最初に言っておきたいことは、本書の主著者テンプル・グランディンは自閉症である。自閉症にもいろいろ症状はあるが、その中でもサヴァン自閉症と診断されている。
サヴァンとは、フランス語で「学者」、とか「良く知る人」というような意味。自閉症患者に好くありがちな、ある分野に突出した、天才に近い才能を発揮する症状のことを言う。テンプルは動物の言葉が分かるのだ。子どもの時からウマやイヌとつきあい、独自の方法と感受性で動物たちとつき合ってきた。
その感受性は健常者が見るとびっくりするほど深く、密接である。そうしたテンプルが、それまでの動物たちとのつき合ってきた人生を、ほとんど動物たちの目線で書き綴ったのが本書だ。
テンプルはアメリカの食肉処理場に新しい装置を、牛の気持ちになって発明導入し、大成功を納めた。ほとんどの牛は屠殺される前に、最終進入路に入るのを嫌がる。それはアメリカの大規模精肉業界の悩みの種だった。テンプルは牛の視点からその導入路を見て、ウシが喜んで最後の道に入っていけるようなシステムを考案した。テンプルがサヴァン症自閉児だったからこその、成功だと言っていい。
テンプルが確かに動物と話が交わせたことは、この本の原題「アニマルズ・イン・トランスレーション(翻訳)」によく表されている。ちょっとオオカミと親しくなったピアニストであるグリモーの「野生のしらべ」のことを思い出した。彼女のショパンの演奏はちょっとサヴァン自閉症的だったかな、とも思う。
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サヴァン症候群というのは、自閉症の一種で、日常の単純な計算などはできない代わりに、とてつもない記憶力を持っていたりする人のことです。世界で150人ほどいるとされています。
サヴァン症候群の人の能力で有名なものは、「何年の何月何日は何曜日である」と、カレンダーを全て覚えていたり、「一度読んだ本の文章を全て覚えていて、逆から読むことができる」といった驚異的記憶力です。
一説によると「忘れる能力」をもっていないためにこのような記憶力が備わっているといわれています。
「1度ピアノで聞いた音を全て完璧に奏でることができる」能力や「1度見たものを細部にわたって完璧に描ける」など、サヴァン症候群は芸術の分野で力を発揮することが多いようです。