[精神]の記事一覧

2008年12月31日

強い不安や緊張からくる症状を森田療法で改善しよう

脳と腸の密接な関係

 強い不安や緊張を長く感じると腹痛や下痢を起こしたり、腸にガスがたまり不快感に見舞われたりする。これは脳と腸が密接な関係(脳腸相関)にあるからだ。

 腸の運動を支配する自律神経を調整しているのが、脳の視床下部。緊張や不安に襲われると、個人差もあるが、この視床下部の情報伝達に乱れがでる。その結果、腸の活動に異変が生じるというわけだ

 特にストレスに過敏な人は、こうした過敏性腸症候群になりやすい。症状が気になると、それがストレスとなり、症状を悪化させる。悪循環だ。

 こうした患者の治療経験が豊富な東急病院(東京・大田区)心療内科の伊藤克人医長は、会議中におなかが「ゴロゴロ」と鳴ってしまったことをきっかけに、おなかの張りに敏感になった25歳の会社員女性の症例を紹介する。女性は、友人とお茶を飲んでいるときでも、おなかの張りを感じると、すぐにトイレに駆け込んで、おならを出し切らないと気が済まなくなった

 伊藤医長は、おなかの張りは心身症であると判断し、心理療法の一つである「森田療法」を実践指導した。不安や症状をあるがままに受け入れて、今やるべきことに集中する治療法で、神経症の治療などとして広がる。

 この女性は数か月後、おなかのゴロゴロは感じるものの、仕事や友人との会話など別の対象に注意を向けられるようになり、症状に対する苦痛や悩みが小さくなった

 伊藤医長は「重症例には抗不安薬などの薬物も処方するが、症状が完全になくなることはない。おなかの張り、おならとうまく付き合い、自分らしい生活を送るという視点が重要」と話している。



 西洋医学的な、抗不安薬の処方によって症状が軽減されることはあれど、なくなることはありません。所詮薬ですからね。そうではなく、もっと根本から、すなわち不安をどのように受け止めるか、という点から治療を行おうとするのが、記事中にもある「森田療法」です。

 日本人が開発して世界中で行われている治療法ですが、森田療法はきちんとやろうとすると非常に時間がかかる。入院が基本ですからね。まあそれでも治したいという人はおられるでしょうし、実際に数多くの人が「あるがまま」に生きることが出来ているわけですから。欧州では外来が中心のネオモリタセラピーが普及しているとか。

 人格障害がほとんど治らないように、人間の根元にある部分を修正するというのは並大抵のことではありません。私自身数多くの欠点はありますが、それを自分でどうこうすることは、出来ない。それを治療という形で少しずつ修正することのできる森田療法、今のストレスの多い社会にこそ必要とされているのかもしれません。

 お勧めのブログをご紹介。

 「神経質礼賛」。精神科医であり、森田療法に関して非常に詳しい四分休符さんのブログです。精神科領域だけでなく、芸術面においても膨大な知識と知的好奇心を有する四分休符さんは、自身を「神経質である」と認められています。ここでいう神経質のニュアンスは、一般の方のもつ神経質とは若干異なるんですよね。詳しくはこちらを

 神経質という気質をもつ方は、病気ではないにしろ、不安や緊張で生きづらい、と感じている人が多いと思います。そういう方はぜひ、神経質礼賛のバックナンバーをいくつがご覧になってみて下さい。心が軽くなるような、名記事揃いです。

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2008年12月29日

第37回医療功労賞に酒井病院の精神科医、酒井保之さん

医療功労賞…精神科医酒井氏が受賞

 長年、地域医療に貢献してきた人に贈られる「第37回医療功労賞」(読売新聞社主催、厚生労働省など後援、エーザイ協賛)に、県内から天草市本町、医療法人啓正会「酒井病院」理事長で精神科医の酒井保之さん(66)が選ばれた。

 幼い頃から、父が開業していた精神科の診療所で患者と接する機会が多かった。その中で患者の優しさに触れ、「将来、力になりたい」と精神科医を志した

 診療所は1959年に「酒井病院」となり、酒井さんは75年から同病院に勤務している。「患者と触れ合うことが精神疾患への正しい理解につながる」を信条に、病院を開放するイベントを次々に企画。文化祭や体育祭のほか、夏祭りは約800人の住民でにぎわい、地域のイベントとして定着している。

 病院を開放した治療を行うには、病院職員の理解が欠かせない。「患者に何かあったら」と不安を感じる職員に対しては、「責任は私が取る」と根気強く説得した。約20年前には、日常的に住民と交流できるように体育館を建設。入院病棟の鉄格子も撤去した。

 こうした取り組みが、地域に開かれた精神科病院を築き上げたとして評価された。受賞について、「地域住民や関係者の支えのおかげ。私一人の力ではない」と謙虚に喜ぶ。

 今後は、訪問診療や気軽に悩み相談ができる環境を整え、より地域に根差した病院づくりを進める考え。天草郡市医師会長でもあり、深刻化する医師不足への対応にも力を注ぐ。

 酒井さんは「病院を開放することで、精神疾患への偏見をなくし、病気の再発防止にもつながる。これからも患者の立場に立った地域医療に率先して取り組みたい」と意欲を語った。



 立派ですねぇ。精神科の病院というのは、地域の住人との確執が出たりするものです。

 その地域の人とどう接していくか、という問題を、時間とアイディアで解決してしまった、と。

 日本ではいまだに精神科に対する偏見が強く残っています。地域でもいまだに、精神科の病院を設立するのに反対が起こる始末です。病院をよりオープンにするということは、患者のためにもなり、地域のかたがたに理解してもらうきっかけにもなります。

 こういう1つの病院をきっかけに、地域全体を変えることができるというのは、すごいことだと思います。

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2008年12月12日

犬も不公平な扱いに反応して嫉妬する。

イヌのジェラシーを検証

 イヌも嫉妬する。この衆知の事実が、霊長類以外にも嫉妬という感情があるのか見極めようという初めての科学的な研究で再確認された。

「イヌ同士や人に嫉妬するイヌの様子は、飼い主ならだれでも思い当たるだろう」と、オーストリアのウィーン大学に在籍し論文をまとめたフリーデリケ・ランジ氏は言う。

 ランジ氏の研究チームが43匹のイヌを使って実験を行ったところ、イヌたちが不公平な扱いに反応していることが明らかになったのである

 最初に、あるイヌが芸をして褒美を受け取るところを別のイヌに見せた。その後、見ていた方のイヌに同じ芸をさせて褒美を与えずにおくと、そのイヌは芸をすることを拒否するようになったという

