本日、遅ればせながら、マイケルムーア監督作品「SiCKO」を観てきました。
題名は日本語に直すと「シッコ」と意味の分からないものになってしまいますが、sick、つまり「病気」に関する意味という程度に捉えていただければ良いかと思います。
マイケルムーア監督の作品らしく、アメリカ医療の問題点についてズバズバと切り込んだ作品。といっても医療行為そのものではなく、医療費と保険会社との関係について斬りまくる感じでしょうか。
アメリカ国民の5000万人は、医療保険に加入していません。勿論、医療は全て自己負担。何か病気にかかったり、怪我をすれば全て自己負担。下手をすれば何百万どころか、何千万円の世界にも突入してしまいます。
この部分に焦点をあてた映画なのかなーと思いましたが、大きくはずれまして、「
保険に加入している残りの2億5000万人」について、の映画でした。
医療保険に加入していても、安全な医療を受けられる保障などなく、日本でいうところの自動車保険のように、「医療費を保険会社が支払うかどうかは、保険会社が決めること」ということのようです。たとえ保険会社に入っていても、既往歴があるとか、申告漏れだとか、「実験的な検査」だとか、あの手この手で費用を払わないようにする保険会社。その内部からの証言も盛り込んだ今回の映画は、まさにアメリカの保険会社に大打撃を与えたといっても過言ではありません。
今年見た映画の中で一番面白く、興奮した映画でした。マイケルムーア作品の中では評価が低いとされていた「SiCKO」でしたが、問題意識の低い人、日本に現実的に迫り来る「現実」であることと分からない人にとっては、あまり面白くないかもなーと。「銃」などの分かりやすいテーマではないにしろ、問題点への切り口やまとめ方は、トンでもなく良く出来た映画だと思いますけれどね。
ところで、イギリスやフランスのように医療費が0円の国と比べて、日本の国民皆保険制度はどうなってしまうのでしょうか。
映画を観ながら凄く疑問だったのは、
何故イギリスやフランスは医療費0円でやっていけるのかということ。税金が高いから?しかし税金が高くても、日本と同じか、それ以上の豊かな生活を送っているのは何故でしょうか。日本のほうが国民総生産は高いにもかかわらず、です。私はいままで、ヨーロッパは税金が高い分、社会保障がしっかりしている。ということはすなわち貧民層は拡大するのではないか、と思ったのですが、どうやら違うようです。
強烈に納得した点としては、イギリスやフランスは、国民が政府と同じだけの力を持っているから、社会保障がしっかりしているのだということ。デモを起こしたり、政府の動向を国民が監視しているからこそ、今がある。歴史の深い国特有のパワーバランスの均衡だと思います。
アメリカは、税金や負担などで、国民を牛耳ることに成功しているといえます。些細なデモは起こりますが、医療に関していえばリベラルとは遠く離れています。まさかあれだけ保険会社と政治家の癒着が強いとはねぇ。「歴史の浅い国」だからこそ、ここまで医療崩壊が起こっているのではないでしょうか。加えて、強者に憧れる国民性とでもいいますか、社会全体のことを考えるというよりは自分ひとりのことを考えてしまいがちになるんですかね。ああ、これは保険会社の話です。病院ボランティアが盛んだったりと、献身的な側面もある優れた国民性があるというのがアメリカ国民だとは思うのですが、企業に関していえば、必ずしも当てはまるわけではないなぁ、と。。。
では日本はどうか。歴史は長い。長いが、非常に温厚な民族です。そして第二次世界大戦でアメリカに敗北し、昔の日本からは一新しました。高度経済成長期には、日本人一丸となってがむしゃらに働きました。日本は復活し、世界最高の医療を国民全員が安価で受けられるようになりました。
映画をみてからずっと考えまして、何で日本の医療は崩壊しそうなのか、色々模索してみたのですが、まず、学生運動などのような政府に対峙する運動が起こらないことが挙げられます。日本の政治家は馬鹿です。そんなことは大部分の国民が知っています。しかし、そういった政治家が選ばれている時点で、日本国民も馬鹿だということになるのです。それに抗いたいのなら、運動を起こせばいい。確かに学生運動は、学生だけの一種のオナニーのようなものでしたし、意味があるかといったら、もう少しやり方があったと思うのですが、ああいう政府に対するパワーがないと、いつまでたっても日本という国は良くなりません。
マスコミという存在も、政府を監視する1つの材料ですが、日本のマスコミは政府の宣伝に使われていると思います。事実、医療費が増えてきたときには、医者バッシングを行いました。何が正しいのかを国民に知らしめるために、利益以外の面でマスコミは力を持たなければならないと思います。
あー、なんだか考えることが多すぎて、まとまらなくて申し訳ないのですが、結局、こういった色々な因子が絡み合って、日本の医療は崩壊する傾向にあると思います。イギリスやフランスは決して国としては裕福ではありませんが、国民のために社会保障を行っています。日本は、不景気で国民が医療費に喘いでいても、公共事業に力を注いでいます。アメリカは保険会社と政治家がタッグを組み、日本は土建屋と政治家がタッグを組む。キューバですら国民に安価で医療を提供しているというのに。まるでこちらが発展途上国のようだと思わざるをえません。アメリカも発展途上国のようなものだと思います。しかし日本は本来ならば、フランスの仲間入りを果たしても良い民族なのです。まぁ、国としてまとまって他国と争うようになってからは、100年ぐらいしか経ってませんからね……。あと200年もすれば、フランスのような落ち着いた国になるのかもしれませんが。今すぐにでもなってほしいというのが正直なところです。良い線引きさえ出来れば、風土豊かで食べ物も美味しい、本来の日本の良さを全面に押し出し、かつ社会保障の行き届いている国になると思います。
最後に。それでも今日、日本の医療が3割負担で最高の医療を提供できているのは、他でもない、医療従事者の献身的な努力のおかげです。国も政治家も役人も、努力をしていないに等しいほど、医療従事者は過酷な労働を強いられています。他の国の医師も日本と同様献身的であると思いたいのですが、果たしてアメリカではどうなのでしょうか。治療方針も保険会社のお伺いを立てたり、大学病院ですら、お金を持っていない患者を路上に捨てたりするような驚愕の国。勿論全ての人がそうではないのでしょうけれど、そう言ってしまっては批判も成り立たなくなってしまいますからね。直すべきところは直さないといけません。詳しくは映画をご覧下さい。
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