避難生活の長期化に伴い東日本大震災の被災地では、一時的な応援だけでなく、長期的に被災者を診る医療スタッフが求められている。全国の地域医療を支える自治医科大(栃木県下野市)の同窓会は、OB医師を約2週間ずつ交代で半年間派遣し続ける「6カ月プロジェクト」に取り組む。自治体などからの要請を待つのではなく、現地に入り医師不足の地域を調べて重点配置するなど「自立型」の支援が特徴だ。
自治医大を卒業した医師は、それぞれの出身地でへき地・地域医療に携わることが義務付けられ、被災地でも多数の卒業生が働いている。震災直後、同大の同窓会(会員約3400人)は「東日本大震災支援プロジェクト対策本部」=本部長・尾身茂教授(公衆衛生学)=を設置。卒業生を対象に、被災地での医療ボランティアを呼び掛けたところ、全国から100人以上が名乗りを上げた。震災4日後の3月15日から、医師を7人ずつ約2週間交代で送り込み、既に計30人に達した。
コーディネーター役の医師が「先遣隊」として被災地入りし、医療状況を独自に情報収集。医師が足りない地域へ重点的に医師を送り込む手法で、被災者や現場の医療関係者をサポートしている。機動性を重視しており、被災地での拠点地域も刻々と変化する。震災から1カ月が過ぎた4月中旬の現時点では、岩手県釜石市、宮城県登米市、南三陸町の3カ所で、病院・診療所での診察や避難所の巡回などに当たっている。
「環境の良い2次避難所へ、被災者を移動させることも重要な任務ではないか」。今月9日、同大であった報告会。南三陸町や登米市で診察に当たった小橋孝介医師(30)=千葉県鴨川市立国保病院=はノロウイルスなどの感染症によって、避難所の環境悪化が拡大している点を指摘。「病院の復興計画など、医療も含めた被災地の復興ビジョンを話し合い、通常の保険診療に移行する方法を考える必要がある」と述べた。
さらに、精神的なケアの課題も指摘。家族を失うなど精神的なダメージを負った被災者が避難所にはあふれているが、長期的に診療に当たる精神科医師はいない。「お互いに(被災者同士で)支え合うピアカウンセリングの方法などを、自治会長らまとめ役の人たちにレクチャーするのが良いのでは」と提言した。
報告会では、北海道や沖縄から被災地に派遣された医師ら7人が被災地の医療態勢の現状を報告した。
それによると現地では今、比較的被害の少なかった内陸部の病院へ、沿岸部から転院の受け入れ依頼が殺到している。大規模避難所から2次避難したり、救急病院で急性期を脱した患者が急増したためだ。しかし、内陸部で後方支援に当たる病院も満床状態で、受け入れができない状況だという。
また、寝たきりや認知症などの療養患者は、入所していた福祉施設や自宅が被災し、帰る場所を失っている。香川県綾川町国保陶病院の柴崎嘉医師(41)は「患者を避難所に帰すわけにはいかず、病院はパンク状態。後方病院に加え、受け皿となる病院や福祉施設など生活の場が必要だ」と強調した。
被災地で活動した医師のこうした体験や教訓は、交代で後に続く医師に伝えられ、支援の質向上に役立てられる。対策本部長の尾身教授は「卒業生は皆、医療の谷間を照らすDNAを持っている。地域医療への強い熱意を持った卒業生たちが被災地のニーズにどう応えるのか。その思いを示したい」と話す。
大学の特性として、地域への派遣を行うのは今後の自治医大のためにも良いかもしれませんね。自治医大は国立とも私立とも違う、地域密着型を実践している優秀な大学です。今度医学部新設があるみたいですが、自治医大システムを採用した大学を西のほうに作ってみるのもいいんじゃないでしょうかね。