 この実験はある最近の研究を手本としている。その研究では、オマキザルやチンパンジーに同じ仕事をペアでやらせた後に不平等な報酬を与えたところ、そのサルたちが憤りを感じていることが観察されたのだ。

 ランジ氏の研究チームによれば、イヌの不公平に対する感受性は霊長類ほど強くはないという。研究に参加したイヌたちは、隣のイヌの方が褒美が多かったり、あるいは褒美をもらうための芸に手抜きがあったりしても気にする様子はなかったという。しかし霊長類はそうはいかなかった。

 この研究の詳細は、12月8日発行の「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に掲載されている。

 ランジ氏の研究では、イヌたちは以前から顔を見知っているパートナー犬の目の前でテストされている。つまり、遊び仲間や、同じ家庭で飼われているイヌの前で実験は行われたのである。イヌは実験者にお手を指示され、そのあと、黒パンやソーセージを褒美として与えられたり、与えられなかったりした。

 「両方とも褒美を得られなかった場合、イヌたちは程度の差こそあれ芸をし続けていた」とランジ氏は説明する。「しかし一方だけがエサを得られなかった場合、もらえなかった方のイヌは"拒否"を表明したのだ」。

 憤りを感じてそれ以上の実験参加を拒否したイヌには、ツメで地面を引っ掻いたり、あくびをしたり、口をなめ回したり、あるいはパートナー犬や実験者から目を逸らしたりといった行動が見られている。

 自分はパンだけなのにパートナーがソーセージを与えられたり、あるいはパートナーが芸をせずに褒美を与えられたりしても、イヌたちに気にする様子はなかった。

 「努力と報酬の関係性となると話はもっと複雑になり、おそらくイヌたちにそこまで踏み込んで考える能力はない」とランジ氏は言う。

 イヌの基本的な形の嫉妬と、ある程度の平等に対する固執はおそらく、協調的な活動の中で生き抜くために不可欠なことなのだろう。オオカミなど野生のイヌ科動物は集団で狩りをしたり、子を育てたりすることが知られている。その中では、報酬を強く要求していかなければ周りからうまく利用される存在になってしまうからだろう。

 アメリカ、ジョージア州アトランタにあるエモリー大学の霊長類学フランス・ドゥヴァール氏は、この種の嫉妬(実際には、不平等な報酬に対する嫌悪)は協力し合って生きているあらゆる動物に見られるものだと考えている

 「イヌたちの反応は、パートナーがいないときよりも、褒美を受け取ったパートナーの目の前で自分は何も与えられなかったときに強くなった。ほかのどのイヌも受け取らなければ、褒美がなくても問題はなかった。つまりこれは社会的反応だということである」と彼は強調する。



 なるほど。犬はペットというイメージが強くなりつつありますが、本来は集団で行動する生物ですからね。確かに報酬の概念は霊長類と一緒なのかも。

 とすると猫にはあまり嫉妬という感情はない・・・?いやありまくりか。笑

  /l、
 (゚、 。 7   
  l、~ ヽ      
  じし' )ノ 

 人間の社会でも、いざこざって結局のところこれに起因すると思うんですよねぇ。誰を贔屓しているとか、悪口がどうとか、どこでもありますから。相手を見極めて、それ相応の対応をすれば穏やかに過ごせはしますが、それも自分が頑張らないといけないことですから、面倒なことには違いありませんけれどね。

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2008年12月07日

精神科病院、貝塚中央病院で入院患者の違法拘束による死亡事故

違法拘束か男性死亡、大阪の精神科病院 記録も改ざんの疑い

 大阪府貝塚市の精神科病院「貝塚中央病院」で今年1月、入院患者の男性(当時48歳)が身体拘束中の事故で重体となり、救急搬送先で死亡していたことがわかった。府警貝塚署は業務上過失致死の疑いで捜査している。

 精神保健福祉法では、身体拘束には精神保健指定医(指定医)の直接診察に基づく指示が必要だが、事故時に夜勤だった看護師は「昼間から指示なしで拘束されていた。理事長の命令で記録を改ざんした」と話している。

 複数の病院関係者も「違法な拘束などの人権侵害が日常的に行われてきた」と読売新聞の取材に証言。病院側は「捜査で事実がはっきりしてから答える」とし、取材に応じていない。

 関係機関の記録によると、男性は1月17日、自宅前で倒れ、堺市内の病院に運ばれた後、アルコール依存の症状があり、同日夜に貝塚中央病院に転院した。

 重体で発見されたのは21日未明。腹部だけを拘束帯でベッドに固定されており、締め方が緩かったため、ベッドの左横に体がずり落ち、体重で腹部が強く圧迫されていた

 別の病院に運ばれて手術を受けたが、3月に死亡。司法解剖では腹部圧迫による腸管壊死だった。

 病院側は保健所への報告で、当直医が指定医の資格を持つ田村善貞理事長(60)(当時、院長兼務)に電話で指示を仰ぎ、同日午前0時半ごろ、夜勤の男性看護師(52)が拘束したと説明。体を動かすのでベッドから落ちないようにするのが目的だったとしている。電話による拘束指示でも違法になる

 この男性看護師も当初はほぼ同様の説明をしていたが、退職後、貝塚署の調べに「事故後、理事長の指示で看護記録を作り替えた」と説明、保健所への報告内容は事実と異なるという。



 よろしくない。

 人を「拘束する」ということは、重大なことです。施行するためには、それなりの手順を踏まなければなりません。

 その手順が法律として定められているにも関わらず、医療者の怠慢で施行されないというのは、愚行であると思います。精神科の暗部を払拭しようと努力してきた人たちに申し訳ないぐらいです。

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2008年11月12日

つい出てしまう独り言は、精神衛生上良くないのか?

ついつい出ちゃう“独り言”って

 テレビを見ながら「え、ホントかよ!?」。忘れ物を思い出して「ああ、しまった!」。考え事をしていて「うーん、どうしよう…」。周囲に誰もいないのに、ついつい何か言葉に出しちゃうことって誰でもありますよね。

 ついつい独り言を発している自分に気づき、「俺、大丈夫かな?」なんて不安を感じたことのある人も少なくないはず。実際のところ、独り言の原因って何かあるのでしょうか? 三軒茶屋神経科・心療内科クリニックの松島淳先生にお話を聞いてみました。独り言って、やっぱり何か病気の兆候なんですか?

 「悪いケースと正常なケースがあります。たとえば、子どもは一人でもよくしゃべっていますが、想像力や感受性が豊かな人は比較的独り言が多いようです。逆に病気の場合は、統合失調症やうつ病、強迫性障害などが原因とも考えられるので要注意20代の若い世代には、適応障害という場合も多いです」(精神科医・松島先生)

 常に不安で精神が圧迫される強迫性障害や、社会環境にうまく対応できず心身にストレスが生じる適応障害。これらは人付き合いの苦手な人には決して無縁ではないという。こうした病気が原因の場合、当人は病気の進行はもちろん、独り言を口にしていることすら自覚していないケースが多いとか。

 では、自分の独り言が悪性のものかどうかを判断するには、一体どうすれば?

