ラジオの生放送で37年間も毒舌トークを展開し、お年寄りに人気のタレント、毒蝮三太夫さん(70)は、昨年の大みそかに腸閉塞で入院し、41日間の闘病生活を経験しました。学んだのは、何でも食べられるありがたさ、そして…。すっかり元気になったマムシさんに「入院学」を聞きました。
昨年末、便通が悪く、腹にしこりを感じ、かかりつけ医の紹介で専門医を訪ねました。「腸閉塞では」との診断でしたが、内視鏡が患部に届かず、年明けに検査することにしました。
NHK大河ドラマ「義経」の舞台になった鎌倉で年を越すのもオツだなと、30日からホテルに泊まってたんです。ところが、言いようのない痛みが全身に走り、腹も張って苦しい。仕方なく、大みそかに東京の家に帰りました。
痛みは止まらず脂汗も出てきた。救急車を呼んでも「出払ってます」って。飲み過ぎて倒れたり、年寄りがモチをつかえたり、年末年始は忙しいらしいんですよ。自分で運転し、近くの病院に行きました。
出てきた女医さんはオレの顔を見て、カミさんに「手遅れかも…」。腫れ具合が尋常じゃなかったそうで、カミさんは後で「血の気が引いた」と言ってました。結局、別の大きな病院に入院したんですが、気付いたら新年でした。「オツな年越し」どころか、「アン・ハッピー・ニューイヤー」ですよね。
助かったのは、専門医が当直だったから。退院までお世話になり、先生も「ぼくも勉強になりましたよ」って言ってくれましたが、小腸が腹膜に癒着し、破裂直前だったようです。病院って元日は空いてますね。「元日早々に入院なんて」と2日に来る人が多いそうで、おかげで個室に入れましたよ。
子供時代の発疹チフス以来、60年ぶりの入院。点滴など初めてのことだらけ。鼻から管を入れ、1週間かけて胃の中身を吸引しました。そりゃ、辛かったですよ。
「これがまあ おせち料理か2006 管を通して流し込むらん」
退院後にテレビ番組で詠んだ短歌です。食事もできず、水しか飲めない。筋肉が日々衰え、やせていくのがわかりましたね。
1月17日に手術。気持ちだけは元気だから、看護師に「行ってくるぞ」なんて手を振ってね。所要6時間半。無事に終わり、「帰ってきたぞ」って病室に戻ると、彼女たちも「こんな元気な患者さんは初めてだ」って喜んでくれました。
1週間くらいたって、入院後、初めての食事が出る。目の玉が映るくらい薄いスープで、「よくこんなまずいものを作れるな」って。でも、口から食べるのがうれしくてね。その後は食事が待ち遠しかった。
徐々におかゆが硬くなっていく。病院の食事で、はしを使う喜びを知りました。はしで食うってのは、豆でも何でも一つずつ確認して食うこと。ガンモドキが出たとき、医師が「マムシさんはガンじゃなくて、ガンもどきだった」って。うまいことを言うなあ。
入院中は手紙をたくさん書きました。投函しに1階に降りると、食堂からカツ丼とかカレーのいいにおいがする。でも食べられない。「治ったら食ってやるっ」って自分を励ましました。
2月11日、退院しました。看護師さんにお礼を言い、真っ先に行ったのが“恨みの食堂”です。カミさんやマネジャー夫婦ら6人でカツカレー、ラーメン、スパゲティ、サラダ、白玉しるこ、クリームあんみつを頼み、一口ずつ食べました。本当にうまかったな。健康はありがたいと思いました。今でも月一度の診察の帰り、あそこで食事します。オレにとっては記念すべき食堂なんです。
入院で学んだのは、医者や看護師に「治してあげたい」と思わせるようないい患者になること。逆に、医師もきちんとした言葉で患者を勇気づけてほしい。入院直後、あまりに辛いので「痛くて苦しい。治るなら耐えるけど、ちゃんと治るんですか」って聞いてしまいました。そのとき主治医が「あなたの体力と気力があれば大丈夫」って言ってくれて、戦う覚悟ができました。
もう一つ、一番の薬はカミさんの介護でした。やせていくカミさんの姿をみて「オレと一緒に闘ってくれてる」と思いました。カミさんには、これからも世話になります。だから、彼女のファイトが出るようなオレにならなきゃいけない。旅行でも食事でも「行きたい」ところに一緒に行くつもりですよ。
今回の入院を通して、見えない所で多くの方々が心配してくれていると知りました。皆さんのために、今後も頑張ろうと思います。でも、よく、「ファンが一番大事です」っていう人がいるが、あれはウソだ。やっぱりカミさんにはかなわない。だって、ファンが病床で体をふいてくれるわけじゃあないですからね。
毒蝮三太夫
どくまむし・さんだゆう 昭和11年、東京生まれ。23年に舞台「鐘の鳴る丘」でデビュー。日大芸術学部卒業後、「ウルトラマン」などの隊員役で活躍。44年10月からはTBSラジオ「ミュージックプレゼント」で首都圏各地からの中継を続けている。高齢者福祉への関心も深く、平成11年、聖徳大学短期大学部の客員教授に就任。芸名は「笑点」で共演した落語家の立川談志が命名。
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「死にぞこないが」「きたねえ顔したババア」でおなじみ、高齢者のアイドル、毒蝮三太夫さんの手記です。
なんかこう、「いい入院」って感じなんですよね、読んでいて思うのは。医師、看護師に対して屈することもなく、かといって抗うでもなく。自分の不安を打ち明けるところは打ち明け、返ってきた答えは直で受け止める。人間できてる人というのはやはり違いますわなぁ。
腸閉塞、しかも発見が遅れていたようですが、無事復帰されたようです。おめでとうございます。益々のご活躍と毒舌を期待しております。
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