JST(理事長 北澤宏一)は、生体の骨量と脂肪のバランスを調節するメカニズムにおいて、「Wnt5a」という細胞外分泌たんぱく質が決定的に重要な働きをしていることを、マウスを使った研究で突き止めました。具体的には、生体の骨量調節においては脂肪細胞を増やす作用を持つ「PPARγ」注1)(ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ)が関与し、Wnt5aはそのPPARγの機能制御を介して骨量調節を行っていることが分かりました。
骨髄に存在する間葉系幹細胞は、脂肪細胞や骨芽細胞、筋芽細胞など多様な細胞種に分化することが知られています。そうした間葉系幹細胞の分化によって生体の骨や筋肉、脂肪などのバランスが保たれていますが、肥満や骨粗鬆症などの病態ではこのバランスが崩れていることが報告されています。そのため、このバランスを制御するメカニズムの解明が待たれていました。
研究チームは今回、骨髄中に存在する間葉系幹細胞が脂肪細胞や骨芽細胞に分化することに着目し、脂肪細胞を増やすPPARγの機能抑制因子の同定を試みました。その結果、細胞外分泌たんぱく質であるWnt5aが核においてリン酸化酵素NLKを活性化し、PPAR機能を抑制することを発見しました。
本研究の成果は、今まで明確でなかった骨芽細胞・脂肪細胞への分化・振り分けのメカニズム、および老化や骨粗鬆症に伴って起こる骨組織中の脂肪細胞蓄積の原因の一端を明らかにしたことです。また、Wnt5aやNLKの活性制御物質を開発すれば、肥満の低下や骨量増加が期待されることから、肥満や骨粗鬆症などの治療開発の一助になるものと思われます。
PPARγは、脂肪細胞の分化を促進します。つまり脂肪細胞の数が増えるので、肥満に陥りやすくなります。
これだけ見ると凄く悪者なPPARγですが、実はいい作用もあるんです。脂肪細胞の分化を逆手に取った効能が。
例えば正常な脂肪細胞の大きさを『。』とします。小さい丸ですね。もしメタボリックになったりすると、脂肪細胞は脂肪を蓄えた状態ですので、脂肪細胞の大きさは『○』ぐらいになります。取り込まれるトリグリセリドの量もかなり多い状態です。
しかしここでPPARγを作用させてやると、脂肪細胞の分化が進みますので、『○』は『。。。。』みたいになるんです。数は多くなれど、1個あたりの脂肪細胞は小さくなります。
更にPPARγ作用には、肝臓や筋肉でのインスリン感受性を増加させる働きもあります。
インスリンに抵抗性のある人にPPARγ作用薬である「ピオグリタゾン」を投与することで、インスリン抵抗性を改善することができます。
ただ副作用として、女性に多い「浮腫」「体重増加」「肝機能障害」などがありますのでご注意。
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