人間の皮膚細胞から、さまざまな臓器・組織の細胞に成長する能力を秘めた「万能細胞」を作ることに成功したと、京都大学の山中伸弥教授(幹細胞生物学)らの研究チームが発表した。
患者と遺伝情報が同じ細胞を作製でき、拒絶反応のない移植医療の実現に向け、大きな前進となる成果だ。山中教授は「数年以内に臨床応用可能」との見通しを示している。米科学誌「セル」電子版に20日掲載される。
山中教授らは、やはり万能細胞として知られる「胚性幹細胞(ES細胞)」の中で、重要な働きをしている4個の遺伝子に着目。30歳代の白人女性の顔から採取した皮膚細胞(研究用市販品)にウイルスを使ってこれらの遺伝子を組み込み約1か月培養したところ、ヒトES細胞と見かけが同じ細胞が出現した。
培養条件を変えることにより、この細胞が、神経細胞や心筋細胞などに変化できる「万能性」を備えた「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」だと確認した。作製効率は皮膚細胞約5000個につき1個で、臨床応用するのに十分という。
岡野栄之・慶応大医学部教授(生理学)の話「非常に重要な成果だ。細胞移植医療への応用が見えてきた。我々が行っている脊髄損傷患者への再生医療研究にも、ヒトiPS細胞を利用したい。医療に応用するには、がん化の危険性を払しょくすることが課題だ」
これまで再生医療で脚光を浴びていたES細胞には〈1〉人間に成長する可能性がある受精卵を壊して作るため、倫理的な批判を伴う〈2〉移植に使うと拒絶反応が避けられない――という問題があった。クローン技術を利用するクローンES細胞を使うと拒絶反応を回避できるが、材料となる卵子の確保が困難だ。iPS細胞なら、これらの問題をすべて克服できる。
ただ、山中教授らが遺伝子の組み込みに利用したウイルスは、発がん性との関連が指摘されているほか、組み込んだ遺伝子の一つはがん遺伝子だ。移植後にがん化しないような工夫が課題として残る。
数年以内に臨床応用可能とは、相当な自信です。是非とも頑張ってほしいところです。
記事中の、慶応大学の岡野教授の研究でもある脊髄再生の記事はこちらをどうぞ。
なお、ES細胞に反対しまくっている、アメリカの大統領からも賞賛の声が届いたようです。↓
万能細胞の作製、ブッシュ大統領が喜び声明
京都大など日米の2グループが人間の皮膚細胞から万能細胞を作製したことについて、米ホワイトハウスは20日、「ブッシュ大統領はとても喜んでいる」との声明を発表した。
多くの米国民が万能細胞の医療応用に期待する中、ブッシュ大統領は受精卵を材料に作る従来の方式に関しては「生命の破壊」と批判し代替技術の開発を求めてきた。