 「ひとつは文脈。あまりにその場の状況とかけ離れた言葉を発していたり、自分を社会的に不利な立場に陥れるような妙な言葉を発している場合は、病気である可能性が高いと言えます」

 つまり制御が効かず、汚い言葉やエッチな言葉が状況を考えずに口から出てしまったり、自覚はなくても気がつけば周囲から白い目で見られているような独り言を発してしまっている場合は危険信号! 松島先生によれば、これらは脳の「前頭葉」の機能低下が引き起こすものだとか

 「前頭葉については未解明な部分も多いのですが、過剰なストレスや精神的ショック、あるいは適応障害などで自分を責め過ぎている状態のとき、思ったことがコントロールできずにそのまま口に出てしまうことがあるようです。こうした状態を作らないためには、とにかく人とコミュニケーションを取ることが大切ですね」(同)

 独り言が多いのは必ずしも悪いことではないものの、日ごろから強いストレスを実感しているなら、多少の用心は必要かもしれない。独り言は、心身が発する“病のサイン”である可能性もあるのだ。



 病的な独り言というのは、要するに自分でも収拾がつかなくなっている場合ですかね。ただ単に「だるいなぁ」とかそういう心の中のことをつい口にしてしまうような独り言なら、まぁ大丈夫なのでは。というか誰でも出しますしね。

 統合失調症などの場合ですと、自覚がない場合が多いかもしれません。自分が病気ではないと思っていることも多いので、これは明らかにおかしい、と思ったら周りの方もサポートして、病院を受診するほうがいいと思います。

関連:統合失調症ってどんな病気?原因・症状・治療について。
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身体症状から始まるうつ病もある。

自分なら「ウツ」は必ず自覚できる、という誤解

ある朝突然、身体が動かなくなった

 朝は、眠気とだるさで、洋服を着替えるにも妙に時間がかかるようになってしまい、ほんのネクタイ一本が選び切れない。クローゼットの前で呆然と立ち尽くして、気がつけばもう家を出る時間。うかうかしていたら電車に間に合わない。そんなことは重々わかっていても、身体がテキパキと動いてくれないのです。

 ある朝のことです。

 重たい身体を引きずってどうにか玄関に立ったAさん。玄関で靴を履こうとしたところで、ついに、まったく動けなくなってしまったのです

――「いったい何が起こったんだ?」「俺は、どうしちゃったんだ?」

 頭の中を、そんな疑問がグルグルと駆けめぐる。しかし、どうやっても身体は動こうとしない。気づくと、涙があふれてきている

――「悲しいことなんか何もないのに、どうして俺は泣いているんだ?」

 様子がおかしいと気が付いた妻が玄関に駆けつけてみると、そこには、呆然とした表情で目には涙をいっぱいにためた夫が、立ちつくしていました。

「どうしたの? 何かあったの?」と声をかけてみても、すぐには答えが返ってこない。しばらくして、やっと重たい口がひらく。「なんにも……でも……どうしても、身体が動かないんだ!

 そして、子供のように泣きじゃくる夫の異常な姿を見て、妻は「これはただ事ではない」と、すぐに病院を受診させることにしたのでした。

 Aさんの「うつ」は、このようにして始まったのです。

 このAさんのように、「うつ」は、必ずしも典型的な抑うつ気分(落ち込んだ気分)から始まるとは限りません。「心」の叫びは、初期の段階では、「身体」のさまざまな不調として現れてくることも珍しくはないのです。

 Aさんの例で見てみますと、まずは「電話がかけられない」という異常が起こり、徐々に集中困難、作業能率や判断力の低下、疲れ易さ、全身倦怠感、眠気などが見られるようになって、ついに出勤時に「動けない」状態に陥りました。そして、本人にも不可解な涙まで出てきています。

 私がこれまで実際に経験したさまざまな「うつ」のケースを思い起こしてみますと、初期症状として現われた身体症状には、かなりのバリエーションがあります。

 たとえば、胸の痛み、過呼吸発作(過換気症候群)、手の震え、声が出ない(失声)、吐気、食欲の減退、性欲の減退、冷汗、めまい、頭痛、胃痛(胃潰瘍、胃炎、胃痙攣)、下腹部痛、動悸、喉に物が詰まったような違和感、眼痛、肩こり、腰痛、等々さまざまです。

仮面うつ病」という病名があります。どこかで聞いたことがあるかもしれませんが、これはmasked depressionの訳語で、「隠されたうつ病」という意味です。つまり、身体症状だけが前面に現れている状態なので、「うつ」であるとは全然自覚されずに、身体の病気と捉えられてしまう病態を指します。

 ですから、「仮面うつ病」の場合は、本人も身体疾患だと思っているので内科などを受診することが多いのです。精神的な自覚症状が本人にないのですから、内科医も「うつ」が隠れていることを見過ごして、内科的治療だけを続けてしまうことも少なくありません。

 Aさんの場合は、集中困難や眠気等の精神的症状も現われていますので、診断上は「仮面うつ病」には当てはまりませんが、精神的な問題という自覚がないところは、とても似かよっています。



 このAさんの例でも、重要なのは

 こういう状況になったときに、周りが把握して病院につれていくことができたこと、ですよね。

 周囲に精神疾患に対する理解がなければ、その後の「治療」すら出来なくなってしまいます。怖いことです。

 日本はまだまだ精神疾患に対する理解がなく、偏見や妄信ばかりです。うつ病は甘えであると、未だに思っている人もいるくらいですから。石器時代のような浅い考え方をする人が周りにいては、うつ病の治療が出来なくなってしまいます。

 まずは、疾患に対するご理解を。次いで、ご協力を。

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医学処:うつ病の復職の原則は、「もとの職場に」。
医学処:うつ病を証明する客観的指標として脳血流を評価する。
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2008年11月09日

うつ病を証明する客観的指標として脳血流を評価する。

血流を測る「うつ発見器」……うつ研究はここまで来た

 うつ病は「ココロの病」ではなく「カラダの病」、ということはすでに証明されつつある。だが一方で、「うつは心の弱い人がなるもの」「気の持ちようで治せるはず」という偏見が後を絶たないのも事実だ

 客観的にうつ病を証明できる機械や数値があれば、という思いは、苦しんでいる患者本人は特に強いはず。そんな“うつ発見器”ともいうべき研究が実際に行われ、成果が出始めている。

