様々な臓器や組織の細胞に変化する人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使って、貧血症のマウスの症状を改善することに、米ホワイトヘッド生物医学研究所とマサチューセッツ工科大学(MIT)などのチームが成功した。京都大学の山中伸弥教授が昨年世界に先駆けて作製したiPS細胞を使って動物の病気の改善を証明したのは初めてで、iPS細胞を使った再生医療の実現に近づく大きな成果と言えそうだ。7日付米科学誌サイエンスに発表する。
研究チームは、赤血球の形が鎌状のため、酸素の運搬能力が低い、遺伝病の「鎌状赤血球症」に着目。この病気の遺伝子を持つマウスの尾の皮膚から、iPS細胞を作製した。病気の原因遺伝子を正常な遺伝子に置き換えた上で、iPS細胞を様々な血液細胞になる造血幹細胞に変化させた。放射線を照射して、造血機能を失った元のマウスにこの細胞を移植したところ、貧血症状が改善された。今回のiPS細胞の作製には、一つのがん遺伝子を含む四つの遺伝子を導入したため、将来のがん化が懸念されたが、iPS細胞作製後に、がん遺伝子を取り除くことにも成功した。
鎌状赤血球症とは、その名の通り、普段は円盤型の赤血球が、鎌のようなするどく尖った形に変形してしまう病気です。常染色体優性遺伝をし、更に黒人に多い病気です。
この実験は、遺伝子のβ鎖の6番目のグルタミンがバリンに置換されているため、と原因は分かっており、その部分を元に戻して正常になった造血幹細胞を移植した、ということでしょう。溶血性貧血として名高いこの病気も、完治することができるのかもしれません。
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