約20年間、アルツハイマー病の治療、研究に取り組んできた田平武・国立長寿医療センター研究所長は「治療法がここまで進むとは夢にも思わなかった」と、最近のワクチン療法の進歩を語る。
アルツハイマー病患者の脳に共通して見られるのは、シミのような老人斑だ。老人斑の主成分は、神経細胞を殺すアミロイドベータ(Aβ)たんぱく。これが脳に蓄積して塊となると神経細胞が次々と死に、記憶障害などが起きる。治療の焦点は、この老人斑をいかに減らすかだ。
約10年前、突破口を開けたのは米国の研究者だ。マウスにAβたんぱくを注射したところ、脳内に抗体ができ、老人斑が減ることを確認した。毒性のないウイルスや細菌を注射して、免疫反応を起こして抗体をつくるワクチンと同じ手法が、アルツハイマー病の治療にも通用することが明らかになった。
99年には米国の製薬会社が、患者約300人を対象にAβたんぱくを注射する臨床試験を始めた。途中で約6%の人に脳炎の副作用が起き、試験は中止された。だが、その後の研究で多くの患者で老人斑が消え、認知機能の低下が抑えられたことが分かった。
そこで田平さんらは「脳炎を起こさないワクチン作り」を目指した。方法としては、Aβたんぱくを作り出す遺伝子を組み入れたウイルスベクター(遺伝子の運び屋)を口から摂取し、腸管で抗体を作らせるようにした。
マウス実験の結果、老人斑は著しく減り、迷路テストでも認知機能が良くなったことが分かった。老齢のサルでも老人斑が減った。いずれの場合も、副作用の脳炎は起きなかった。
「経口ワクチンの将来性を確信した」と田平さん。多くの患者や家族から「経口ワクチンを試したい」との声が届いているが、日本での臨床試験は安全性のハードルが高い。田平さんは各種学会で日本の企業にワクチンの開発を呼び掛けたが、賛同企業は見つからず、現在、手を挙げているのは米国の大学や研究機関だ。
現在、日本で認可されている治療薬は塩酸ドネペジル(製品名アリセプト)だけで、認知症の進行を遅らせる効果はあるものの、根本的な治療薬にはなっていない。ワクチン療法は根本的な治療薬として期待される。
田平さんは「あと数年で治療法の糸口が生まれるところまで来た」と日本独自の経口ワクチンに期待するが、米国から逆輸入される可能性が高そうだ。
日本はこういうところで遅いですからね。まぁ遅いといっても、考え方によっては「安全策をとっているに過ぎない」のですが。厚生労働省の認可スピードは確かに遅いですが、それは過去にあった薬害による国民の怒りを恐れているからではないか、と。何もしなければ、薬害も生まれませんからね。しかし、同時に助かったかもしれない命が助からなかったということでもあります。
ちなみに、老人斑は、アルツハイマーでなくても、加齢に伴って生じます。アルツハイマーでは顕著ですが。
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