のうち2人までは別の都道府県にある大学にも割り振れるようにした。

 研究枠は、臨床医不足の余波で再生医療など最先端の研究を担う研究医が不足していることに対応する初めての措置。文科省は再来年度以降も今回の増員幅を維持した上で、必要に応じさらなる上乗せも検討する。



 確かに増えすぎた歯科医よりは医師を増やしたほうがいいかもしれませんが・・・。

 医学生が増えるということは国が負担する補助金も著しく増えることになりますが、その点は大丈夫なんでしょうか。それを各大学ごとに負担させるのならばお話になりません。

 研究枠はよくわからんですねぇ。臨床に出るか研究をするかは医学をある程度理解しないと決められないものだと思いますし。頭がたいそう良くても人格的に臨床医に向いていない人をそっちに回して合格させるのは合理的といえば合理的ですが。
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2009年06月14日

山中教授が京都大学にiPS細胞バンクを設立する構想

5年以内に移植用「iPS細胞バンク」 山中教授が構想

 京都大学の山中伸弥教授は4日、新型の万能細胞(iPS細胞)を再生医療などに使うため、移植用の細胞をあらかじめ蓄積しておく「iPS細胞バンク」を、5年以内に京都大に整備する構想を明らかにした。東京都内で開かれた講演会で話した。

 構想では、健康な人から皮膚細胞などを提供してもらい、あらかじめ約50種類のiPS細胞を準備、再生医療や臨床研究に迅速に利用できるように備える。50種類の細胞を用意しておけば、日本人の9割が拒絶反応を心配せずに移植治療を受けられることがわかっている

 iPS細胞にかかわる研究や実用化の分野は、1件当たり数億〜数百億が見込まれる政府の最先端研究助成の有力候補といわれている。



 結構臨床応用までに時間がかかるのかな、と思っていましたけれど、5年以内にバンク設立ということは10年以内にはかなり実用化されるのでしょうか。

 iPS細胞ぐらい大きな研究だとやはり実用化されたときに大きな変革が訪れるでしょう。

 もちろん副作用だとかを考えて慎重にならざるをえませんが、医療は苦しんでいる患者さんのためのもの。できるだけ早めの臨床応用に期待したいところです。

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2009年05月28日

宮崎大学医学部が臨床技術トレーニングセンターを開設する

臨床技術訓練所を開設 宮崎大学医学部

 宮崎大医学部(清武町)は、学生や研修医が救急医療や診察、治療方法を学ぶ「臨床技術トレーニングセンター」を開設した。実際に患者を診察する前に技術を身に着けるとともに、若手医師らに医療への関心をより深めてもらうことが狙い。

 センターは同学部福利棟2階を改装して活用。以前からあった上半身、下半身、腕など体の各部位の形をした訓練器具に加え、肺疾患を調べる気管支鏡、胃カメラを体験できるシミュレーター、気管切開や乳児の気道管理を学ぶ模型(トレーナー)などを新たに導入した。改装及び機材購入費は計約7000万円

 例えば、気管支鏡のシミュレーターは、装置に内視鏡を入れると気管支が画面に映し出され、無理な操作をすると装置が患者のせきのような音を発する。また、心肺蘇生法を学ぶ模型は、心臓マッサージの位置や強度、早さが適切かどうかなどをランプで知らせる。こうした装置により、誤りを確認しながら、技術を体得できる。

 同センターによると、日本の医学教育はこれまで講義中心で、知識偏重の傾向があった。臨床実習は教授や医師らが治療する様子を見て学び、その後、教授らの指導の下で、実際に治療する形だった。

 センター開設で、学生や研修医は実際に治療に当たる前に練習できるようになる。〈1〉危険がない〈2〉時間を掛け、繰り返し訓練できる〈3〉チームによる治療を訓練できる――といったメリットがあるという。

 同学部は今後、高校生など大学外への開放や、他大学と合同の専門医養成にも取り組む計画。

 センターは25日、報道陣に公開された。同学部医学教育改革推進センターの小松弘幸准教授は「充実した設備を持つことで、若い人が医学により興味を持ち、さらに医師の確保にもつながれば」と話していた。



 心臓マッサージの人形などはよくあるでしょうけれど、気管支鏡のトレーニング器具まで完備しているとは。確かに若手医師は患者さんに触れながら学んでいきますけれど、こういう手技はできるだけ危険のない方法で習得していったほうが安全ですからね。

