大相撲・時津風部屋の力士急死などを受けて死因究明制度の充実が求められるなか、警察庁は23日、日本法医学会(理事長・中園一郎長崎大教授)に、解剖体制の整備に協力を求める要望書を提出し、解剖医の育成と地域偏在の解消について一層の配慮を要請した。
同学会は昨年末、同庁を含む関係省庁に「解剖医の育成と確保に早急に取り組んでほしい」と陳情しており、一線で問題に直面する者同士が同じ「SOS」を発信し合った格好だ。
全国の警察が2007年中に扱った死因不明の遺体は15万4579体で、うち解剖されたのは1割に満たない。背景に解剖医が全国で約130人しかいない現状があり、四国や九州では不在か1人という県も増えている。今春に退官、転任する法医学教室の教授の後任が決まらない地域もあり、解剖医の“空白地”の拡大も懸念されている。
この日、同庁の種谷良二・捜査1課長は中園理事長に、「司法解剖の役割は一段と重要になっており、体制整備に協力してほしい」と要望。中園理事長は「解剖医不足は深刻で現場の負担は限界に近い。国にも協力してほしい」と応えた。
死因究明制度にかかわる法律や所管省庁は複数にわたり、縦割り行政の下で、その不備が放置されてきた。政府は昨年末、関係4省庁で構成する検討会議を設置したが、一層の連携と議論が求められている。
法医学って、学問としてはめちゃくちゃ面白いんですが、やはり世間一般的には生きている人間を診れないというイメージが強いんだと思います。実際には生きている人間も診ます。どういった具合にこの傷は発生したのか、とか、虐待か否かとか、色々やっているわけです。
記事でも指摘されているように、現在日本で異状死体として届け出られた遺体のうち、異状であるにもかかわらず解剖されたのは1割。犯罪性があって、検察官や警察署長の嘱託や裁判所の許可状があれば行える「司法解剖」は大学の法医学教室が担当し、原因を究明します。解剖を行うことで新たな事実が発覚するかもしれないし、事故で死んだのか内因性の病気で死んだのか、など色々分かります。
では犯罪性があるかどうか分からん異状死体があったらどうするか。「行政解剖」というものを行います。これはいわゆる監察医制度がある地域で行うもので、遺族の同意がなくても、解剖し、原因を究明することができます。解剖をすることで事件性の有無だけでなく、本当の死因が特定できるわけです。
ところが、この行政解剖を行っているのは東京23区、横浜、名古屋、大阪、神戸の5箇所しかありません。わずか5箇所でしか行っていないのです。その他の地域では承諾解剖として行っていますが、これは遺族の同意が必須なので、数はあまりやられておらず、現状として警察官と医師が検視するだけ、となってしまっています。
要するに完全犯罪を起こしたいのなら、監察医制度を行っていない5都市以外で行うべきだ、ということにもなってしまうわけです。犯罪性をクリアにするためにも解剖は必須といっても過言ではないのですが、現状は監察医、法医学者の不足に悩まされているようです。
今後の訴訟社会において、死因の究明や、いつ死んだのか、どういった状況で死んだのか、など、「本人」が明らかにできない情報を抽出できるスペシャリストとして法医学者は重宝されます。人を治す医学と、社会との折り合いをつけられる人材です。産婦人科医などのように厚待遇にするのが一番手っ取り早いとは思うのですが、難しいところですね。
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