前知識
【ドミノ肝移植】肝移植を受けたFAP患者の元の肝臓を、さらに別の肝臓病患者に移植する治療法。海外では1995年にポルトガルで、国内では99年に京都大で初めて実施した。今年5月末までに16カ国で517件、日本では信大、京大など7施設で28件実施。ポルトガルでは移植後3年目でアミロイド沈着、英国とドイツでは移植後6―8年目の患者でFAP発症が報告されている。
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難病の家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)の患者から取り出した肝臓を、別の重い肝臓病患者に玉突き式に移植する「ドミノ肝移植」で、FAP肝臓を移植された患者が従来の予想より早くFAPを発症する恐れのあることが、信大病院(松本市)脳神経内科の武井洋一講師らの研究で分かった。研究班は23日に同市で開いた日本肝移植研究会で報告。近く米国の医学専門誌に論文を発表する。
ドミノ肝移植後のFAP進行に関する報告は国内で初めて。脳死肝移植が進まない中、移植臓器不足を補おうと始まった方法だが、発症までの期間が短いとすれば、既に移植を受けた患者の発症を遅らせる対策や、より慎重な事前審査とインフォームドコンセント(十分な説明と同意)が必要になる。ドミノ肝移植のあり方があらためて問われそうだ。
武井講師らは、信大でドミノ肝移植を受けた7人のうち、生存する6人について、FAP特有の症状の末梢神経障害などの有無を確認。さらに、承諾を得た5人から胃と十二指腸の粘膜を採取し、肝臓がつくる異常なアミロイド沈着の有無を調べた。その結果、FAPの発症はなかったが、アミロイド沈着が2人に見つかった。2人とも移植を受けてから3年11カ月だった。
FAPは、異常なアミロイドが内臓や神経に沈着して機能障害を起こし、やがて死に至る病気。肝臓のほかの機能は正常で、別の肝臓病患者に移植しても発症まで20年以上かかるとの見方もあったことから、ドミノ肝移植は末期患者への有効な治療とされてきた。
ただ、治療法としての歴史が浅く、移植後の発症についてはデータがほとんどないため、短期間での発症を危ぶむ声もあった。
同科の池田修一教授は「移植を受けた患者には、アミロイド沈着の進行を抑える薬を使うなど早期の対策が必要」と強調。武井講師は「早急に全国的な調査をする必要がある」と指摘している。
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わざわざ病気の肝臓を用いても、移植をしなければ死んでしまうほどの重症な肝臓障害患者のために行われるドミノ移植の問題点です。しかし根底にある「脳死肝移植の絶対数の不足」という問題こそ、今後見直されなければいけない課題であると思います。