 こういうセンターを有効活用できるようになると良医育成が促進しそうです。決して無駄な出費ではないです。

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2009年05月27日

日本でも第三者機関が医師の配置を行うようになるかも

医師配置、新機関で…厚労省研究班が提言

 医師不足や地域、診療科による偏在を解消するための抜本対策として、医師の計画配置がクローズアップされている。

 多くの先進国が何らかの計画的な医師配置策を取っているなか、厚生労働省研究班(班長=土屋了介・国立がんセンター中央病院院長)もこのほど、日本でも第三者機関が診療科ごとの専門医数などを定める計画的な医師養成を行うべきだとの提言を打ち出し、さらに論議が高まりそうだ。

 厚労省研究班は、舛添厚労相の諮問機関である「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化検討会が2008年9月、医学部定員の1・5倍増などの提言を打ち出したのを受け、発足。質の高い専門医を養成するための制度改革などについて検討を重ねた。

 報告書では、〈1〉専門医の質の向上を図る〈2〉患者を幅広く診ることができる家庭医・総合医を養成する――ことなどを掲げたが、その具体策として打ち出したのが、専門医の定数を定め、計画的に養成するための第三者機関の設立だ。

 現在の専門医制度は、各診療科の学会が独自に認定。選考基準もまちまちで、定数も決まっていない。これが、産科や小児科、外科など激務の診療科で医師が不足する原因にもなっている。

 研究班は、専門病院や学会、医学部、開業医、自治体らで組織する「卒後医学教育認定機構(仮称)」の設立を提言。地域ごとに、患者数に応じた適正な数の専門医が養成されるよう、研修病院に対し定員枠の策定を求める。

 先進諸国の多くは、診療科や地域ごとに専門医の数を決めるなど、医師を計画的に配置する何らかの仕組みを設けている。フランスなどでは国による専門医数の規制が行われているほか、米国では医師らで作る第三者機関が専門医の養成数を定めている。

 医師に診療科や地域ごとの定数を設けることについては、「職業選択の自由を奪うのではないか」、「居住地の自由もないのか」など、医師の自由意思を無視した強制的な配置ではないかとの誤解に基づく、反発の声も一部に聞かれる。

 研究班では、医師が診療科や勤務場所を自由に選べる日本のように「市場に委ねる方法では、医師の配置は最適化されない」としたうえで、「強制的に行われるものではなく、患者数などに基づいて必要な専門医を養成することで、適正な医師配置に結びつけようとするもの」(土屋班長)と説明する。

 国は今年度の医学部入学定員を昨春より693人増やし、過去最高の8486人に増員。また初期研修について、来年度から都道府県ごとの募集定員の上限を設けるなど、「医師不足対策」を講じているが、いずれも診療科別の定数などを規制するものではなく、医師不足・偏在解消の抜本策とはならない。

 厚労省は、「今回の研究班提言を踏まえながら専門医のあり方を検討していきたい」(医政局総務課)としている。

 医師不足や偏在の影響は、とりわけ地方の救急現場などで深刻な人手不足となって表れている。鳥取大病院(米子市)救命救急センターでは今年3月末、人手不足などによる激務を理由に、八木啓一教授以下4人の医師が一斉に辞職する事態に見舞われた。

 同センターは専任の救急医7人に応援医師を加えた9人態勢で、年間約900人の救急患者を受け入れていたのが、2006年秋に2人が退職。月6回の宿直回数は10回ほどに増え、残った医師の負担は大きくなった。現在、横浜市立みなと赤十字病院救命救急センター長を務める八木医師は「救急専門医を育てようと頑張ったが、医師が集まらず心が折れた」と振り返る。

 厚生労働省による06年の調査によると、日本の医師数は27万8000人と10年前に比べ約15%増えているのに対し、勤務が厳しいとされる外科、産科医は8〜10%減少。また救急医は、最低でも約5000人が必要との試算もあるのに対し約1700人しかおらず、慢性的な医師不足状態にあえいでいる。

 鳥取大病院救命救急センターは現在、新しい救急医1人に、外科や整形外科などからの応援で急場をしのいでいる。豊島良太・同大病院院長は「何らかの医師配置の仕組みがないと、地方での医師確保は難しい」と話す。



 だいたい、いいんじゃないですかね。

 科ごとの人数を決めて、実力順に埋めていけば、生涯学習を怠っているやる気のない医師以外はだいたいやりたいところに行けるわけですし。

 開業医と勤務医もやっていることのレベルが全然違うわけですからねぇ。そこらへんうまく金銭面や義務の格差化でうまく調整できればいいんですけれども。
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2009年05月25日

