というわけで、今年もこの季節がやってまいりました。
第104回医師国家試験。
全国で頑張ってきて、6年間で卒業を勝ち取ったもののみが受けられる、医師国家試験です。
去年版はこちら。
第103回医師国家試験を終えて、受験者の感想。 医師国家試験、と聞くと物凄く難しいイメージがありませんか。
まず医師国家試験の構成からご説明しましょう。
・問題数 問題は全部で500問です。そしてセンター試験のようなマーク式。
センター試験と異なる点は、回答が1個ではないというところでしょうか。
「次のうちから2つ選べ」「次のうちから3つ選べ」のように、複数選択になっている問題もあります。昔は、2つの組み合わせ、3つの組み合わせを5つのうちから選ぶだけという簡単なものでしたが、最近はそういう形式ではなく、自分で5つの中から2つ、または3つ選ばなければならない、というハードなものになってきています。
・出題者 出題者は大学病院の先生や、大きな病院の先生などです。厚生労働省から作成依頼を受け、作成します。それぞれの専門分野に則った問題が出題されます。
ここで問題となるのが、「情報の漏洩」です。
基本的には絶対漏らしてはいけないことです。厚生労働省が管轄する、れっきとした「国家試験」ですからね。
ですが、毎年のように1部、漏れます。予備校側がその情報をかぎつけたり、独自に分析して予想するのは構わないと思いますが、酷いのになると自分の大学の生徒に少しリークする、といった類のものもあります。医師として、というより社会的にやってはいけないことですが、厚生労働省が厳重に取り締まらないのは、何か裏であるのかな、と思ったりもしますが。実際どうなんでしょうね。
・結果 はっきり言ってしまえば、厚生労働省的に「何人を医者にするか」という大体の数は決まっています。厚生労働省の予算内で考えるなら8000人中1割ぐらい落とす、というのが近年の傾向でしょうか。
ではその基準はどうやって決めるのでしょうか。
1.一般・臨床問題 これは、500問中の大半を占める問題のことで、よくある医学的知識を聞く問題です。
一般問題、というのは、問題文が1行で、一問一答形式のもの、臨床問題は、患者さんの情報などが書かれていて答えを出す、いわゆる長文問題です。
医学的知識がないと解けないものですが、中には一般常識で解けるような問題もあります。逆に、参考書で勉強しているような人が選択できない問題というのもあったりするのです。例えば、この医学処を毎日見て下さっているような、医学に興味をお持ちの方ならば、医師国家試験といえど正解できるかもしれません。
一般問題の例を、今回の試験で挙げてみます。高病原性鳥インフルエンザについて正しいのはどれか。2つ選べ。
a インフルエンザ菌が原因である。
b 20世紀にパンデミックを起こした。
c 入院患者での致死率は5%以下である。
d 病鳥との密接な接触でヒトに感染する。
e 治療にノイラミニダーゼ阻害薬を用いる。
選べましたか?
高病原性鳥インフルエンザに関しては、医学部でもあまり教えることがないため、正解率はそんなに高くないとは思いますが、鳥インフルエンザに関するニュースを見たことのある人ならば、解けたのではないでしょうか。
答えはdeです。
次に、
臨床問題の例を挙げてみましょう。72歳の男性。進行する呼吸困難を主訴に来院した。
現病歴 : 5年前から階段昇降時の息切れを自覚するようになった。この頃から少量白色調の喀痰を認めた。冬季に感冒に罹ると喀痰が増量し、息切れが悪化する。年々息切れが進行し、家族と並んで平地を歩行していても、息切れのために会話が途切れるようになった。
既往歴 : 特記すべきことはない。
生活歴 : 喫煙は40本/日を50年間。飲酒は機会飲酒。
家族歴 : 特記すべきことはない。
現 症 : 意識は清明。体温36.4℃。脈拍76/分、整。血圧126/64mmHg。呼吸数 20/分。
検査所見 : 尿所見:蛋白(−)、糖(−)。血液所見:赤血球420万、Hb14.7g/dl、白血球6,700、血小板25万、血液生化学所見に異常を認めない。呼吸機能検査:%VC 84%、%FVC 65%、%FEV1.0 40%、FEV1.0% 45%、%RV 140%、 RV/TLC 50% 、%DLCO 40%、動脈血ガス分析(自発呼吸、room air): pH 7.36、PaO2 55 Torr、 PaCO2 48 Torr、 HCO3- 24mEq/l。
この患者に禁煙指導を行うこととした。説明として適切なのはどれか。3つ選べ。
a 「まず行うべき治療です」
b 「意志の弱い人が喫煙者となります」
c 「保険診療が適用できます」
d 「公費補助が受けられます」
e 「薬物治療も可能です」
こういった形式の問題が、いわゆる臨床問題です。
この問題も今年の試験からなのですが、文章は医学的専門用語ばかりでも、問われていることは要するに「禁煙指導にはどうしたらいいか」という医者の対応を問われています。最近の、禁煙に関する事柄をニュースなどで見たことのある方は、解けるのではないでしょうか?
