家族の承諾で臓器提供が可能になった昨年7月の改正臓器移植法施行から、家族承諾のみで脳死判定、臓器提供が行われた手術は40件に達した。年間50件を超えるペースで、これまで脳死臓器移植手術が最も多かった07年、08年の年間13件をはるかに上回る急増ぶりだ。大きな変化に医療現場の医師から「移植が標準的な医療になった。救われる命が増えた」と歓迎する声があがる一方、移植手術の経験がある執刀医が不足するなど手術体制の整備が追いつかない現状が浮かび上がった。
岡山大病院(岡山市北区)は昨年7月以降、脳死肺移植を6例、肝臓移植を4例実施した。全国トップクラスの移植実績を誇るが、執刀医不足は深刻だ。同病院で肺移植手術を執刀できるのは大藤剛宏医師1人だけ。大藤医師は「法改正前に手術は年間1〜2件しかなく、少人数でも対応できた。だが移植医療が現実的な選択肢となったいま、もっと充実した手術体制を整えないと、いずれ破綻する」と訴える。
移植手術は「時間との戦い」だ。提供患者が出ると、執刀医には深夜でも日本臓器移植ネットワークから連絡が入る。そこから不眠不休で準備が始まる。患者への連絡、臓器摘出チーム派遣の手配、手術室の確保−−。手術以外の業務まで全てが執刀医にのしかかる。連絡を受けて手術が終わると28時間が過ぎていた。そんなことも頻繁にある。移植と並行して通常の診察、手術もこなさなけらばならない。
大藤医師は昨年末、移植医を希望する若手外科医とともに臓器移植手術件数が多い豪州の病院を訪れた。02年〜07年にかけて大藤医師が勤務していた病院だ。自身の経験を生かし、若手医師に海外で手術経験を積ませる狙い。「ある程度の症例数をこなさないと1人で判断できない。国内だけで育成するのは限界がある」と話す。
昨年7月の改正法施行後、心臓や肝臓などの脳死臓器移植で実績を積み上げる大阪大病院でも事情は同じだ。阪大病院で肝臓移植を担当する永野浩昭准教授は「通常の手術や医療の間に移植手術が入る。外科医自体が不足し、臓器移植手術増加を前提にした執刀医育成は今後の課題だ」と話す。
移植ネットワークによると移植を希望する患者は肺だけで153人。新たにネットワークに登録し、移植を待つ患者は増えている。今後、手術件数が増加するのは確実で、病院側の体制整備をどう進めるかが移植医療の定着に向けた急務となっている。
外科って難しいんですよねぇ。多すぎると症例数が不足して腕を磨くことが出来ないし、少ないとある一定以上の大病院でないとできない手術に対応できないし。
移植が増えてきて、各病院ごとに行える件数も増えていくのでしょうけれど、それをこなす外科医の数に問題ありと。
もっと雑用させている若手に、今のうちから経験を積ませておくことが必要だと思いますね。どこの病院も、「オペやりたがりの重鎮」が積極的にオペするようになってしまって、若手の教育がおざなりになってると感じます。
先を見通せる能力のある人が権力者だと、若手に経験積ませられると思うんですけどね。そういう師とあおぐべき外科医が大病院にいるかどうか。それが今後の外科の運命を分けるのでしょうか。