ポリフェノールを豊富に含む高カカオチョコレートが健康に関心のあるミドル世代の注目を集めていますが、とり過ぎによる悪影響を心配する声も上がっています。
ここ数年、カカオ分を70%以上含む「高カカオチョコレート」が健康面から支持され、高カカオをうたった製品が数多く発売されています。
原料であるカカオ豆に、抗酸化作用の高いカカオ・ポリフェノールが豊富に含まれていることが人気の理由。ポリフェノールには、心臓病や脳卒中の原因となる動脈硬化のほか、アトピーや花粉症などのアレルギーを引き起こす活性酸素を抑制するはたらきがあり、胃潰瘍や胃がんとの関係が深いピロリ菌、病原性大腸菌O−157の増殖も抑えます。最近では、少量の高カカオチョコレートの日常的な摂取が、血圧を低下させるとの報告もあります。
ところが、このほど国民生活センターから、高カカオチョコレートの過剰摂取への注意を呼びかけるデータが発表されました。同センターのテスト結果によると、高カカオチョコレートの脂質量は普通のチョコレートの1・2〜1・5倍で、カロリーが相対的に高く、利尿・興奮作用のあるテオブロミンやカフェインも多いとのことです。
ポリフェノールと動脈硬化の研究で有名なお茶の水女子大学教授の近藤和雄さんにお話をうかがったところ、テオブロミンとカフェインに関しては「よほど大量に摂取しない限りは心配ない」とのことでした。問題になるのは高カロリーの方です。
近藤さんによると、チョコレートの歴史は古代メキシコのアステカ文明にまでさかのぼります。当時はカカオ分100%。高位の人だけに許された特別な飲み物でした。侵略者のスペイン人によってヨーロッパの王室にもたらされ、その後、砂糖やミルクを加えて嗜好品に改良されたのが現代のチョコレートです。
「チョコレートは七大栄養素(タンパク質、脂肪、炭水化物、ビタミン、ミネラル、食物繊維、抗酸化物質)が凝集された完全食。支配階級はチョコレートの高い栄養価を知ったうえで独占していたんですね」
しかし、近現代になると「栄養不足」の時代から「栄養過多」の時代へと転じます。生活習慣病に代表されるように、カロリーの摂り過ぎがかえって健康に悪影響を及ぼすようになったのです。
抗酸化物質のカカオ・ポリフェノールには「ダイエット効果がある」との声も耳にしますが……。
「テレビの健康番組の影響か、みなさん、すぐ食べ物に高い健康効果を求めたがるんですが、食べ物は1つの物質だけでできているわけではなく、薬でもありません。食品に含まれる抗酸化物質には必ずプラスアルファがあり、そのアルファを知ることが実は大事なんですよ」と近藤さん。
例えば、赤ワインは抗酸化物質+アルコールです。抗酸化物質がからだによくても、アルコールの摂り過ぎは肝障害を引き起こします。同様に、チョコレートは抗酸化物質が豊富ですが、高カロリーの脂質も多く含みます。「チョコレートはカロリーが高い」という「常識」は少なくとも持つ必要がある、と近藤さんは言います。
日本チョコレート・ココア協会によると、健康な成人における高カカオチョコレートの摂取量は「1日30g以内が目安」とのことでした。「30gを摂取した場合のカロリーは、普通のミルクチョコレートでは170kcal、高カカオチョコレートでは180〜200kcalとなり、間食の1日最大摂取量といわれる200kcalに収まります」(同協会)。ポリフェノールは野菜や果物、お茶にも含まれます。
「カロリーが気になる方は、バランスのよい食事に加え、適量の高カカオチョコレートを摂取すると、効率的にポリフェノールが摂取でき、トータルで抗酸化作用が期待できます」と近藤さんはアドバイスします。
どんなものでも、限度があります。健康に良いもの、という理由で必要以上に食べてしまうのが、人間の浅はかなところです。
サプリメント大ブームで、とりあえずサプリメントを飲んでおけば健康、と思っている人も結構いますが、「足りない栄養を補う」目的で用いるには、その日に摂取した食品の栄養素を分析しないといけませんよね。水溶性ビタミンは必要以上に摂っても体外に排出されますが、脂溶性ビタミンとなるとそういうわけにもいきませんし。
とあるアミノ酸飲料が身体に良いと言われていたとき、毎日それを飲みまくった結果、高血糖になったという笑えない話もあります。何事も、ほどほどに。
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