腹痛薬の原材料の一つとなる生薬「厚朴(こうぼく)」で、正倉院(奈良市)に奈良時代から伝わるものは、現在常用されているホオノキなどのモクレン科ではなく、クルミ科植物の樹皮から作られていたことが、柴田承二・東京大名誉教授と米田該典・大阪大医学部医学史料室研究員の調査で分かった。原料の判明は、正倉院に残るほかの薬物について知るきっかけにもなりそうだ。
正倉院事務所(奈良市)が28日発表した正倉院紀要30号に論文が掲載された。
厚朴は、腹痛などに用いられる生薬。奈良時代当時の用途については不明だが、正倉院のものは東大寺の大仏に献納された薬物を記した「種々薬帳」にも記されている。過去にも2回調査していたが、原料の植物は判明していなかった。
柴田氏らは、国内や中国の植物を集め、植物組織学的に解剖して比較。組織構造の特徴がモクレン科ではなく、クルミ科の植物と一致することが分かった。
厚朴は現代にもあるが、原料植物を規定する国内の公定書ではモクレン科の植物が使われることになっており、クルミ科植物は含まれていない。ただ、中国南部では、現在もクルミ科植物を厚朴の原料として確認できるため、正倉院の厚朴は大陸から渡ってきたとみられる。
米田研究員は「正倉院の薬は広範囲から集まり、もとがよく分からないものも多い。今回の調査は取っかかりになる」と話している。
民間薬と違って、漢方薬には「経験」などという浅く曖昧な情報ではなく、「歴史」という大きなものがバックについています。そのため漢方薬ならば西洋医学と同様に、しっかりと使い方を守れば飲むこともできますし、効果も実証されています。
その歴史の流れに沿ったこのニュース。実際クルミ科の植物との効能の違いはいまいちよくわかりませんが、雄大な歴史ロマンとして浸るのが最も得な見方なのでしょう。
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