「病院の言葉」を明解に―国語研が都庁で講演 難解な医療用語を分かりやすく―。医療者と患者のコミュニケーションの向上を図るため、2007年に設立された独立行政法人国立国語研究所の「病院の言葉」委員会。昨年秋にまとめた中間報告では、「炎症」や「エビデンス」など57語について伝達の工夫を提案した。3月の最終報告発表を間近に控え、同研究所研究開発部門言語問題グループ長の田中牧郎氏がこのほど、東京都庁で医療者を前に講演した。田中氏は「これ(提案)がマニュアルとして受け止められるとまずいので、あえて言葉はこのぐらいに限り、考え方を示した。あとは現場で応用していただきたい」と語った。
まず、同委員会が現場の医師に実施したアンケートで、医療者が患者とのコミュニケーションで問題があると感じている言葉を調査。その結果、800種類の用語が寄せられた。
その800語を分析したところ、(1)患者に言葉が知られていない(「
重篤」や「
日和見感染」など)(2)患者の理解が不確か(「炎症」や「ショック」など)(3)患者に理解を妨げる心理的負担がある(「腫瘍」や「予後」など)―の主に3つに分類された。それぞれの用語を各類型に当てはめる目的で、選定した100語について、非医療者を対象にさらに調査を行った。
中間報告では、(2)を理解度と認知度の観点から、▽意味が分かっていない▽知識が不十分▽別の意味と混同―の3つに細分化。その上で、(A)日常語に言い換える(B)明確に説明する(C)重要で新しい概念を普及する―の3つの工夫を示し、さらに100語の中から選んだ57語について提案した。
講演で田中氏は、「
30年ぐらい前と比べると、今の医療者の方々は本当に患者に説明していると思う」と評価しながらも、「患者から見ると、説明されていても、
本当に分かって同意しているのかという問題がある。おそらく医療者の方々も、『この患者さん、分かってないな』というふうに感じているが、解決しようという機運に医療界がなっていないと思う」と、言葉の専門家の立場から検討を始めた経緯を説明。
また、他の表現に言い換えてほしいカタカナ語を尋ねた意識調査で、「政治・経済」と「医療・福祉」の分野の割合がそれぞれ56.4%、56.0%で突出して高かった例を挙げ、「カタカナ語が多いか少ないかの問題ではなく、分かりにくい言葉があると困る。その部分について言い換えてほしい」と指摘した。
(2)の「別の意味と混同」の中で、田中氏は「合併症」を例示し、「『合併症』はかなり深刻な問題が起こっている。訴訟に発展する場合もある」と発言。「別々のものが一つになる」という日常言語としての「合併」のイメージについて触れ、「ある病気が原因となって起こる別の病気」という意味の「病気の合併症」と、「手術や検査などの後、それらが基になって起こる病気」という意味の「手術や検査などの合併症」との違いを説明した。
特に「手術や検査などの合併症」では、手術や検査の後に発症するため、患者やその家族が「医療ミス」と勘違いするケースがあると指摘。解決策として、分かりやすい説明を心掛け、「手術や検査などの合併症」では、「併発症」「手術併発症」「検査併発症」といった別の言葉を使用することを提案した。
同委員会では、中間報告の内容をまとめた冊子「病院の言葉を分かりやすくする提案」を全国の臨床研修指定病院に郵送。その後、インターネット上で実施したアンケート(途中経過)では、「参考になった」と考える医療者の割合が9割以上に上り、満足度の高さをうかがわせた。
田中氏は、「今回こういうことをやって、類型と例を示した。あとは、現場で体験の豊富な医療者の方々が自分たちで工夫をすれば、おそらくうまくいくだろう。調査のデータは100語しかないが、経験を積んでいくと、患者が理解していそうな言葉と分かってなさそうな言葉は分かるのではないか」と述べ、医療者と患者のコミュニケーション向上に期待感を示した。
最終報告を発表するフォーラムは3月7日に都内で開かれる予定で、同10日ごろには57語を網羅した市販本も発刊される。
医療用語を分かりやすい言葉に置き換える、というのも、医者に求められる1つの能力なのでしょう。
近年、医者は患者さんが分かりやすいように努力して説明するようになっていると思います。それでも、「これじゃあわからんだろう」という説明もしばしばあるのが事実です。
自分が医学部に入って知った言葉は、患者さんは当然知らないわけです。それを出来るだけ一般用語に置き換えて話す、というのは有能な医師ならば既にやっていることだとは思いますが、なかなか出来ない医者というのもいます。そういう人のためにもこういったフォーラムやマニュアル作りは必要です。
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