細い樹脂の棒に電圧をかけると、まるで毛虫のようにクネクネ…。そんな高分子アクチュエーター(人工筋肉)の実用化を目指すベンチャー企業が大阪にある。携帯電話や動くおもちゃなど小さなものから介護用ロボットなど大きなものまで、その応用分野は無限。「この分野では他を寄せ付けない技術がある」と胸を張るイーメックス社を訪ねた。
イーメックスは新大阪駅から地下鉄で二つ目の江坂駅から歩いて十分、住宅や工場、商業施設などが混在する一角にある。三階建てのビルに、十五人の若手研究者らが夜遅くまで働く。この地に移転して三年だが、瀬和信吾社長(54)は「来年は完全に黒字です」と手応えを感じている。
瀬和社長と大西和夫専務(44)はともに、医療機器メーカーから大阪工業技術研究所(現在の産業技術総合研究所関西センター)に出向していた仲間。同研究所で五年間、人工筋肉の研究を行った後、二〇〇一年に二人だけで同研究所内にイーメックスを設立した。
二人が独立した背景には、人工筋肉の飛躍的な性能向上があった。きっかけは、研究所時代に大西さんが電極の金メッキを繰り返し実施したところ、メッキが樹脂の中に深く成長、電極の表面積が増大して人工筋肉の曲がりが飛躍的に増大したことだ。「メッキの反応条件がたまたまピッタリだったんです」と大西さん。
この人工筋肉は二ボルト程度の低電圧で動き、電気モーターなどに比べて、小型、軽量、低消費電力、低コスト、無騒音など多くの利点を持つ。イオン伝導タイプと導電性高分子タイプの二タイプがある。前者のタイプの作動原理は、電圧をかけると内部の陽イオンが陰極側に移動、陰極側が膨張することで樹脂が変形し、素早く大きく曲がる。しかし、その力は弱い。後者は、外部の電解質からイオンの出し入れをすることで、ゆっくり長手方向に伸縮するだけだが、力は強い。
同社では、さまざまな試作品が作られている。量産に一番近いのが、携帯電話に内蔵されるカメラの自動焦点装置。「厚さ数ミリの電気モーターが、人工筋肉なら厚さ〇・二ミリ。小型、軽量でコストダウンも可能だ」と瀬和さん。同カメラの手振れ補正装置も完成した。
携帯電話に次いで期待される分野が、電動アクセサリー。着信があるとキャラクターが踊りだす携帯用ストラップや、開くと動物の耳が動きだすグリーティングカード、電磁誘導で水槽内を泳ぐロボット魚などが完成した。二人のもともとの研究テーマである医療機器では、先端が自由に曲がる動脈瘤治療用のカテーテルがある。動脈瘤がある場所に、カテーテルを確実に安全に挿入できる。
期待のもてそうな領域です。コストはかかりそうですが、細かい作業向きの道具など広く応用が効きそうですし、一般化すれば値段も安くなってきますからね。是非確実で安定性のあるものを作ってもらいたいと思います。
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