「心療内科」と掲げられた病院を見かける機会が増えた昨今。何か理由があるのでしょうか。心身医学専門医で心療内科医の野崎京子先生に詳しいお話を伺いました。
■「精神科は行きにくいから、心療内科へ」と考える現実
――街で「心療内科」が増えたように思います。実際のところはどうなのでしょうか。
心療内科は、1996年(平成8年)8月に、当時の厚生省から、「標ぼう」を認められました。「標ぼう科」とは、病院や診療所が外部に向けて当院は「○○科」です、と看板を出す、広告をすることが認められている診療科のことです。内科、外科、小児科、皮膚科 精神科などの表記はそれに該当します。
心療内科はまだ歴史が浅いため、日本の心療内科医の人数は精神科医に比べて圧倒的に少なく、2012年8月現在では、「日本心療内科学会」認定の専門医は全国で129名、「日本心身医学会」認定の専門医は全国で586名というのが実情です。
ですが、この15年余りで都市部を中心に、心療内科のクリニックの数は急増を続けています。それには、「心療内科クリニック」を開業する医師の大半は心療内科医ではなく、実は精神科医であるという現実があります。
精神科医がクリニックを開業するとき、「精神科」という看板をあげると患者さんが通いにくいだろうと考え、「心療内科・精神科」と表現することが多いのです。
標ぼうの方法については、現在の医療法では規制はなく、どの科を掲げてもよいことになっています。ですから、わざわざ患者さんが通いにくいだろう「精神科」という看板を表に出す医師は少ないのです。
また、うつ病などの症状で病院を探す患者さんは、「精神科は行きにくいから、心療内科に行こう」と考える人が圧倒的に多い、というデータもあります。これらの理由が重なって、街に心療内科が増えているわけです。
――心療内科に通っているつもりが精神科だった、ということがあるのでしょうか。
大いにあります。現在の確かな数字は出ていませんが、「心療内科の開業医の8〜9割が精神科医」だと言われています。それが患者さんにとって支障があるかどうかというと、心療内科は「内科」の領域であり、内科としての疾患を診察しますから、訪れた精神科医が内科の症状について研究・研さんを積んできたかどうか、適切な診断ができるかどうかがポイントとなるでしょう。
――心療内科の専門医を探すにはどうすればいいのでしょうか。
専門医は「日本心療内科学会」、「日本心身医学会」が実施する試験制度の受験資格を満たし(関連研修施設において5年以上の心療内科学臨床研修を修了していることなど、多岐にわたる)、試験に合格した医師に与えられる資格です。
心療内科の専門医を探すには、「日本心療内科学会」、もしくは「日本心身医学会」のホームページから、「専門医一覧」をご確認ください。後者は氏名の掲載のみですから、電話で問い合わせてください。
まぁでも現実は、開業の心療内科にかかる患者の多くが、精神科にかかったほうがいい患者ですからねー。いや、違いますな。そのうちの何割かは、医療機関にかからなくてもいいぐらいの病状ですから。心療内科を受診して精神科医だったらまだ御の字でね、適切な治療を受けられます。以前も書きましたけれど、最悪なのが内科医がやっているケースですね。処方内容をみれば適切なものかそうでないものかすぐに分かります。
逆に心療内科側は、心療内科が何を診るところなのか、ちゃんと大々的に伝えないといけないと思います。今の日本人、精神科と心療内科の違いを全然知らないですよ。「うつ病は精神科」とちゃんと明確に言わないといけないんじゃないですかね。そのアピールをしないで、心療内科で内因性うつ病を診つづけることこそ、患者にとって不利益と言わざるをえません。
逆に言うと、心療内科にかかっているという人、もし「うつ病」と言われていたら、それはうつ病ではありません。間違いなく。うつ病は精神科の領域ですからね。
〜心療内科で診る疾患〜
心身症、心気症、摂食障害、パニック障害、社会不安障害、うつ状態(≠ うつ病)、仮面うつ病、睡眠障害、自律神経失調症、過敏性腸症候群、機能性胃腸障害、消化管障害、心因性嘔吐症、身体化障害、慢性疼痛・慢性疲労症候群、起立性調節障害、頭痛・緊張性頭痛、心因性の発熱やめまい、書痙・斜頸、コントロールの難しい糖尿病・肥満症、気管支喘息やアトピー性皮膚炎、精神腫瘍学に基づいた、癌患者のケア
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医学処:うつ病かなーと思ったときに、心療内科には絶対に行くな。