北米の医療施設で集団感染が相次ぎ、高齢者を中心に死亡例も増えている強毒型の腸炎細菌が、関東地方と東海地方で過去に発病した患者2人の保存試料から検出されたことが9日、明らかになった。国内で強毒型が確認されたのは初めて。調査した国立感染症研究所は「今後拡大する恐れがある」として、医療関係者に警戒を呼び掛けている。
感染研によると、患者は平成13年に発病した関東地方の30代男性と、17年発病の東海地方の30代女性。北米での問題を受けた最近の調査で判明したものの、感染経路は分かっていない。女性は入院患者だが男性は入院歴がなく、いずれも抗生物質の服用後に発病し、薬の変更などで回復したという。
問題の細菌は「クロストリジウム・ディフィシル」。抗生物質による治療で腸の常在菌のバランスが崩れた際に異常に増え、腸炎を起こすことが知られていたが、今回見つかったのは通常のディフィシル菌より多量の毒素を出す変異型で「027型」とも呼ばれる。
2002(平成14)年ごろから米国、カナダで抵抗力が弱った入院患者らの集団感染が相次ぎ、カナダの12病院の調査では、患者1703人中117人が死亡。致死率が約7%と通常より高いことから、米疾病対策センターが注意喚起していた。
北米では、強毒型であることに加え、医療現場でよく使われるフルオロキノロン系の多くの抗生物質が効かない耐性菌が広がり、治療の難しさにつながっている。国内の2例の菌を検査したところ、耐性は北米の菌ほどは強くなかった。
■抗生物質使用に注意
国立感染症研究所の荒川宜親・細菌第2部長の話 「この菌は培養が難しいこともあり、国内の臨床現場での認知度は欧米に比べて低かった。今回検出された菌は幸い、北米の菌ほど抗生物質への耐性は強くなかったが、フルオロキノロン系の抗生物質を多用すると北米と同様に深刻な耐性を招く危険がある。抗生物質は必要な場合に限定して使うことと、しつこい下痢が続く患者に対しては、この菌による感染症も疑い、詳しい検査をすることが重要だ」
Clostridium difficile菌は、偽膜性腸炎の原因菌です。治療のために投与した抗生物質が、大腸にいる常在菌を殺してしまい、Clostridium difficile菌が繁殖しやすくなります(このことを菌交代現象といいます)。
増殖したClostridium difficile菌は毒素を産生し、その結果、腸炎になります。偽膜性腸炎は、感染性腸炎の中の「大腸型」に属するため、症状としては発熱・腹痛・下痢(水様性血便)を呈します。
治療としては、まず常在菌を殺している抗生物質の投与を中止し、更に繁殖してしまったClostridium difficile菌を殺すためにバンコマイシンを経口投与します。
偽膜性腸炎になる別の原因菌としては、黄色ブドウ球菌なども考えられます。
(余談:偽膜というのは、本来あるはずの粘膜が壊死してしまって、線維素の多い滲出液、好中球やその他の円小細胞、壊死組織、細菌などからなる膜のことをいいます)
もしこのClostridium difficile菌が、バンコマイシンなどの耐性をもって流行してしまったら…と考えると、やはり完治するまで薬は飲み続けてもらいたいものです。耐性菌が猛威を奮う時代なのかもしれません。
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