 うつ病の客観的指標の一つとして研究されているのが「脳血流」だ。95年ごろから研究が進んでいたが、当時はうつ病の原因を探るという目的が中心で、うつ病か否かを判定するというものはほとんど行われていなかった。

 08年7月に労働者健康福祉機構が発表した研究結果では、うつ病の症状緩和に伴い、患者の脳血流も改善していることがわかった。患者の不調期に血流低下が見られたのは主に左脳。「左の前頭葉は、いいことがありそうかどうかを予感する“快”を司る部分」(香川労災病院 勤労者メンタルヘルスセンター長・小山文彦氏)。この部分の血流が低下することで、マイナス思考に陥りやすいと考えられる。

 この研究は、うつ病のなかでも、自分を責める傾向にある「メランコリー親和型」の患者25人が対象。他人に迷惑をかけたくないという気持ちが強いため、治り切っていないにもかかわらず“背伸び出勤”をして、さらに症状を悪化させてしまうという例が急増している

 改善したかどうかの目安として脳血流を検査すれば、このような悪循環は防げるはずだ。また、重度のうつ病になる前に予防するという役割も期待できる。実際、「労働行政や人事労務担当者からの反響は多い」(同氏)と、企業側の関心も非常に高い。

 では、うつ病を装う人を見破ることもできるのか。この点については、まだクリアすべきハードルがあるという。「疲労の蓄積と脳血流の関係などほかの研究も行っているが、あえて“自称うつ”的な人を対象にした研究は困難」(同氏)と、うつの真偽判定の役割を期待するのはまだ難しいようだ。

 脳血流のほかに、客観的指標として期待されているのが「血液検査」の数値。うつ症状の改善を見るうえでの指標として、すでに診断の一部に血液検査を取り入れている病院もある。公徳会佐藤病院では06年から血液検査を開始。うつ病の不調期に血中濃度が低下(一部は上昇)する4つの物質を測定し、「症状を診ながら、投薬の調節や復学・復職の目安の一つとして役立てている」(教育研究部長・栗田征武氏)という。

 現状の診断は、ほとんどが問診などに頼っている状況。「客観的診断は絶対に必要」という医師の声も多く、現場への普及が待ち望まれるツールだ。



 今後医学が進歩してくれば、より客観的に鬱病を評価することのできる指標が出来るかもしれません。

 それはすなわち、鬱病が脳の病気であって、心が弱いからどうだとかいう猛烈な偏見も減るのではないかと予想されます。今の世の中、特に日本では偏見が強すぎますからね。少しでもうつ病に対する理解として深まれば、と思います。
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2008年10月31日

向精神薬エリミンを20万錠流出させた大阪の診療所について

向精神薬20万錠が不明、大阪の診療所で…横流しの疑いも

 大阪府大東市の診療所で、不眠症治療などに使われる向精神薬「エリミン」が、今年7月までの2年間に計約20万錠も所在不明になっていることが、近畿厚生局麻薬取締部の調べでわかった。

 同取締部は、違法に横流しされた疑いがあるとみて麻薬及び向精神薬取締法違反(譲渡目的所持)容疑で診療所などを捜索するとともに、自宅にエリミン約130錠を隠し持っていたとして今月、元事務長(55)を同法違反容疑で書類送検した。2年間だけで数千万円分が流出した可能性があるとみられ、流出先などを調べている。

 同取締部は7月下旬、診療所や管理責任者の元事務長宅を捜索。この診療所には心療内科や精神科はないにもかかわらず、毎月、同規模施設の数倍にあたる約1万錠のエリミンを購入していた

 しかし、診療報酬明細書上、月平均約2000錠しか処方しておらず、2年前から毎月8000錠前後が所在不明になっていることが判明した。

 エリミンは錠剤型の向精神薬で、一般名はニメタゼパム。「陶酔感が得られる」などとされ、大量に摂取すると、幻覚や妄想などの症状が出る。インターネット上などで違法に取引されており、1錠200〜300円の値が付くこともあるという。



 非常に不思議に思うのですが、普通医者って、プロ意識もってますからこんな馬鹿な犯罪でお金を稼ごうとは思わないと思うんですよね。このご時世、簡単にバレますし、何よりバレた後でその後の人生のやり直しが効かない。

 こういうのはホント、実際にこの薬を使って治療している患者さんに迷惑なので、バンバン取り締まってほしいですね。間違いなく医師免許剥奪モノでしょうけれど、それ以上に社会に与えた影響は大きいと思うので、重い刑を科してもらいたいですなぁ。

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2008年10月09日

精神科の後期研修の医師を県の正規職員として採用する試み

県:「後期研修」の医師、正規職員に採用へ 精神科医確保に

 精神科医の確保を目指す県は来年4月から、専門診療科で研修する「後期研修」の医師を県の正規職員として採用することを決めた。従来は嘱託職員として採用されていたが、正規職員として身分や収入を保障することで精神科医を確保するのが狙い

 県医師確保対策室によると、県立病院で研修する後期研修医は現在、県嘱託職員として採用している。来年度からは正規職員として採用して県立こころの医療センターに3年間配置、研修修了後は2年間の県内勤務を義務付ける。毎年度2人を採用する予定。嘱託職員の年収は約520万円だが、正規職員だと約870万円になる。

 県内の60病院と39公立診療所を対象に、昨年10月に実施した調査では、必要とする精神科医が89・7人(前年度比0・7人増)なのに対し、実際に勤務しているのは79・3人(同2・8人増)だった。

 公立雲南総合病院(雲南市)では、04年度から精神科常勤医が不在となり、06年度まで非常勤医が病棟を維持していたが、昨年4月から病棟を一時閉鎖(外来診療は継続)となっている。隠岐病院(隠岐の島町)では今年7月から、来年3月までの予定で県立こころの医療センターから常勤の精神科医の派遣を受けているが4月以降のめどは立っていない。



 ほー。精神科医も不足問題に・・・。

 でも救命や小児や産婦人科と一緒で、精神科というジャンルも、人の命に関わる大事な側面ですからね。ある意味では外科医より厳しい日常かもしれません。

 こういう採用の工夫はかなりアリだと思います。後期臨床研修で、専門的な経験を身につける修行の場として5年間しっかり提供されているわけですし、金銭的にも以前より潤いますし。県側のうまい裁量ですね。
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2008年10月03日

