東京・千代田区の三井記念病院で、歯科医による外科手術の麻酔(医科麻酔)の研修が不適切な形で行われていた問題で、同病院では、歯科医の研修であるにもかかわらず、患者側には「医師」が麻酔をかけると説明していたことが5日、分かった。
都の立ち入り検査では、麻酔の開始時など重要な場面で指導医が不在だった可能性も浮上しており、日本麻酔科学会と日本歯科麻酔学会が合同で異例の実態調査に乗り出した。同病院も、歯科医が関与した麻酔の全症例(約1000例)の洗い直しを進めている。
昨年10月、腎臓病の男性患者(72)が、研修中の歯科医から全身麻酔を受けた直後、心停止の状態になった。家族によると、手術前や容体急変後に病院からは歯科医の研修という事実は一切告げられず、説明文書には、この歯科医が「麻酔医」「医師」と記されていた。男性は約2か月後に亡くなった。
昨年11月に手術を受け、その後容体が急変して植物状態となった女性患者(73)の場合も、説明文書に「麻酔医」としてこの歯科医の名前だけが記されていた。女性の家族が追及したところ、最近になって病院から「歯科医師が麻酔を行う点についてお伝えできておらず、大変申し訳ない」との文書が届いた。
両症例とも、病院側は歯科医が担当したことと容体急変の因果関係を否定しているが、家族はともに「歯科医が麻酔をかけたとは夢にも思わなかった。納得できない」と憤る。
同病院での歯科医の医科麻酔研修は2003年から、日大歯学部の教授(医師)を指導医に迎え、同学部所属の歯科医を研修歯科医として受け入れる形で始まった。週1回、複数の歯科医が医科麻酔をかけていたが、都によると、麻酔の開始時や覚醒時などは容体が不安定になりやすく、指導医の付き添いが不可欠な場面でも、指導医がいなかった可能性があるという。
同病院はすでに、指導医の監督の不十分さや同意の取り方の不適切さを認め、研修を中止した。
歯科医の医科麻酔研修については、厚生労働省が02年、指導医の監督や患者への説明・同意を得るよう定めた指針を策定した。医師以外の医療行為は医師法で禁じられているが、指針に沿った研修に限り、歯科医でも医科麻酔をかけることが認められている。
しかし、この指針には、具体的な監督方法や、同意の取り方などは明記されていない。都が他病院も調査したところ、昨年度研修を実施した都内19病院のうち11病院でも、患者の同意をきちんと取っていないことなどが明らかになった。
こうした事態に、日本麻酔科学会と日本歯科麻酔学会は、「まず多くの問題が指摘されている三井記念病院や日大歯学部の研修の実態を明らかにする」として、先月末、弁護士を交えた調査委員会を設置。昨年10月に男性患者が心停止した症例について、詳しい状況や心停止との因果関係、患者への説明のあり方などを検証。両学会では、指針の見直し作業も行い、今年度中に改定案を打ち出す方針だ。
もともと、この研修は、歯科医が医科分野の幅広い症例で経験を積み、歯科治療の技術や安全性を高める狙いで行われてきた。日本歯科麻酔学会の福島和昭理事長は「研修自体は必要不可欠。患者や家族、社会に誤解や不安を与えることなく適切な形で研修ができる体制を一刻も早く整えたい」と話している。
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医学処 歯科医を対象に、ずさんな麻酔研修を行っていた三井記念病院。
歯科医に対する研修は、勿論必要です。しかし同意を求めるのは当然ですし、何より説明文書に「麻酔医」「医師」と示しているのは、れっきとした「嘘」ですからね。それは同意の取り方の不適切さと呼べるほど生易しいものじゃないでしょう。
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