急な変死があれば休日でも、夜中でも現場に駆けつける――。広島西署などで変死体の死因を特定する「検案医」を長年務めた広島市佐伯区の青木主則医師が12日、91歳で亡くなった。扱った遺体は1766体。負担の重い検案医を88歳まで続け、不慮の死を遂げた人たちを40年以上見送り続けた。
「遺族や警察から事故や自殺の背景を聞くと、ほんとに気の毒でね。何か書いておきたくなって」
亡くなった人の暮らしぶり、死亡時の詳しい状況など、業務として書く「死体検案書」に記さないことをつづっていた。複数の人が亡くなった事故や災害で、誰がどこでどのように亡くなったのか、丁寧な図もつけて残した。
ガードレールにぶつかって車が燃え、幼い男の子が亡くなった事故。後日、母親が青木さんのもとを訪れた話をノートに記した。
――母親は「子供は熱くて苦しんで死んだのではないですか」と質問した。「頭を打ち、すぐ意識が無くなったので、熱いとか痛いとか全く分からなかったはずですよ」と話すと、「それを聞いて心が安まりました。有り難うございました」と言って帰られた。
死亡診断と異なり、死体検案というのは医師に任された大切な仕事です。特に死因が分からない死において、それがなぜ死亡につながったのか、判断しなければならない。それが間違っていれば、それこそ死者が報われない。
昔「きらきらひかる」という法医学の作品がありました。その中でも「死者に対して申し訳ない」という法医学者の苦悩のようなものが垣間見られていましたが、こういった臨床に根ざした医師がまた1人亡くなったと聞くと、大変残念に思えますね。ご冥福をお祈り申し上げます。