ナルコレプシーの関連遺伝子を東大が発見する。

「過眠症」に関連遺伝子、東大教授らのグループが発見

 日中に著しい眠気を感じる病気「過眠症(ナルコレプシー)」に関連した新たな遺伝子を、東京大の徳永勝士教授(人類遺伝学)らのグループが発見した。

 過眠症の原因解明や治療法開発に結びつく成果だ。29日、科学誌ネイチャー・ジェネティクス(電子版)に掲載される。

 過眠症は日本人の約600人に1人が発症し、日中に激しい眠気を感じたり、突然全身が脱力したりする病気。遺伝的な原因とストレスなど周囲の環境が発症の原因と考えられているが、詳しい仕組みは不明で、根本的治療法もない。

 研究チームは健常者と患者との間で、50万か所のDNAのわずかな差(1塩基多型=SNP)を網羅的に調査。その結果、22番染色体の1か所に変異があると、過眠症に約1・8倍なりやすくなることを突き止めた。韓国人でも同じ変異が過眠症と関連していた。

 この変異があると、睡眠に関係のある遺伝子「CPT1B」など2個の遺伝子の働きが悪くなることも分かった。



 これは明らかな病気ですけれど、睡眠を多くとらないとやっていけないひと、徹夜できる人の違いも、もしかすると遺伝子レベルなんですかね。

 以前だったら遺伝子が分かったところでどうしようもなかったかもしれませんが、今だったらもしかすると・・・。

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2008年09月11日

統合失調症は、海馬の歯状回が未成熟で機能していない。

<統合失調症>脳に未成熟な領域 マウスで確認 治療法期待

 統合失調症に似た異常行動を示すマウスの脳の中に未成熟な領域があることを、宮川剛・藤田保健衛生大教授(神経科学)らが発見した。死亡したヒトの脳の研究でも同様の傾向がみられ、統合失調症の客観的な診断や治療法開発につながると期待される。11日、英国のオンライン科学誌「モレキュラー・ブレイン」に発表する。

 宮川教授らはさまざまな遺伝子を欠損させたマウスの行動を網羅的に調べ、CaMK2αと呼ばれる酵素を欠いたマウスが「気分の波」など統合失調症に似た異常行動を起こすことを見つけた。

 この酵素を欠くマウスは、記憶をつかさどる海馬の「歯状回」という領域の神経細胞が未成熟で、ほとんど機能していない。死亡したヒトの脳を調べた米国のデータベースによれば、統合失調症の患者は、歯状回の成熟した神経細胞を示す分子が少ない傾向にある

 宮川教授は「ヒトの統合失調症の一部は海馬の歯状回の未成熟が原因の可能性がある。成熟を促すことができれば治療法として有望だ」と話す。



 今までに登場してきた統合失調症の薬も、劇的な効果を挙げていますが、歯状回を成熟させることができれば、根本的な「完治」に繋がるかも?

 精神科の病気ですけれど、脳の病気ですからね、統合失調症は。ただ症状が精神的というだけで。

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2008年09月09日

自己愛性人格障害の特徴と診断について

「自分は重要な人間だ」と思い込む 「自己愛性人格障害」とは何か 

 茨城県土浦で8人を連続殺傷した犯人が、人格障害の一種「自己愛性人格障害」と診断された、と各紙が報じている。この障害は「自分は重要な人間だ」「周りは自分を理解できない」と思い込むのが特徴だ。ただ、一方で本当に「自己愛性人格障害」なのかという指摘もある。

「世が世ならば、自分はもっと高い地位にいたはずだ」
「魔法の世界は現実と違い、自分は特別な存在になれる。すべてが自分の思い通りにできる。だから死にたい」

 2008年8月31日「朝日新聞」は金川真大被告がこのように供述していると報じた。茨城県土浦市のJR荒川沖駅で08年3月に8人を殺傷した犯人は、高校を卒業してから進学も就職もせず、コンビニでアルバイトをしていて、家に帰れば部屋にこもってゲーム三昧。一緒に暮らしている家族とはほとんど口をきかなかった。そして次第に、「世が世ならば、自分はもっと高い地位にいたはずだ」と思い込むようになった。逮捕後、捜査関係者にも真顔でそう話し、不満を口にする場面もあったという。そんな「本来」の自分になれる理想世界を死後に求めた。犯行に及んだのは死刑になるためで、「自殺は痛いからいやだ」「派手な事件を起こして死刑になりたかった」として身勝手極まりない理屈を述べているという。

 「自己愛性人格障害」というのは聞きなれない病名だが、この人格障害には、幼少期に過保護に育てられ、「私は特別な人間なんだ」と思い込むタイプがあるという。厚顔無恥、誇大、顕示欲の強さなどが特徴とされる。また、幼い頃から親の愛情を受けなかったために、「自分は本当はもっとすごいんだ」と空想して、傷付いた自尊心を取り戻そうとするタイプもあるという。

 主な特徴としてアメリカ精神医学協会のマニュアルには以下の9つが掲載されている。

(1)自分の重要性は大変大きなものと考えている。
(2)限りない成功、権力や才能といった空想にとらわれている。
(3) 自分が特別な人間であるため、地位の高い人にしか自分は理解されないと思っている。
(4)過剰な賞賛を求める。
(5)自分だけに特権があると思っている。
(6)自分自身の目的を達成する為なら、他人を利用する。
(7)他人に対する共感が欠けている。
(8)他人に嫉妬する。
(9)尊大で傲慢な態度や行動をとる。

 このうち、5つ以上当てはまる場合は障害の可能性が高いと言われている。「自分は特別な存在」と話す金川被告は、(1)や(5)にあてはまる可能性がある。また、現実の世界では特別な存在になれないが、「魔法の世界」ではなれると思い込んでいる、という点では(3)に該当すると思われる。このように、金川被告の言動は「自己愛性人格障害」を疑わせる。

 「この障害の裏には自己嫌悪があり、それを隠すために自分は本来は優れた人間なんだと思い込みます。しかるべき環境だったら、社長になれる、ノーベル賞を取れると言う人もいます。ただ、何も根拠はなく、実現のための努力をしようともしません。うまくいかないと、すべて周りのせいだと思っています。会社内でもそのような態度なので、転職先で次々と首になったという人もいました」

「アメリカに比べて日本では症例が少ないのが現状で、なかには誤診されていることもあると思います。言葉で定めた診断基準で見極めるのは難しい」
とも指摘する。

 確かに、患者の中には診断中に気に障ることがあるとキレて、暴力を振るうこともあるが、

「この手の患者さんは暴力を振るうといっても、大怪我させようとか、ましてや殺そうと思うことはありません。土浦の事件の場合は計画的に事を運んだようですが、自己愛性人格障害では考えにくいです。該当するかどうか・・・」
と疑問も口にする。

 治療はカウンセリングをベースに行う。治療開始は早いほどいいが、患者は自分が病気だと思っていないため、自ら治療を受けにくることはほとんどない。もし、周囲の人が疑わしいと思ったら心療内科に相談して、早期に治療を受けさせる必要がある。



