手術のトレーニング 手術ミスなどを防ぎ、安全な医療を提供するため、献体を使った手術のトレーニングを普及させる試みが我が国でも動き出している。
医学が進歩し、新しい手術法や装置は、次々に開発されるが、患者にそうした新治療を施す前に訓練する機会は少ない。一定レベルのがんや心臓の手術に習熟するには、年間数十件以上が必要とされるが、経験の少ない医師は、動物やコンピューターを駆使した模擬手術訓練装置で、腕を磨いているのが現状だ。
こうした状況の中で、若手医師らに手術の訓練の機会を提供しようと、札幌医科大は2003年から、
献体を使った手術トレーニングを始めている。同大の辰巳治之教授(解剖学)は「患者から見れば、医師が手術の研修をするのは当然。医学教育の一環として、他の病院の医師も受け入れている」と説明する。
しかし、札幌医大のような医師のトレーニングに献体を使うことが法律上、認められるかどうか、実は曖昧だ。遺体を傷つけることは、刑法の死体損壊罪で禁止されている。ただし、死体解剖保存法は、医学生が献体を使う解剖実習などの「正常解剖」、死因などを調べるための「病理解剖」については認めているが、
医師免許を持った者のトレーニングについては明確な規定がない。
このため、外科医らが献体を使った医師のトレーニングの普及を目指して設立した、NPO法人「
MERI Japan」(蜂谷裕道理事長、名古屋市)は、昨年に引き続き、今年も7月に構造改革特区を使って、このトレーニングを国に提案した。
5月の参議院厚生労働委員会で、
大塚耕平議員(民主)が、このNPO法人が行った特区申請について質問したところ、柳沢厚労相(当時)が「医療技術の進歩は実地が必要であり、前向きに検討したい」と明言。それだけに、提案に対する回答が注目されていたが、厚生労働省は8月上旬、献体を使った医師のトレーニングについて、「(法律が認める)正常解剖、病理解剖のいずれにも該当しない」として、
現時点での提案を認めなかった。厚労省としては、あくまで医師の研修を正常解剖と認める、社会的な合意が必要という立場だ。
しかし、欧米では、医学の発展のために献体を使うことに規制はなく、医師の手術研修は普及している。日本人の医師の中には海外で、技術向上を目指す人は多い。
例えば、傷んだ関節を人工関節に置き換える手術は、傷口を小さくする「最小侵襲手術」(MIS)が広がっているが、
内視鏡などを使うため、高度な技術が求められる。
同NPO法人の理事で、全国有数の人工関節置換術を行う、平川和男・湘南鎌倉人工関節センター長(神奈川県鎌倉市)も、新しい手術法を患者に実施する前には、欧米、アジアなどで約25回以上のトレーニングを積んだという。
「訓練のおかげで、手術時間も入院期間も短くなり、患者の利益になる。模擬手術訓練装置や動物を使った訓練では、骨の位置、感触が異なり不十分。技術習得には、献体を活用したトレーニングが不可欠」と強調する。
「正常解剖に何を含めるかは行政解釈」という見解もある。厚労省は、医師の研修の必要性、それが正常解剖と解釈ができるか、あるいは法的枠組みが必要かを検討するため、日本外科学会など関係学会の意見を聞いている。
札幌医大では、献体に同意した1300人中、手術トレーニングや学外利用にも同意した人は
約6割の800人に上る。このように、医師の腕を磨くために献体を利用することに理解を示す人は多い。生命倫理に詳しい粟屋剛・岡山大教授は「本人の意思を文書などで残しておけば、献体を研修に使っても法的な問題はない」と指摘する。
医療安全を確保するため、医師が手術の腕を磨き、患者を実験台にしない環境を整備することは重要だ。その一つの解決策が、献体の利用だろう。献体の利用に法的な枠組みが必要であれば、それを検討する。献体を認めないのであれば、他にどんなトレーニングを推進するか。議論を進め、方向性を示すのは国の役割であり、医療不信をなくす大切なプロセスである。
医療技術の進歩に伴い、細部の治療が可能になりました。従来に比べて患者側の負担が少ない画期的な治療も出てきました。
しかし、その医療を扱うには、練習が必要です。練習なしに行える医療などありません。そして日本人は、海外で献体を用いて研修を行っている有様です。
臓器移植だけでなく、献体を用いたトレーニングすらも海外で行う現状、やるせないと思いませんか。法律が整備されていないだけで。
そして厚生労働省は「法律に書いてないから出来ない」という主旨のコメント。全く使えません。さっさと法整備しろと促しているにもかかわらず、書いてないから出来ません、社会が認めないとダメです、と。
少なくともあと2,3年のうちには、全国的に献体を用いたトレーニングが行えるようになってもらいたいものです。
詳しくはこちらからどうぞ。
NPO法人MERI Japanが、献体を用いての技術訓練を日本に普及させる