高血圧の治療に広く使用されているアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬に、肺癌を縮小させる効果のあることがマウスの研究で示された。ヒトでの研究も近く予定されており、有害性の少ない治療効果が得らることになれば、生存率の低い肺癌治療に新しい希望をもたらすことになる。
ACE阻害薬は、昇圧の原因ともなるアンジオテンシンUの生成を阻害することで降圧効果を発揮するが、同時に血管拡張作用を有するアンジオテンシン-(1-7)と呼ばれる内因性ペプチド(ホルモン)を増加させる働きをもつ。
医学誌「Cancer Research」3月15日号に報告された研究によれば、米ウェイクフォレストWake Forest大学医学部の研究チームは、ACE阻害薬を使用する高血圧患者に肺癌の発症率が低いことに着目。さらに詳しく研究した結果、アンジオテンシン-(1-7)に細胞の成長を促す酵素であるシクロオキシゲナーゼ(cox-2)を減少させる作用があることを突き止めた。
同大学Patricia E. Gallagher氏らは、58歳の患者から採取した癌細胞を2〜4週齢のマウスに移植し、32日間腫瘍を成長させた。マウスの半数にアンジオテンシン-(1-7)を28日間、ACE阻害薬治療を受けるヒトと同程度の血中濃度になるように注射し、残りのマウスには生理食塩水を投与した。終了後の解剖の結果、アンジオテンシン-(1-7)投与群ではcox-2濃度が有意に減少し、腫瘍が30%縮小していたのに対して、生理食塩水投与群の腫瘍は処置前の2.5倍に成長していたという。アンジオテンシン-(1-7)を投与したマウスに毒性の副作用はみられず、体重、心拍数、血圧にも変化はみられなかった。
用量や治療期間についてはさらに研究を重ねる必要があるが、近く開始されるヒトでの研究で良好な結果が得られれば、このような薬剤が肺癌治療に重要な役割を果たすようになるだろうとGallagher氏は述べている。他の治療との併用によって、副作用のある化学療法を減らせる可能性も期待でき、たとえ小さな効果でも、患者にとっては大きな助けになると考えられる。さらに別の専門家は、生体由来の物質を活用して新しい治療薬を創り出す可能性を示すものであると述べている。
米国癌協会(ACS)によると、肺癌は男女ともに癌による死亡原因の第1位で、大腸(結腸)癌、乳癌、前立腺癌を合わせたよりも多くの米国人が肺癌により死亡している。10人に6人が診断から1年以内に死亡し、5年生存率はわずか14%。米国での死亡者数は年間17万人と推定されている。
数がどうのというより、肺癌は治りにくい癌なんですよねぇ。そのため死亡者数も増えているわけです。stageによって化学療法なども行われますが、どうも芳しくない、と。更に期待のイレッサも副作用が強すぎてちょっと使えなさそうだぞ、と。そんな中登場したのが、高血圧で用いられているACE阻害薬なんですね。よくまぁ、ACE阻害薬と肺癌の因果関係に気づいたよなぁ、と感服しっぱなしですが、臨床的に効果が出ればかなり期待できそうです。
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