 自己愛性人格障害かなーと思う人は結構いますよね。まぁ社会からみて、特に脳の器質的な異常がないのに人格障害などとレッテルを貼っていいのかという話もありますけれど、人格障害の人の周囲を構成する社会全体がホトホト参るほど疲れてしまうので、まぁ受診して自身に対する歪みを修正できれば、本人にとっても周囲にとっても良いのではないですかね。そういう意味でも、性格の歪みを障害であると言ってしまう意義はあるかと。

 話は脱線しますけれど、最近某所で「愛読書」として挙げられていた下田治美著の「精神科医はいらない」という本を読みましたが、読みながら思った感想は、「これは恐るべき本だな」というもの。こんなのを一般に流通させてもいいのか、というぐらいのトンデモ本だと思います。著者は自分が言いたいことをハッキリ言う行動力のある人だということを自覚しているようですが、だからといって論理の欠片もない医者批判を堂々と行われても。これを読んで精神科医に対する不信感が芽生え、病院に行かなくなる人がいるかと思うと、、、

 好意的にとるならば、駄目な精神科医を批判することで全体のレベルアップに繋がるかもしれません。実際に駄目すぎる精神科医はいます。本書で挙げられているようなこともあると思います。そういう医者は糾弾されるべきです。駄目な精神科医の低レベルっぷりについては何度かお話していると思います。ですがこの、なんというんでしょうかね、根拠のなさ、とでもいいますか、論理的思考力のアレとでもいいますか、説得力がない。

 色んな人が言っていますが、この作者はいささか思い込みが激しいような?自身のウツ病(自称うつ病のプロである作者は、鬱病と鬱状態、抑うつ、抑うつ神経症などの区別をつけず、全てをひっくるめてウツ病と記載しています)の発症原因をヤマギシという団体の洗脳によるものだと主張しています。確かに自分のプライドを傷つけられるだとか、騙されたというショックで鬱状態になることはあるかもしれませんが、鬱病にはならんでしょうな。加えて言うなら、どんな人でも絶対に洗脳されると書かれていますが、まぁそんなことはない。正常な理性、思考力を持っていれば「洗脳」などされんでしょう。されていたら今の日本人の9割がマルチ商法や新興宗教に手を染めてますわ。

 もっとこう、題名のとおり「精神科医はいらない」ことを、論理的にまとめていれば称賛に値する本だったと思うんですけれど、一貫性がなくて非常に読みづらい上に、1つ1つのエピソードにまとまりが欠けるという、何ともいえぬ本でした。この本に挙げられていることを精神科医全体の真実である、と鵜呑みにしてしまう人が出ないことを願います。こちらのブログでトンデモ本として批判されています。本にはまだまだツッコみどころ満載なので、暇すぎて無人島に行かなければならないような人、懲役があと20年近く残っているような人は、手にとって読んでみてもいいかもしれません。

関連
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2008年08月31日

うつ病と双極性障害の違いを判定する診察方法

うつ病に酷似、「双極性」見抜く 県立高松病院 質問表、面談で

 石川県立高松病院(かほく市)は、うつ病と酷似して見分けが付きにくい別の疾患「双極性うつ病」を判定する診察方法を考案し、十月に米専門誌で発表する。長期間落ち込むうつ病に対し、双極性はうつながらも時に気分が高まるそう状態が表れる特徴があり、診断例から編み出した質問リストなどで違いを見分ける。双極性の患者に誤った治療を続ければ死に至る危険もあり、石川から適切な判定法を広める。

 双極性の研究に取り組んでいるのは、武島稔診療部長(43)らの医療チームで、二〇〇〇年から七年間、他の医療機関で「うつ病」と診断された入院患者百三十九人の症例から判定方法を探ってきた。

 判定方法は「うつなのに散財して後悔することが時にある」「睡眠時間が短くても疲れず力がみなぎることがある」など、通常のうつにない双極性の兆候を、十数項目の質問表や面談で見抜く。

 武島部長によると、誤ってうつ病と判定された双極性の患者に、うつ用の薬剤投与を続けると、重度のそう、うつ状態が交互に訪れる不安定な精神状態に陥り、最悪の場合、自殺する恐れもある。

 同病院は、うつと診断されて運ばれた患者に判定方法を試した結果、全体のほぼ半数、高齢者で約四割が双極性と判断された。治療では、薬剤を炭酸リチウムなどに切り替えると改善することも確認できた。

 双極性については、医師の間でも十分に知られず、研究機関も少数であるのが現状だ。ただ、潜在化している患者は少なくとも人口の2%との報告もあり、武島部長は「糖尿病などと同様に、生活に身近な病である可能性があり、周知することで偏見なく治療できる社会にしたい」と話している。

 研究の成果は、精神科の分野で世界的権威のある専門誌「ジャーナル・オブ・アフェクティブ・ディスオーダー」に掲載される。



 DSMWにも双極性障害については記されていますけれど、見分けるのはなかなか難しいでしょうね。患者の話を聞いて、判断するという精神科の特殊性でしょう。

関連:30代で多く発症する双極II型障害とはどんな症状か。
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2008年08月22日

キレる子供の脳のメカニズムを解明するプロジェクト

対人関係:「キレる」構造を研究へ 文科省

 引きこもりや「キレる若者」など対人関係の不適応が問題化していることを受け、文部科学省は来年度から、人間の社会行動やコミュニケーションに関係する脳の機能や構造を特定する研究に乗り出す方針を固めた。脳のある部位の変化や個人的特徴が、行動などにどのような影響を与えるかを示す指標を作り、問題行動や社会性障害の予防や治療につなげることを目指す。

 文科省や専門家によると、脳の生物学的な特徴と社会行動との関係は、動物では比較的解明が進んでいる。マウスでは、ある種の脳内物質を欠くと自閉的行動を示したり、攻撃性が高まることが分かってきたという。

 人間については、脳の計測の難しさなどから心理学的な手法での研究が主だった。今回、文科省は動物での知見を網羅的に結集し、計測技術の開発も進め、人間の社会性を生み出す脳内メカニズムの解明を目指す。文科省がテーマを設定し公募で研究者を選ぶ。さらに、不眠症や摂食障害、うつの増加を踏まえ、ストレス耐性や睡眠リズムをつかさどる脳幹研究も強化する。

 このため、今年度から5年計画で始めた脳科学研究戦略推進プログラムを拡充し、今年度の予算17億円から倍増以上の重点投資を計画している。

 文科省ライフサイエンス課は「脳科学だけですべての問題に答えることはできないが、問題行動や社会性障害の生物学的なリスク要因がある程度明らかになれば、予防や治療に結びつく可能性がある」と期待する。