医療クラークの導入で勤務医の過重労働を軽減できるか

医療クラーク導入は勤務医の過重労働軽減となるか

 岩手県は四国四県に匹敵する広い県土に,二十二県立病院,五診療所があり,九つある二次医療圏の基幹病院として県民の医療を担ってきた

 県立病院全体では常勤医五百三十人が勤務していたが,今年もこの三月で大学人事を除き約一割,五十名ほどの医師が退職し,多くは開業医となる

 面積一平方キロメートル当たりの医師数を医師密度というが,岩手県は〇・一七人で北海道に次いで二番目に少なく,東京都の約一〇〇分の一である

 岩手県では,都会の医師不足とは異なり,医師不足イコール医療不足となっている.診療科の閉鎖は,産婦人科,小児科だけでなく,基幹となる内科,外科にも及び,五つある県立地域診療センターは四月から無床化された.医療の集約化など抜本的な対策が急務となっているが,現状では県立病院から他の県立病院への診療応援で何とか綱渡りをして凌いでいる.

 センター病院である当院からは,二〇〇七年度二千二百三十八件の診療応援を行った.一日七名前後の医師が,それぞれの地域に診療応援を行っている計算となり,留守を守る医師たちの負担も限界に達している.

 未曾有の高齢化社会,医療技術の進歩,高度医療の推進,平均在院日数の短縮,診療録の記載や患者への説明書類の作成,画像検査の予約,入退院サマリーや診断書,保険書類の作成など事務的な作業の増加により,医師の業務量は極めて増大している.

 劣悪な勤務環境と過剰労働に耐えかねて開業に向かう中堅医師の増加により,残された医師にますます過剰な負担がかかり,各地で診療科の閉鎖などが起こっている.勤務医の病院離れは進行し,新規開業が大都市圏を中心に集中している.開業の動機は,勤務医の処遇に対する不満とあらゆる束縛からの解放と都会志向であり,収入の増加も期待している.

 これまで日本の医療の質は医師の個人的な努力によって支えられてきた.医師や看護師は患者救済,弱者救済という使命感,倫理観を持って,劣悪な環境,安月給にもかかわらず献身的に医療を支えてきた.

 最近,医師や看護師の誇りを奪うようなクレームが増加し,勤務意欲を削ぎ,医療崩壊へと向かう大きな要因となっている.個人の努力には限界があり,劣悪な労働環境では職員の満足度の向上は望めず,職員の満足度が上がらなければ,患者の満足度が上がるはずがない.

 厚生労働省は,大規模病院勤務医の業務負担軽減を目的に,医師の事務を補助する医療クラークを平成二十年四月から診療報酬の対象にした.

 当院は七十五対一で始めることとなり,平成二十年四月,十名の医療クラークを採用した.医療クラークを導入して十カ月後の調査では,各診療科において,以下の事項について勤務軽減が図られたとの結果であった.

 文書作成関係では,診断書作成補助,退院証明書作成補助,退院サマリー文書作成補助,紹介状の返書の手配・宛名書き等作成補助など.医師が検査,手術等の同意書の説明と同意取得の際,医師が説明した内容を入力し,プリントアウトし,患者に署名をしてもらう.

 DPC入力補助,がん登録・脳卒中登録の登録補助,手術室の麻酔記録原簿の作成,心カテデータ入力など.

 各種カンファランスの準備,学会提出に必要なデータベース入力,学会発表用パワーポイント作成補助,検査伝票の整理・カルテへの添付,返却フィルムの管理と返却確認などが挙げられた.

 実際,勤務医の労働時間が減少したかどうかは不明であるが,看護師の業務は整理でき,医師は診療に集中する時間が長くなったように感じる

 現在,医療クラークに国家資格は設けられていないが,研修体制を強化することにより,医師と患者とのパイプ役としての役割を期待したい.インフォームド・コンセントの際同席し,患者の理解度を補足したり,患者の疑問や要望を医師に伝える役目も期待される.

 国民が医療に求めていることは,安全で質の高い医療であり,医療の平等性(どこでも,だれでも,診てもらえること)であり,医療費の抑制(安価でかかれること)である.この三点を同時に実現することは不可能である.医療はサービス業ではなく,必要な医療を求める行為は,商品を求める消費者行為とは根本的に異なる.

 医療者には,奉仕の精神と慈悲の心,良心的誠意が根本にある.ノーブレスオブリージュは,地位や身分に相応した重い責務,義務という意味の仏語であるが,志を高く地域医療を支えているのは,この精神である.医師である限り,地域医療を守るために頑張りたい.



