脳神経が破壊されるウシのBSE(牛海綿状脳症)や人間が感染するクロイツフェルト・ヤコブ病などの「プリオン病」の進行を抑制する物質を、岐阜大学人獣感染防御研究センターの桑田一夫教授らの研究グループが突き止めた。
動物実験などで、この物質が脳内に蓄積する異常プリオンたんぱく質を激減させることを確認、治療法につながる成果として注目されそう。研究成果は、米国科学アカデミー紀要(電子版)に掲載される。
プリオン病は、脳内にもともと存在する正常プリオンが変化して、異常プリオンとなり、これが蓄積して発症する。
プリオンは、230〜253個のアミノ酸で構成されるが、桑田教授らは、異常プリオンでは、159番目のアミノ酸(アスパラギン)と196番目のアミノ酸(グルタミン酸)との間の距離が、正常プリオンの約3倍に広がっていることに着目した。
コンピューター上で、32万種類の化合物の中から、距離の広がりを食い止める可能性を持つ44種類の化合物を抽出。その中から、アスパラギンとグルタミン酸との距離が広がらないよう、つなぎ留める働きのある鎖状の化合物「GN8」を作り出した。
実験では、異常プリオンを持続的に発現するマウスの培養神経細胞に、この「GN8」を投与したところ、異常プリオンを半分に減らすことができた。また、プリオン病を発症させたマウスに、GN8を投与したところ、食塩水だけを投与した場合と比べて、生存期間が長くなった。
研究グループは、異常プリオンをより効果的に減らすことができるようにGN8を改良し、治験などを行いたいとしている。
治療不可能といわれていたクロイツフェルトヤコブ病にとうとう画期的な治療法が。しかも偶然見つけた物質ではなく、異常プリオンを分析し、その結果に着目して精製した化合物によるもの。まさに科学の力ですね。
参考:GN8
岐阜大の頭文字「G」と共同研究者である長崎大の頭文字「N」をとってつけた化合物の名称で、自然界には存在しない物質。炭素、窒素、水素、酸素からなる有機化合物で、岐阜大学が独自の論理的創薬方法で作り上げた。
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