 東北大で「脳神経科学を社会に還流する教育研究拠点」のリーダーを務める大隅典子教授は「早い段階でリスクが分かれば、育児や教育でケアできる可能性がある。こうした指標が差別につながらないよう、経験や環境によって脳が生物学的に変化することなども社会に説明しながら研究を進める必要がある」と指摘する。



 達成できたら凄い研究だと思いますが…

 まぁ難しいのかなぁと。

 脳を解明できたところで、治療に結びつくかというとそういうわけでもないですしね。果たしてどうなることか。

 もし仮に、キレる子供というのが必然的に生まれてくるとしたら、どうしたらいいんですかね。

関連
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2008年08月13日

抗うつ薬の効果の個人差を遺伝子で予測する。

遺伝子変異が抗うつ治療への反応の予測に有用

 セロトニントランスポーター遺伝子であるSLC6A4の複数の変異が、シタロプラム治療を受けている非ヒスパニック系白人成人のうつ症状寛解に関係している。この知見は、医師がこの抗うつ薬に反応する患者を判定するのに役立ち、ヨーロッパ起源の者におけるその他の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)に関するこれまでの知見に沿うものである。

 この研究は、「Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression (STAR*D)」臨床試験の被験者1,914例のDNA遺伝子解析に基づいており、『American Journal of Medical Genetics Part B (Neuropsychiatric Genetics)』7月10日号オンライン版に掲載されている。

 「我々はこの遺伝子の複数の部位を調べた。すると、プロモーター領域のみが重要なのではなく、それ以外の調節領域も重要であることが解った。これは、薬物への患者の反応を向上させるのに薬理遺伝学検査が重要であることを示す新たな例である」と筆頭著者であるメイヨークリニック(ミネソタ州ロチェスター)の精神・心理科長であるDavid Allen Mrazek, MDがMedscape Psychiatryに語った。

 薬理遺伝学検査(特定の薬物への反応を予測するために患者の遺伝子構成を調べる)は急速に進歩しており、2004年に実用化されて以来、すでに精神科医がこの検査を採用している、とMrazek博士は言う。

 「精神科医がこうした検査法になじんで、上手に行えるようになるにつれ、やがては精神科患者の治療に標準的に組み込まれていくようになるだろう」と博士は予測している。

 「平均的な精神科医がこうした検査法を自然に利用できるようになるにはあと5年かかるかもしれないが、すぐにそうなるだろう」とも博士は言う。

 今回の論文によれば、抗うつ薬の使用は広く普及しているにもかかわらず、臨床試験で治療を受けたうつ病患者のうち症状が完全に寛解するものは50%未満である。薬理遺伝学検査は、患者が特定の薬物に反応するかどうかを、試行錯誤ではなく判定することを目的のひとつにしている。

 これまでの研究により、SLC6A4遺伝子のプロモーター領域に特定の変異を持つヨーロッパ人患者は、その変異を持たない患者よりもSSRI治療で大きなベネフィットを得られることが示されている。



 抗うつ剤の効果には個人差があり、現状では何週間・何ヶ月スパンで具合をみて調節していくのが普通です。しかし時間がかかりすぎますし、何より患者さんの主観で判断しなければいけないので、なかなかに難しいところがあります。

 この技法が一般化すれば、あらかじめ適した薬を使うことが出来るため、確実です。遺伝子を調べるとなると結構大掛かりな検査になってしまうとは思いますけれど、精神科領域で活躍する検査になると思われます。
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2008年08月04日

心の健康の不安を7割が意識している。

「健康に不安」66%、心の健康は7割が意識

 健康への不安を3人に2人が感じていることが、朝日新聞社が実施した健康意識に関する全国世論調査(郵送)でわかった。主な理由として、働き盛りの世代では「ストレスや気力の衰え」「仕事や家事の忙しさ」、高齢者では「病気や体力低下」があがった。

 不安を「感じている」は66%、「感じていない」は31%で、男女の差はほとんどない。「感じている」は40代と70歳以上で7割台。20代でも56%がそう答え、理由として「食事や睡眠が不規則」が最も多かった。また、自身が「太っている」と思う人の場合は、「不安を感じている」が84%と特に多い。

 「健康に気をつかっている」とする人は「大いに」「ある程度」を合わせて83%。健康によい食生活をしているほうだという人が62%、日ごろ運動をしているという人が34%おり、健康意識に具体的な行動がともなっている様子がうかがえる。

 「心の健康」を意識しているという人は、「よく意識」「ときどき意識」を合わせて7割いた。心の健康を損ねた場合、医療機関などに相談することに「抵抗ない」人は5割を超える。いまの日本が心の健康を損ねやすい社会だと思う人が約8割おり、理由としては「経済弱者を生みやすい社会だから」「人間関係が難しい社会だから」が上位だった。



 実際心の健康問題って増えていると思います。増えているというか、認識されやすくなったというか…。うつ病などの認知度が高まったことは良いことですし、社会もその存在を考慮して動かなきゃなりませんからね。

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2008年07月02日

統合失調症を早期に発見できる検査キットを開発する。

統合失調症検査技術の開発に成功――早期診断をサポート

 JST(理事長 北澤 宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「統合失調症の検査キット」の開発結果を成功と認定しました。

 本新技術は、新潟大学教授 那波 宏之の研究成果をもとに、DNAマイクロアレイを用いて患者の血液から抽出した遺伝子を測定し、分類予測モデルで発現量の変動を解析することによって統合失調症の診断をサポートする手法です。統合失調症の治療では早期治療が重要とされていますが、生物学的マーカーを用いた客観的な検査法がないため、早期診断を支援する方法が望まれていました

 本開発では、DNAマイクロアレイを用いた約5万5000遺伝子の分析結果から統合失調症に関連して変動する10種類程度の遺伝子を抽出し、分類予測に優れたニューラルネットワークというアルゴリズムを活用した分類予測モデルを構築しました。

 専門医による統合失調症の早期診断を支援する技術として活用され、早期治療の実現によって患者の重症化回避や治癒率向上に貢献することが期待されます。



 統合失調症は行動や言動がおかしくなってくることで、他の人が見て病院に連れていこうと思うものです。早期の統合失調症だったら、特徴的な幻覚や妄想は出現しないこともあり、統合失調症なのか他の疾患なのか分からないこともしばしば。そういうときにこのキットを使えば診断できる、ということですかねぇ。なんかこれで決め付けてしまうのも怖い気もしますが。