答えはaceです。保険適用されているかどうか知らなかった医学生もいるかもしれませんが、当医学処を読んでいる方なら、禁煙治療が保険適用されているというのは知ってますよね
医学処:厚生労働省「禁煙治療を保険適用にしたけど、効果がなかったら取り消します」医学処:禁煙するのにオススメな病院をデータベース化。医学処:新禁煙補助薬「バレニクリン」を保険適用にする。 そして、一般問題、臨床問題、それぞれに「合格ライン」があって、まぁ大体毎年63%ぐらいなんですけれど、一般問題で63%以上、臨床問題で64%以上とれば合格、という風になります。
今年はみたところ、一般問題は去年より点がとりやすく、臨床問題は難問奇問が多いかな、という印象です
去年の合格ラインが、一般問題が63,1%、臨床問題が64.3%ですので、今年は一般問題が64%、臨床問題が63%ぐらいが妥当なラインではないかなと予想されます。
2.必修問題 そして一般問題、臨床問題とは別に、「必修問題」というものがあります。
必修、すなわち、「これ知らなかったらだめだよ」というレベルの、簡単な問題が何問かあります。
そして必修問題の恐ろしいところは、「絶対に80%以上取らなければならない」ところにあります。
一般問題、臨床問題の合格基準は、あくまで相対評価によるものですが、必修問題では80%の正解をしないと落とされてしまうのです。
と、書くと、「じゃあ本当に簡単な問題ばかりなんだろう」と思われるかもしれませんが、今年の必修問題は奇問が目立ちました。
はっきり言って作成者の能力を疑うレベルの、必修問題として出題する意味があるのか厚生労働省に問いたくなる問題のオンパレードでした。
これはおそらく、6,7年目の臨床経験のある医師どころか、大学の教授クラスでも、8割とれないという人は結構いるのではないでしょうか。
今年の問題をみる限り、問題として不適切なので大量に削除されると思いますので、安心して下さい。必修で落とすことはそんなにないと思います。
そんな「必修問題」の第一問は、全国の医学生の半数以上が解けなかったであろう問題でした。正解率は20%ぐらいではないか?と思います。
ですが、医学処をご覧の皆さんなら、解けるかもしれない、という問題でした。チャレンジしてみて下さい。
我が国の自殺について正しいのはどれか。
a 女性に多い。
b 独居者に多い。
c 手段として縊頸が最も多い。
d 自殺率は九州地方が最も高い。
e 自殺者数は年間5万人を超えている。
自殺関連のニュースが近年増えてますからね。
そういう時事関連の話を出すのも、この必修問題です。
自殺は秋田、山梨に多く、中高年男性に多いんでしたね。これを知っているだけでadが消せます。答えはcの「首吊り自殺」です。まぁ普通に考えれば薬物による自殺より多いと思いますよね。ちなみに自殺者は3万人で、そのうちの2万人が首吊りによる自殺です。
3.禁忌 500問の選択肢のどこかに、「絶対にやってはいけないこと」というのが存在します。
この病気にこの薬を使ってはいけない!など、命に関わるものです。
まぁ普通だったら選ばないようなものばかりなんですけれど、国家試験の本番ですからね、意外と頭も働かなくなるものです。ふとした気の迷いで選んでしまうことがたまにあります。
この禁忌の怖いところは、3個選んだ場合、その時点でどんなに成績が良くとも不合格というところです。
まぁ実際3個選ぶかどうかといえば、普通は選ばないんですけれど、今年は結構いやらしく設定されてましたね。ひょっとすると禁忌で落ちる可能性もありうるのではないか?という出題になってきています。
禁忌問題の例がこちら。これも今年の問題からです。
53歳の女性。事務職。眼の圧迫感を主訴に来院した。5年前から気管支喘息があり、副腎皮質ステロイド吸入薬を使用している。3年前から夕方になると、眼がかすむことがあった。最近は、書類が見づらくなり眼の痛みを感じることが多い。眼位と眼球運動とに異常を認めない。視力は右1.0 (1.2×-0.25D) 左1.2(矯正不能)。眼圧は右22mmHg 左22mmHg。細隙灯顕微鏡検査では前眼部、中間透光体および眼底に異常を認めない。静的量的視野検査で異常は検出されない。涙液分泌検査SchirmerテストI法で右10mm、左10mm。調節力は両眼ともに2.0Dである。対応として適切なのはどれか。
a 人工涙液点眼
b β遮断薬点眼
c トロピカミド点眼
d 遠用眼鏡処方
e 近用眼鏡処方
どこがいけないんだか、分かりました?
この患者さんの訴えていることは「眼」ですが、「5年前から気管支喘息があり〜」と書かれていますよね。
そして選択肢には「β遮断薬点眼」とあります。
気管支喘息にβ遮断薬は絶対に使ってはいけないものなので、もしこの問題でbを選んでしまうと、禁忌を踏んだことになるわけです。
長くなりましたが、毎年このようにして国家試験は行われています。
受験生の皆様、お疲れ様でした。
結果発表は3月29日。不安のある人もおられるでしょうけれど、大丈夫です、今まで頑張ってきたことを信じて、一ヶ月間十分に休んでください。
来年国家試験を受ける方。
国家試験は参考書で得られる知識以上に、実習で学んだことや時事一般事項に絡んでいるものが多く出題されます。特に今回の104回では、実習でサボった人は絶対に解けない問題などが多く出題されていますので、できるだけ興味関心をもって、医療に接して下さい。
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