60歳以上にも補助人工心臓を 心臓移植の対象外で、現状は適用にハードル 「いよいよ国内でも補助人工心臓が臨床で使用可能になる。重要な問題は、
60歳以上の患者にも使えるかどうか。最低限65歳までの心不全患者には積極的に適用できるようにしていくべきだ」。東京大学重症心不全治療開発講座特任教授の許俊鋭氏はこう話す。
今年、人工心臓の領域に、大きな変化が起きる。国産の埋め込み型補助人工心臓が相次いで保険適用され、臨床現場に登場する見込みだからだ。体内にポンプを埋め込み、ポンプの力で大動脈へと血液を持続的に駆出する。従来の体外式の補助人工心臓を付ける場合とは異なり、患者は従来よりも自由な行動ができる。
埋め込み型補助人工心臓の適用条件は、
心臓移植の待機リストに載っているか、登録申請中であること。国内の埋め込み型補助人工心臓の考え方は、心臓移植までのつなぎとしての利用となっている。人工心臓で心機能を代替する延命治療としての用途では適用されない。
この場合に問題となるのが、60歳以上の患者に埋め込み型補助人工心臓が適用できるか否か。というのは、従来、心臓移植の適用条件は、実質的に60歳未満に限定されてきたからだ。日本循環器学会心臓移植委員会は、心臓移植の適応条件として「60歳未満が望ましい」と規定。国内では2010年の実績で心臓移植が年間23人にしか行われない中で、若年層への移植を優先しようとの考えがあったからだ。この記載もあり、60歳以上の心不全の患者が、日本臓器移植ネットワークの移植待機リストに登録されるのは難しかった。
埋め込み型補助人工心臓の適応条件で従来の補助人工心臓と大きく異なるのは、待機リストの登録者だけではなく、申請者も対象となったことだ。60歳以上の患者が申請さえしていれば、適応される道が開かれたのは大きな変化となる。
許氏は、「補助人工心臓は大量生産が可能で、心臓移植のような量的制限は問題になりにくい。これからは心臓移植を受けるチャンスがなかった60歳以上の患者にこそ、補助人工心臓を適用する方向に持っていくべき。最低限、現役世代と言える65歳までは適応になる」と話す。6学会、2研究会で構成する日本臨床補助人工心臓研究会は2010年11月、埋め込み型補助人工心臓の実施基準案の患者の選択基準として「65歳以下が望ましい(身体能力によっては65歳以上も考慮する)」と掲げた。
医療費について許氏は、「問題ないのではないか。米国の人工心臓に関わる医療費は600億円から800億円と見られる。日本では、5分の1から8分の1になるのではないか。金額は年間100億円ほどと推定する。現在、
渡航移植や体外式補助人工心臓に使われている費用を当てれば賄える規模。今後、最大で年間300例ほどが恩恵を受けるのでは」と見る。透析医療にかかる経費は2兆円を超えるが、そうした規模に高まることはないとの考え。
「国内では認定組織で治療が行われる。「J-MACS」という枠組みで全例登録もされる。60歳以上に対して闇雲に補助人工心臓が適用されることはない」と許氏は説明する。
補助人工心臓を60歳以上の高年齢層に適用していくことには慎重な考えも根強いようだ。
一つには、医療コストへのインパクトに対する懸念が行政側にあると見られている。国内に
は心不全の患者が100万人から200万人と推定されており、大多数が60歳超と推定される。こうした患者層に補助人工心臓が延命治療として実施されたとすれば、透析医療に並ぶ規模の医療費がかかるかもしれないという見方がある。
加齢に伴って、日常生活が強く制限される重症心不全に至るケースはある。無症状であったり、薬物療法で改善が見られたりすればよいが、症状が悪化していけば心臓移植の適応条件の範疇にも入る。
埋め込み型補助人工心臓の登場は、心臓移植を受ける機会がなかった60歳以上の心不全患者にとっては福音だ。
従来、60歳以上で心不全が進行した場合、心臓移植への道は選べない。国内で2010年、心臓移植が年間23人にしか行われていない。日本循環器学会心臓移植委員会の適応条件では、「60歳未満が望ましい」と記載、60歳以上の心不全患者は日本臓器移植ネットワークの待機リストに登録することが難しい。移植心臓は若年層に優先的に回ることになる。
治療の選択肢がなかった60歳以上の心不全患者が、埋め込み型補助人工心臓の適用を受けたいと希望してきて不思議はない。移植希望の待機リストに申請をすれば、適応の可能性はある。
もっとも、埋め込み型補助人工心臓の適応条件は、心臓移植までの待機期間をつなぐ目的のみに限るとされる。その前提に立てば、国内の移植心臓のドナーが急増しない状況で、60歳以上の心不全の患者に補助人工心臓を適用するのは筋が通らないとの見方はあるだろう。60歳以上の患者に対して、心臓移植が行われる見込みがないからだ。
なるほど・・・いいことばかりじゃないですね。
確かに現実問題として、この適応範囲を広げてしまったら、どうなってしまうのか。透析クラスの医療費が必要になってしまう。
いやそもそもそれ以前に高齢で心不全で、となったら、その寿命という話もありますし。希望すれば誰でも受けられる医療、とするわけにはいかなそうです。
とはいえ移植後進国の日本にとってはこれは大変有用です。心臓移植までの待ちの間、これがあれば病院で何年も入院しなければならないということもなくなるでしょうし、患者さんのQOLも飛躍的に上がるはずです。