 素晴らしい文章。岩手県立中央病院の望月泉副院長による文章です。

 「日本の医療の質は医師の個人的な努力によって支えられてきた」、まさにそのとおりだと思います。今まで日本の医療が世界最高レベルで誰にでも安価に提供できていたのは、ひとえに医師一人一人の努力によるものです。

 しかし何故か「医者バッシング」が加速し、医者は不当に儲けているとか、そういう馬鹿けたことを言われたり、医師が患者と対等にあろうとすればするほど、患者側から理不尽なクレームがついたりするようになりました。

 それが今の日本の現状であり、そんなところで過酷な勤務医を続けているのはやってられん、と開業に走る。それでも岩手県のような過疎地域で勤務医を続けておられる方は素晴らしく献身的だと思います。

 今まででしたら、過酷な勤務医をやめて開業に走るという選択は、残った医師に全ての仕事を押し付けて自分だけ楽しようという浅ましい考えによるところなどが多かったと思います。でも今は理不尽に押し込められているので、要するに「お上への反抗」的な意味で開業する人が増えているのかもしれません。それほどまでに過酷、激務、薄給なのが勤務医なのです。そういう状況にいろ、とは他人が言える状況ではないのです。

 医療クラークの普及、導入で、少しでも勤務医の労働を減らし、医療に専念する、というのも全国でやらなければならないことの1つだと思います。ホント無駄な書類書きのような、医療と呼べないような雑務が多いですからね。
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2009年05月24日

東邦大学で小学生を対象に夏の医学校を開催する。

東邦大医学部が「小学生・夏の医学校」−AEDなど使う親子教室や看護体験

 東邦大学医学部が夏休み期間中の8月、同学部大森キャンパス(大田区大森西5)で「小学生・夏の医学校」を開く。

 同企画は、小学生が人間の体の仕組みや病院の仕事を学べる2日間の体験プログラム。医療の向上には子どもに人体や看護に対する興味を持ってもらうことが重要と考える同学部が、独自に企画した。

 開催は昨年8月に続く2回目。昨年の開催では、「普段は経験できない病院の見学や実験・実習に取り組んでもらえた。親子での参加であったため、勉強しながら親子のコミュニケーションも図れるという有意義な2日間になった」(同学部)。

 今回の内容は、初日の午前中に聴診器や血圧計の使用法を学び、AEDを使った救急蘇生法を体験。午後には「心臓の働き」「血液の働き」「微生物と人間の関係」の3つのテーマから参加者が希望する実験に挑戦する。講師は同学部のドクターと看護師らが務める予定。2日目は隣接する同大学医療センター大森病院で実際の仕事を見学し、看護師の仕事を体験する。

 開催日は8月7日・8日。対象は小学4年生〜6年生の親子ペアで、定員は60組。参加は2日間通しのみとなる。参加無料。現在、同大学大森学事部で往復はがきでの応募を受け付けている。締め切りは6月12日(必着)。応募者が定員を超えた場合は抽選となる。



 ナイスな試み。

 こういう試みを行って一般の方に医学と接してもらうことも大学病院ならでは、といったところでしょう。親子で楽しみながら医療に触れてもらいたいと思います。

関連
医学処:一般人がAEDを使う際にためらいが生じる可能性も
医学処:全国の学校の25%に、AEDを設置。
医学処:一般市民がAEDで救命させた人の一ヶ月生存率は42.5%
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2009年05月17日

京大病院で放射線の過放射による副作用が生じる。

京大病院で患者に過放射=下半身にしびれ、歩行困難に

 京都大付属病院で、放射線治療を受けた40代の男性がん患者に対し、過剰な放射線照射が行われていたことが14日、分かった。同病院は既に、患者に調査結果を報告し、病院の過失を認めて謝罪したという。

 同病院によると、患者は2003年11月に脳神経外科で脳腫瘍手術を受けた後、04年1月まで放射線治療科で放射線治療を受けた。昨年6月ごろから、下半身にしびれを感じるなどしたため、9月に同科に入院。病院が検査した結果、放射線治療時の過放射が原因だったことが判明した

 治療では、頭部から腰骨までを3つの部位に分割して放射線が照射されたが、分割設定の際につなぎ目を誤認し、一部重複して当てられていた。本来より約40%多く照射されており、下半身のしびれなど晩発性放射線脊髄炎を引き起こしたとみられる。

