川崎協同病院(川崎市)に入院中の男性患者(当時58歳)が1998年11月、気管内チューブを抜かれ、筋弛緩剤を投与されて死亡した事件で、殺人罪に問われた元主治医、須田セツ子被告(52)に対する控訴審判決が28日、東京高裁であった。原田国男裁判長は「家族からチューブを抜くよう要請されて決断したもので、その決断を事後的に非難するのは酷な面もある」と述べ、懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役5年)とした1審・横浜地裁判決を破棄し、殺人罪としては最も軽い懲役1年6月、執行猶予3年を言い渡した。
控訴審で、須田被告は「患者は死が不可避な末期状態で、家族から要請されて延命治療を中止した」などと、無罪を主張していた。
判決は、須田被告の治療中止が適法だったかについて、〈1〉患者本人の意思に基づいていたか〈2〉患者の死が切迫していて医師の治療義務が限界に達していたか――という観点から検討。「患者本人の意思は不明で、死期が切迫していたとも認められない」とし、「法的に許されず、殺人罪が成立する」と判断した。
一方で、判決は、患者が死亡した3年後に問題が表面化するまで家族から苦情がなかったことなどを理由に、「家族の要請がなかったとするには合理的な疑いが残る」とし、「家族の意思の確認を怠ったという事実を前提とした1審判決の量刑は不当」と述べた。
また、判決は「尊厳死(治療行為の中止)の問題を根本的に解決するには、尊厳死を許容する法律やガイドラインの策定が必要」とも指摘した。
判決後、須田被告は、家族からの要請があったことなどを認めた判決について、「非常に配慮された判決を頂いた」と、ほおを紅潮させて語った。一方で、無罪主張が認められなかったことについては、「事実誤認の部分もある。上告したいという気持ちもある」と述べた。須田被告は現在、横浜市内の診療所の院長を続けている。
なかなか良識ある裁判長です。家族の意思があったかどうかは家族本人が一番分かってるはずですけれどね。レコーダーなどで録っておくことが医師の身を守る術になるかもしれません。尊厳死は難しい問題ですが、患者とその家族側にたった考え方であることは事実だと思うので、議論していかなければなりませんね。
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