癌で化学療法を受けた元患者が、「ケモブレイン(chemo brain)」と呼ばれる慢性的な記憶力および注意力の障害に悩まされることがある。ケモブレインには、脳の代謝および血流の変化が関わっているという知見が、医学誌「Breast Cancer Research and Treatment」オンライン版10月5日号に掲載された。ケモブレインは患者の思い過ごしによるもの、という見方を否定する結果である。
米国女性の死亡原因として、乳癌は肺癌に次いで多く、年間21万1,000人以上が乳癌と診断されており、化学療法を受けた患者の25〜80%が後に記憶障害を訴えている。
今回、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)David Geffen医学部のDaniel H.S. Silverman博士らは、PET(ポジトロンCT)を用いて、5〜10年前に腫瘍摘出術を受けた元乳癌患者21人の脳を検査した。このうち16人は化学療法を受けており、5例は外科手術のみであった。ほかに乳癌罹患歴も化学療法を受けた経験もなく、年齢やその他の条件の類似する女性13人についても検査を実施。被験者が約10分間の「短期記憶課題」に取り組む間、脳の血流を観察し、課題終了後に脳代謝も調べた。ケモブレインとの関係について直接脳を調べた研究は、今回が初めてとのこと。
この結果、化学療法群では、課題に取り組んでいるときに脳の特定部位で比較的大きな血流の「急増」がみられ、ほかの2群に比べ課題の達成率が13%低かった。さらに、化学療法群は課題終了後の前頭葉での脳代謝率が低く、化学療法とホルモン療法を共に受けた患者は、大脳基底核と呼ばれる部位での安静時代謝が約8%低いこともわかった。脳血流の急増は脳活性の高まりを示すものであり、課題を達成する上での負担が大きいことを意味するという。
ケモブレインは患者の生活の質(QOL)を長期にわたり大きく低下させるものであり、今回の知見は喜ばしいニュースとはいえないが、予防という観点からみれば、極めて心強いものだとSilverman氏は述べている。一方、別の専門家は、認知障害は多因子性のもので、年齢や閉経の影響と切り離すことが難しい点も指摘。また、症状が現れる患者は比較的少数であり、時間とともに改善することが多いのも事実だという。
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抗がん剤による影響は深刻のようです。脳の血流が増減するだけで、その人の性格が変わってしまったのかと思わんばかりの作用が…。
いつの日か、脳の受容体には働かないような薬ができるかもしれません。その時までは、知識を身につけることでケモブレインに対処するしかなさそうです。