 患者は現在、同病院で治療を続けているが、歩行できない状態だという。 



 おうわー。こういうミスもなくなりませんね。。。

 いくらコンピューターが発達して便利になったといっても、まだ人為的な操作をするところが多いし警告もあいまいだったりで、なかなか難しいところもありますね。放射線治療は有用性もあるし便利なんですけれども。
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2009年05月13日

群馬県が県内で働く研修医らに資金を貸し出す。

研修医らへの資金貸与公募 群馬県、人材確保目指す

 群馬県内の基幹病院などで深刻化する医師不足を受け、県は前年度に引き続き、群馬の小児科、産婦人科、麻酔科で勤務する意欲のある研修医や大学院生を対象に「医師確保修学研修資金」の貸与希望者の募集を開始した。

 資金は、将来的に県内の公立病院などで、3科の医師として勤務する意志がある県内病院の研修医や、県内外の医科大学院生を対象に貸与する。

 貸与額は年額180万円で、新規と継続をあわせ28人を募集。審査を経て、最長4年間、継続される。貸与終了後は、県が指定する公立病院などに一定期間勤務すると資金の全額か、一部の返還が免除される。

 この制度は、人材を県内外から広く募集し、群馬に医師を定着させようと平成18年度に開始。20年度まで毎年度募集枠を広げ、追加募集も実施し、これまで延べ66人に貸与を行ってきた。

 一方で昨年末、小児科医に絞った5人の追加募集は2人の応募にとどまった。県医師確保対策室は「厳しい状況の診療科に1人でも多くの人材が集まるよう、応募を求めていきたい」などとしている。

 応募締め切りは5月29日。問い合わせは同室(電)027・226・2540。



 どこの県も苦労してます。医師不足を解消するために入学定員を増やしたりはしていますけれど、それで解消されるのは10年ほど待たないといけないでしょうしねぇ…。

関連
医学処:医師臨床研修に都道府県ごとの定員を定める案が出ている。
医学処:都心部の研修医募集定員を削減する方針。
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2009年04月17日

医学部での臨床実習を1500時間行うことを義務化する。

臨床実習1500時間義務化、在学中に実施…文科省検討会合意

 医学教育のあり方を検討している文部科学省の専門家検討会(座長・荒川正昭新潟大名誉教授)は13日、医学部在学中の「臨床実習」について、1500時間以上行うことを義務づける方向で大筋合意した。

 医師不足の一因になったとされる卒後の臨床研修は事実上、半分に短縮される形になったが、同研修で行われてきた基礎的な部分を卒前研修に組み込むことを狙ったという。同省は今後、大学設置基準の見直しなどを行い、新たな臨床研修制度と同様に2010年度スタートを目指す。

 臨床実習は、医学部5年目から始まるが、全国医学部長病院長会議の07年度の調査では、2250時間以上行っている大学が7大学ある一方、1500時間に満たない大学が27大学あるなど、大学によってばらつきがあった。特に、6年目は医師国家試験の受験対策に追われ、実習そのものが形骸化していると指摘されてきた。

 見直し案は、臨床実習の時間を増やすほか、内科や外科などの診療科目の実習を充実させ、実習終了時の到達目標を明確にする。

 また、臨床研修制度で必修から選択必修になる小児科や産婦人科などの分野についても在学中から体系的に学ぶこととし、卒業までに医師としての総合診療力を身に着けさせることを目指すとしている。

 一方、臨床実習に入る前に知識の習熟度を測る「共用試験」については、統一的な合格基準を設け、学生の質を担保する。



 卒前にいくら実習しても、卒後の研修とは全く別ものですからねぇ。。。

 とはいえやはり実習をやってみてわかることも、かなりありますからね。大学病院の外来に行ったり、入院したりすると、学生がいることがあります。医の道は教育が柱という面もあるので、大学病院は教育の場の1つでもあるのです。

 彼らは一生懸命に学ぼうとしています。臨床の場でふざける生徒というのはほぼ皆無です。患者さんから多くのことを学ばせてもらい、その実習内容がきっかけで今まで全く考えていなかった道へ進むということもしばしばあります。

 1500時間程度でしたらどこの大学も・・・って案外達成していないんですね。いやでもそれは「1日7,8時間」みたいな規定に則った報告をしてるからではないでしょうか。どこの大学でも手術と重なれば12時間を越える実習を行うでしょうし。

関連
医学処:聴診や触診を学べる、ヒト型の医療シミュレーターを販売する。
医学処:山形大学医学部でスチューデントドクター制度を導入する。
posted by さじ at 00:34 | Comment(0) | TrackBack(0) | 大学