ある男性会社員(47)は10月の週末の夜、東京のJR駅近くの路上で人だかりを見つけた。横たわる男性に、救急隊員がAEDを使っていた様子に、「自分が第一発見者で、衆人環視の中、AEDを使わなければならなかったら。自分のせいで(救命に)失敗したら。そう考えると身がすくんだ」と振り返る。
2004年、厚生労働省の通達で、高度な医療知識や複雑な操作がいらないAEDを一般の人も使えるようになり、「AED」と書かれた箱を街で目にするようになった。
総務省消防庁によると、「市民」が心肺停止の現場を目撃した事例は05年で1万6257件。このうち救急搬送前のAED使用は41件だったが、06年の使用事例は1万8320件中140件に急増した。
さらに、使用した140件の内訳を見ると、「市民」の中には統計上、医師や看護師ら医療従事者が多く含まれている可能性が高い。東京消防庁の速報値では、今年1月から10月までに病院施設以外の場所でAEDを施された人は63人。その際に救命を手助けした「市民」は138人だったが、そのうち少なくとも54人は居合わせた医師や看護師、消防関係者だった。医療関係者が中心となってAEDを使用したとも読める数字だ。
日本救急医学会監事で杏林大学教授の島崎修次さん(67)は「普及台数に比べ、『純粋な』市民が使う例はまだまだ少ないのではないか」と指摘する。「AEDを使うことで救命率は一気に高まることは知っていても、一般の人たちがその場に遭遇した時、大丈夫か、失敗して死なないかと、『事後』を考えて逡巡するのは当然の感情だろう」
使用例のうち命を取り留めた人は05年の11人から、06年は45人に急増した。一方、亡くなる人も多い。こうした現状から、厚生労働省のAEDに関する研究班は、使用者の「動揺」も考慮し、不成功に終わった場合の心のケアにも踏み込んで研究を進めている。
島崎さんは「AEDの音声ガイダンスに従えば大丈夫だが、市民が『事後』も気にせず使える環境を作るには、使う人たちの心の問題を継続的に研究する必要がある」と話す。そして、「心肺蘇生とAEDが使える人が1人でも増え、恐れず『とにかく使ってみる』という意識に変わることが求められる」としている。
AED利用者の心のケア・・・難しいですね。確かにそこを考えないと普及しないかもしれません。
AEDは簡単に利用できるもの、とはいえ、命に直接関わるものですから、自分がそのスイッチを押していいのかどうかためらってしまうものかもしれません。
ですが、行わなければ確実に死んでしまうわけです。勇気をもって使ってみることが大切です。ノーリスク・ハイリターンな代物だと思っていただければ良いと思います。
日本救急医療財団のホームページで、全国約3500か所のAED設置場所が検索できる。施設名、住所、台数などが登録されており、同財団は「身近な所ではどこに設置されているか、日ごろから把握しておくことが大事」と話す。ただ、施設使用時間などの詳細は掲載されていないため、独自の確認が必要だ。
普及具合に比べ登録台数が少ないことから、同財団は設置者側に対し、積極的に設置情報を登録するよう呼びかけている。財団ホームページ
また、埼玉県、愛知県は、携帯サイトで県内設置施設の検索が可能だ。利用できる曜日、時間帯などがわかる。
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