脳脊髄液減少症の概念 医学界の大発見か、それとも大暴論か。
論争が続いてきた「脳脊髄液減少症」(髄液漏れ)について、日本脳神経外科学会の学術委員会が、本格的な研究に取り組む。発症のメカニズムなど、依然として未解明な点も多い髄液漏れは、病気として認められるのか。今後の行方を探った。
◇「診断漏れは医者の責任」
20日午後1時、京都市の国立京都国際会館。学会が初めて、髄液漏れをテーマに取り上げたシンポジウムが終了した後、学術委員会委員長の嘉山孝正・山形大医学部長は会見で「診断漏れがあれば、我々医者の責任。慎重かつ早急に検討したい」と述べ、髄液漏れの研究に乗り出し、診断・治療のガイドラインを作成する方針を明確に示した。手には、苦しみを訴える患者から届いた手紙が握られていた。
さらに「医師によって診断基準に大きなばらつきがある」と現状の問題点を指摘したうえで「学会間の垣根を払い、誰がみても納得できるガイドラインを作らなくてはならない」と述べ、整形外科、脊髄、頭痛などにかかわる学会に「これから働きかける」と意欲を見せた。
髄液漏れは、病気として扱われてこなかったため、診断や治療をしている医療機関がどこに、どれだけあるのか、診断された患者がこれまでに何人いるのかなど、まったく実態が把握されていないのが実情だ。多くの医師が診察で髄液漏れを調べないので、間違った病気(慢性頭痛、頸椎捻挫(けいついねんざ)、むち打ち症、うつ病など)に診断された患者も少なくないという。
今後の診断に当面参考になるのが「脳脊髄液減少症研究会」がまとめたガイドラインだ。これは一部の医師が作成し、20日に公表した暫定的なものだが、髄液漏れを「脳脊髄液が持続的ないし断続的に漏出することによって減少し、頭痛、頸部痛、めまい、耳鳴りなどさまざまな症状を呈する疾患」と定義。「頭を上げて座っていたり、立っていると、3時間以内に悪化する」としているのが特徴だ。髄液漏れと診断されれば、その適正な治療が期待されることになる。
最も信頼性の高い画像診断方法として「RI脳槽・脊髄液腔シンチグラム」を挙げた。髄液が流れている脊髄液腔に、放射性同位元素で目印を付けた特殊な検査薬を注入し、時間ごとに薬の広がり具合を調べるもの。髄液が漏れていれば、脊髄の左右ににじみが出るなどするという。この他に「頭部MRI」などによる診断を参考にする。
治療方法は、2週間の安静臥床とブラッドパッチの二つ。安静に寝ていても改善しない場合、背中に患者自身の血液を注射し、漏れた場所をふさぐブラッドパッチを行う。ガイドラインでは、同一部位への再治療は、原則として3カ月以上の経過観察期間を設けることが望ましいとしている。
◇厚労省、保険適用には慎重 病気認定なら救済も
厚生労働省は、髄液漏れを学会が初めて真正面から取り上げたことを重視。「学会の動向を見て対策などを考える」としてきた同省疾病対策課は「今後、学会などを通じ患者の情報を収集したい。ガイドライン作りの進展具合も注視していきたい」との考えを示した。
ただ、現在唯一の治療法のブラッドパッチが健康保険の対象外になっている問題は、適用に慎重な姿勢を崩していない。同省医療課は「現段階では、疾病自体の定義がはっきりしておらず、有効な治療法として確立しているとはいえない」とその理由を説明する。
一方、自賠責保険を所管する国土交通省保障課は「髄液漏れが病気と認定されれば、交通事故での後遺症もより重度と判断されるようになり、被害者救済に役立つのでは」と話す。
自賠責の後遺症は、症状の重さに応じて1級から14級まである。従来、等級の決定に当たって髄液漏れは病気との認識がなかったため、休職したり、寝たきりになっているのに「事故による後遺症とは言い切れない」として、軽度の14級程度でしか認定されないケースも生まれている。
◇00年に発見された「髄液漏れ」 患者の訴え、学会動かす
00年、篠永正道・国際医療福祉大付属熱海病院教授が「髄液が漏れている患者が、言われてきたよりも非常に多い」ことを発見し、02年に学会で発表。この翌年、篠永氏ら医師数十人が、研究会を発足させて治療や研究を進めてきた。
しかし「髄液はめったに漏れない」が医学界の常識で、大きな声にならないできた。一方、患者からは、ブラッドパッチの健康保険適用や、治療する医療機関を増やすことを求める声が強く、患者や支援者らが04年末、約10万人の署名を厚労省に提出した。その後も、都道府県議会が次々と意見書を採択しているが、厚労省は「学会が相手にしていないレベル」と静観してきた。
昨春、損害保険会社・共済が「本当はむち打ち症なのに、髄液漏れを主張するのは不当だ」として、交通事故で発症した患者と各地で訴訟をしていることが表面化。昨年9月〜今年1月、髄液漏れの発症と事故との因果関係を認める司法判断が相次いで報道されると、関係する学会の関心が一気に高まった。
また今年3月、川崎二郎厚労相(当時)が参院予算委で「(研究者が)関係学会と連携して、厚生労働科学研究費補助金事業に応募すれば、適切に対応する」と初めて前向きな答弁をした。
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いよいよ学会が本格的に動きだしたようです。今まで定説であったことを覆すには労力と勇気が入りますが、頑張ってもらいたいものです。自分の病状が理解されないということは一番つらいことですからね。交通事故、頭部に衝撃を受けた子供など、数多くの人が苦しんでおり、偏見を受けています。一刻もはやい認知と理解を。
医学処 交通事故の衝撃で髄液が減ると脳脊髄液減少症になる。
医学処 子供の脳脊髄液減少症に対する知識と理解を身につける
■脳脊髄液減少症の主な症状■
頭痛、頸部痛、めまい、耳鳴り、視機能障害、けん怠・疲労感が座位、起立位により3時間以内に悪化する
■他の報告例■
(1)脳神経症状:複視、目のぼやけ、光過敏、視野障害、動眼神経まひ(瞳孔散大、まぶたの下垂)、外転神経まひ、顔面神経まひ、顔面痛、聴力低下、聴覚過敏など
(2)脳機能障害:意識障害、無欲、痴呆、記憶障害、小脳失調、歩行障害、パーキンソン症候群など
(3)内分泌障害:乳汁分泌など
(4)その他:嘔気、嘔吐、頸部硬直、上肢の痛み・しびれ、肩甲骨間痛、腰痛、膀胱直腸障害など
※脳脊髄液減少症研究会の暫定ガイドラインによる