2008年04月17日

化学療法前に正常の細胞を副作用から守る方法を発見する

癌化学療法前の絶食が正常細胞を副作用から守る

 癌化学療法の前に絶食することで、強い薬剤による細胞毒性副作用(toxic side effects)から患者を保護し、悪性細胞だけを攻撃する効果が得られることが示された。化学療法による副作用は癌治療の大きな障害の一つ。

 研究を行った米南カリフォルニア大学ノリスNorris癌センターのValter D. Longo氏によると、今回の知見は試験管レベル、および酵母とマウスを用いた実験によるもので、ヒトでは再現されていないが有望だという。この知見は米国科学アカデミー発行の「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」オンライン版に3月31日掲載された。

 Longo氏によると、今回の発想はもともとアンチエイジング(抗加齢)という異分野の研究から得たという。正常細胞にはあらゆる危険やストレスから生体を守る「防御モード」があることを突き止めたLongo氏らは、この特質を利用して、化学療法を実施する際に正常細胞と癌細胞とを区別することができないかと考えた。

 飢餓状態を模倣するよう遺伝子操作した酵母において、ストレスに対する防御が得られることが示された。その後、ヒトおよびラットの癌細胞および正常細胞でブドウ糖欠損を誘発したところ、正常細胞は毒性物質から保護され、癌細胞は保護されないことがわかった

 研究グループは次に、脳腫瘍細胞を注射したマウスを高用量の抗癌薬エトポシドに曝露させ、治療前に48時間および60時間の絶食させたマウスと、絶食させなかったマウスとを比較した。その結果、絶食していないマウスの43%が治療から10日以内に死亡したのに対し、48時間絶食マウスでは死亡は1匹だけだった。また、絶食マウスは治療前に体重が20%減少したが、治療後4日で元の体重に戻ったのに対し、絶食していないマウスは治療後20%の体重減少がみられた。絶食していないマウスにみられた運動障害、体毛の乱れ、姿勢の悪化などの毒性副作用も48時間絶食マウスには認められなかった。

 60時間絶食マウスはさらに高用量の薬剤に曝露させたところ、絶食していないマウスは5日以内に全部死亡したが、絶食マウスには死亡例はなかった。絶食による体重減少は治療後ほぼ回復し、毒性の徴候も認められなかった。Longo氏らは、短期間の絶食により正常細胞が保護され、癌細胞のみ治療することが可能と結論付け、ヒトを対象とする試験を準備しているという。

 別の専門家は、この研究を化学療法の望ましくない副作用を軽減する取り組みとして「理にかなった」もので、極めて興味深く、期待できると述べている。ただし、この方法が誰に対しても有効であるとは限らない点も指摘している。



 これは興味深い!正常の細胞が正常たる点に着目し、不死・増殖という癌の特徴を見事に利用した手法です。

 絶食という、生物にとっては命の一大事となりうる状況を作ることで、正常細胞だけに通常とは違った活性化を与えるという着眼点が素晴らしい。是非とも人での臨床試験で成功させてもらいたいものです。

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posted by さじ at 20:27 | Comment(0) | TrackBack(0) | がん
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