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2008年06月26日

教職員の長期休職に対応した新しい保険を発売する。

教職員、長期休職でも安心 新保険発売

 心身の病気やけがで休職する教職員を支えようと、最長60歳までの所得を保障する新たな団体保険が発売された。近年、休職者は増え続けており、かなりの加入者が見込めるという。

 この団体保険は「教職員収入ロングウェイサポート」。全国の公立小中高の教職員約50万人が加入する福利厚生団体「日本教育公務員弘済会」(東京都渋谷区)と東京海上日動火災保険(同千代田区)が共同で企画・開発し、5月に発売した。

 文部科学省の調査によると、2006年度に病気で休職した教員は全国で7655人と10年前の1・8倍にも上り、過去最多を記録。このうち、うつ病など精神性疾患による休職が4675人と6割を超えた。教師の200人に1人以上の計算だ。調査には年齢別の統計はないが、同省では、学校現場での責任が重くなるうえに、私生活や健康上の悩みも多くなる40〜50歳代が多いと見ている

 こうした実態を受け、日教弘が昨年3月、会員の教職員688人を対象に仕事の状況や健康、生活への不安を尋ねたところ、8割が「日常業務がオーバーワークで過労を感じている」と回答。「職場でのストレス」も7割が感じていた。さらに、8割強の教職員が「病気やけがによる長期休職」を心配し、「療養による収入減の保障」を求める声も7割を占めた。

 日教弘はこの結果から、「生活が心配で、休職すらできない“予備軍”もかなりいるのではないか」(福岡満雄・企画・営業課長)とみて、新保険の開発と発売に踏み切ったという。

 保険は、休職後3年間は自治体や共済組合による公的保障で所得の約8割分を補えるため、この間の補償額は毎月10万円と低く設定している。

 公的保障額が低くなる3年後から、掛け金によっては最大30万円が最長60歳まで支払われる仕組みだ。掛け金は40〜44歳モデルで、月額2477円〜5981円。

 日教弘では「療養しやすい環境づくりに役立ててほしい」と話している。



 教師ってストレスとプレッシャーが他の職種よりかかりますからね。特に真面目にやっている教師ほど、負担を強いられるでしょう。

 いわゆる病的なうつである「大うつ病」ではなくても、気分変調性障害などでも、仕事をするのがつらくなったりしますからね。むしろ記事にあるような40歳くらいの人で仕事してて疲れとか不眠でつらいと感じるような人は、うつ病というより最近では「気分変調性障害」と診断されるのではないでしょうか。

 どちらにしろうつ病には違いないので、療養して、復職していただければ、と思います。

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医学処:「君が代神経症」だってさ。
医学処:頭の悪い保護者が増え、精神疾患を抱える教師も増加傾向に
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2008年06月24日

恐怖の記憶にブレーキをかけるたんぱく質を発見する

過剰な恐怖の「ブレーキ役」解明 群馬大がマウス実験

 恐怖を感じるような体験をした際、脳内の特定のタンパク質が、過剰な恐怖記憶を作らないよう「ブレーキ役」として働いていることを、群馬大の児島伸彦講師(神経薬理学)らのグループがマウスの実験で突き止め、18日付の米専門誌に発表した。

 過剰な恐怖記憶は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の原因になるため、グループは、このタンパク質の研究を進めることで、PTSDなどの予防や治療に役立つ可能性があるとしている。

 タンパク質は「アイサー」と呼ばれ、遺伝子からタンパク質が合成される転写という段階にかかわることが知られている。グループによると、恐怖が記憶として残る際、ある種のタンパク質が脳内で合成されることが分かっており、アイサーはその合成を抑制する働きがあると考えられるという。



 アイサーが強烈なストレスによって出現しなくなった場合、恐怖が記憶として定着し、PTSDとして何かの機会にフと思い出してしまうんでしょうか。

 記憶も単なるシナプスと電気によって蓄積されているとしたら、アイサーのようなたんぱく質によって電気の増減をコントロールしてやれば、治療にも使えるようになるかもしれませんね。難しいんでしょうけれど。

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2008年06月23日

ニートは発達障害や精神疾患かもしれません

ニートに心身の問題 盛岡の支援団体調査

 働きたくても、うまく働けない−。ニート(若年無業者)の就業を支援する盛岡市の盛岡地域若者サポートステーション(高井昭平代表)の調査で、利用者の多くに軽度の発達障害や精神疾患があることが判明した。就労意欲不足だけでなく、心身の問題が社会進出の阻害要因になっていることが分かり、同ステーションは医療や福祉分野と連携した支援を目指す。

 「周りのスピードに合わせて仕事をこなすのが大変だった」

 昨年10月から同ステーションに通う滝沢村の30代前半男性は、専門学校卒業後に一般事務や接客業などを転々とした。最近5年間は就職できずにいる。コミュニケーションに苦手意識はないが、思った内容をすぐに伝えることが苦手という

 同ステーションでは、ほかの利用者と紙すきや名刺作りに取り組む。会話は少なく、それぞれ淡々と作業を進める。スタッフの高橋和子さん(62)がアイデアを求めるが、意見は出ても議論にならない。

 同ステーションが大学などと協力して行った知能検査では、利用者14人のうち12人に発達障害の傾向があった。▽処理速度が低い状況理解が弱い見て覚えることが苦手−などの判定項目に一部が当てはまった。

 利用者のカウンセリングを行う中島淳子臨床心理士は「コミュニケーションが苦手と話す利用者が多い」と指摘。「サポートのある環境下で失敗や苦手分野を経験し、さらに『これなら自分でもできる』という分野を見つけ出すことが後の就職活動につながる」と話す。

 同ステーションは開設から2年。進路決定などで成果を上げる一方、本人の就労意欲や厳しい雇用情勢とは異なる医療、福祉的な阻害要因が調査で浮かび上がった。

 利用者の了解を得て県発達障害者支援センター(盛岡市)などに紹介状を送付。医師の意見も求め、支援上の注意点把握に努める。

 高井代表は「ニート問題は想像以上に根深い。発達障害については学校など教育現場や家庭とも幅広く連携して対応したい」と意欲を見せる。



 今までと違って精神科の垣根が少しだけ低くなったからこそ、ニートも発達障害の一種として認められたわけです。

 今までもおそらく同様の状況はあったんでしょうけれど、根性がない、使えねえ、といった攻撃を、常に加えられ続けていた人も大勢いるのではないでしょうか。だから、潜在的なニートのような発達障害は昔にもいたと思うのです。

 ただ、単に生活レベルが高くて、就業意欲がないというだけのニートは、別に病気でもなんでもないので。親に甘えているにすぎません。そこらへんの鑑別が今後の課題でしょうか。何でもかんでもニートを病気とせず、されども、病気は病気でケアしていく、という具合に。

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