封筒の差出人名は「天の使い」。83年から毎月1000円、栃木県鹿沼市社会福祉協議会に郵送される寄付が300回になった。「誰なんだろう」。24年間、差出人は分からないままだったが、この10月、同市内の女性が名乗り出た。病床の夫を励ますための妻の決断だった。
83年1月、同協議会の事務局に一通の封筒が届いた。「天の使い」と書かれた封筒に1000円札が1枚。以後毎月、「春めいてきましたね」「係の人も頑張って下さい」とつづられた手紙と、1000円札1枚が届くようになる。今年8月で278回を数えた。障害者や高齢者のためのボランティア援助金や、中越地震の被災地への支援金にもなった。
「私が送っていました」。10月半ば、「天の使い」が初めて事務局に姿を現した。同市上材木町の小林美恵子さん(74)。300回目までの残り22回分、2万2000円をそっと差し出して「続けたいけれど今回で終わりにします」。
経営する理髪店を改築した時の喜びから、「社会に恩返しがしたい」と始めた。夫の秀雄さん(76)にも秘密だったが、約1年後に打ち明けると「ぜひ続けよう」と言ってくれた。以来、二人三脚で続けてきた。
だが、99年に後継ぎの長男を白血病で失い、昨年には秀雄さんも手足の神経障害で入院。4代続いた老舗理髪店を閉店せざるを得なくなった。収入が絶え、寄付を続けることは出来なくなった。
「200回目の直前に息子が亡くなり、『もうやめる』と言った時、夫は『せっかく続けてきたんじゃないか』と励ましてくれた。やめるにしても300回まで続ければ夫は喜んでくれると」。300回まであと22回。だが、さらに2年続ける自信はなく、その額の全納を決めた。それには名乗り出るしかなかった。
事務局から手渡された300回分の預託証には、秀雄さんの名前も記してもらった。秀雄さんは「やってきたのはお前だろ」。照れながら喜んでくれたという。
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ちょっといい話。