脳の活性化になる、と人気の体操がある。手の動きから「フリフリグッパー」と名付けられた。茨城県利根町の保健センターを中心に、認知症予防策の一つとして始まった。
認知症と生活習慣には関係があるのか。このテーマを研究する筑波大の朝田隆教授から01年、利根町に協力要請があった。受諾した町は同年、65歳以上を対象に44回の講座を開き、記憶力など認知機能のテストも実施。受講者の一部約400人が翌年から、栄養、運動、睡眠のいずれかの実習に参加した。
「フリフリグッパー」は、この運動実習で取り入れられた。筑波大の征矢英昭准教授が「血流改善が脳の働きを活性化する」と考案した。栄養実習では動脈硬化を防ぐドコサヘキサエン酸(DHA)の摂取▽睡眠実習では30分程度の昼寝−−などを実践した。
3年後、参加者は再び認知機能のテストを受け、朝田教授らが実習に参加しなかった住民と比較した。詳細な検証はまだだが、実習参加者では記憶力が改善した人が多く、軽度認知障害(MCI)から認知症へ進む割合も低かったという。
町は住民ボランティアの協力を得て運動集会を続けることにした。3カ所で月2回、50人程度がボール運動の後、フリフリグッパーをする。夫婦で参加する河野晴哉さん(78)は「体操をすると調子がいい。テストも張り合いになる」と話す。保健センターの村田啓子所長は「運動は一人では続けにくいので、住民が集まる場は貴重」と効果に期待する。
一方、東京。23区で2番目に人口の多い練馬区は05年度から、住民ボランティアによる認知症予防推進員の育成を始めた。研修を受けた約300人がウオーキングなど自ら企画して活動する。
宇良千秋研究員によると、アルツハイマー病の予防は運動や食事のほか、知的活動、人との接触なども関連があり、早い段階で脳の機能を鍛えれば発症を遅らせることができると期待する。
また、愛知県豊橋市は03年度から、住民主導型のプログラムを取り入れている。市介護保険課は「(住民主導型プログラムは)参加者が認知症予防の目的を意識しているので『自力で続けよう』という意欲が強く、自主化しやすい。発症者への理解も深まり、認知症対策に多くの住民を巻き込める」と話す。昨年度までに12グループ90人が参加し、ほとんどが今も自主的に活動を続けている。
◇Q&A
認知症はどういう病気なのか。浴風会病院の須貝佑一精神科診療部長に聞いた。
■認知症は予防できる?
海外の疫学調査で、予防の可能性を示すデータが蓄積されてきた。食事や運動、頭の使い方などが複雑に関係している。
■もの忘れは認知症の始まり?
年齢的なもの忘れは、記憶の回路が残っており後で思い出せるが、認知症は記憶全体がすっぽり抜け落ち、ヒントを与えても思い出せない。ただ、最初は家族も気付かないことが多い。
■軽度認知障害(MCI)とは?
通常の物忘れから認知症に移る期間のことで、早く対策を打てば発症を遅らせられるのではと注目されている。ただ、共通の診断基準がまだなく、MCIの何割が約何年で認知症に移行するかも見解が分かれる。記憶力、注意力、計算力など障害にも複数のタイプがあり、異なる対応が必要だ。
■脳は鍛えるべきか?
「認知的予備力」といい、社会活動などで神経細胞ネットワークを増やしておくと、病気になっても症状の出方が遅れるとみられている。運動、食事、認知的予備力の3本柱のうち、運動と食事を基本に、計算ドリルなどは楽しめる範囲で。機能が衰えた人に無理強いはよくない。自治体の予防事業も、検診に来なくなった人をどうすくい上げるかが課題だ。
常日頃から、頭を使うということを意識すべきかもしれませんね。例えばちょっとした買い物の時に、メモをせず、記憶して行くとか。記憶力は衰える一方ですが、その衰え方を減らすためには記憶するしかないんですよね。
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