厚生労働省研究班(主任研究者、小林英司・自治医科大教授)が実施した心臓、肝臓、腎臓の海外渡航移植に関する最終報告が21日まとまった。渡航移植患者は3月の中間報告より69人増えて522人に上った。97年の臓器移植法施行後もアジアへの渡航を中心に増加傾向にあり、研究班は「国内の脳死移植体制が不十分なため(患者は)多額の医療費と生命のリスクをかけて他国民からの臓器提供を求めて渡航する」と指摘、速やかな改善を求めている。
「日本は金にあかせて世界の臓器を買いあさっている」。約3年前、スペインで開かれた世界保健機関(WHO)の臓器移植に関する委員会で、日本は名指しで批判された。だが、政府は実態を把握しておらず、反論もできなかった。そこで、厚労省の研究班が急きょ組織された。
調査は今年1〜3月、移植専門医がいる全国の医療施設を対象に、海外で移植を受けた外来患者数を聞いた。対象施設数は心臓17、肝臓123、腎臓154。回答率はそれぞれ100%、98%、90%だった。
肝臓は221人が海外で移植を受けていた。主な渡航先は豪州、米国、中国など。腎臓は198人で渡航先は中国が最も多く、フィリピン、米国と続いた。インターネットなどで情報を入手し、個人で渡航する例も多いという。研究班は「不正確な情報を頼りに海外を目指すケースもある」と指摘する。
中国などでの移植には、日本移植学会が倫理指針で禁止する臓器売買にあたるとの指摘や、死刑囚からの提供も問題化している。感染症対策など術後のケアや治療のデータも不十分だ。
心臓は103人で中間報告と同数だが、05年度は最多の15人が渡航移植を受けた。現行法では15歳未満からの提供が受けられないため、子どもが心臓移植を求めて渡航する例が増えていた。加えて、法施行後も成人の渡航例が増加傾向にあることも判明した。
主任研究者の小林教授は「海外へ患者が行く現実を受け止め、他国を批判したり渡航を取り締まるのではなく、現地の実態を知ることが重要だ」と話す。同学会は21日、海外の情報収集を担当する委員会を設置した。
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「ほかに選択肢はなかった。迷いはなかった」
05年に中国・天津市で肝臓と腎臓の同時臓器移植を受けた北海道の60歳代男性は、そう口調を強めた。「提供者の多くが死刑囚だということは聞いた。しかし、向こうの条件をのむしかない。おかげで私は今、生きている」
男性は重い腎臓病で、肝臓にも症状が広がった。日本で腎・肝同時移植を受けるのは難しい。知人から中国での移植について聞き、主治医に相談した。「協力できない」と拒まれたが、何度も訴えると「術後の診察をしないわけにはいかない」と受け入れてくれた。
インターネットで検索すると、中国を含む海外での臓器移植情報を紹介する団体が簡単に見つかる。近畿地方のある団体は「この半年に中国などでの移植について60〜70件の相談があった。リスクを覚悟した上で、1割程度が渡航する」という。
欧米や日本では移植患者の登録制度や選択基準があるが、中国にはなかった。費用も欧米に比べれば安い。この団体によると、肝臓移植は約1000万円で米国の4分の1程度とされている。心臓は約1300万円、腎臓は約600万円という。米国ではそれぞれ8000万円、1800万円が目安という。
しかし、国際的な非難の高まりを受け、中国政府は先月、不適正な臓器移植を禁じる管理規定を発表した。移植費用も上がる見通しだという。
報告書は、米国などでの心臓移植を「実態が把握され、成績も良好」としたが、そうした患者にも不安はある。04年に米国で心臓移植手術を受けた平美樹さん(39)=兵庫県=は、重い心筋症で移植以外に治療法がなく、募金活動のおかげで渡航手術をかなえることができた。
「まだ体温の残る他人の臓器をいただくことになるという現実と向き合った上で、まだ生きたいと思った」。渡米後、わずか23日で提供者が現れ、今は当時44歳の男性の心臓が、平さんの体内で鼓動を刻んでいる。
「渡航するだけでも命がけ。言葉の壁もあり、周りで何が起きているか分からず、不安だった。できれば国内で受けたかった」と振り返る。
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自民、公明両党の有志議員は先月、二つの臓器移植法改正案を国会に再提出した。脳死を一律に人の死とし、本人が拒否しない限り家族の同意で提供可能となる案と、一律に人の死とせず、提供可能年齢を15歳以上から12歳以上に引き下げる案だ。いずれも、提供者の増加を目指しているが、今国会は日程が既に詰まっており、審議入りの見通しは立っていない。
97年に施行された臓器移植法は、付則で施行後3年をめどに見直すとされた。しかし、既に8年半が経過した。
厚労省臓器移植対策室は「現行法自体が議員提案であり、死生観なども絡む法律の性質上、政府提案は難しい」と見直しが遅れた背景を話す。
国内での移植機会の増加を望む患者や関係団体からみれば「やっと提出された」改正案だが、議員の間では、脳死を人の死とすることへの反対意見も根強い。野党有志議員の間では、脳死判定基準をより厳しくした対案提出の動きもあり、改正の行方は不透明なままだ。
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はっきり言って、これは国の恥です。
結局、医療の現状を知らぬ政治家が、「自分の手が汚れないように」あれこれ難癖をつけて議論することを後回しにしているから、世界中の笑いものになるんですわ。安楽死問題然り、国民医療費問題然り。
「良いところはアメリカの真似をする」日本人も、倫理面という壁は越えることができなかった。そこらへんに老人特有の頭の固さが垣間見えます。自分たちが移植を必要とするような病にならなければ移植を真剣に考えようともしない。移植を必要としている人たちは国会に行けないほど重症なんですよ。
日本で移植が進まないため、中国で臓器売買が横行し、それを日本人が買う。この現状を見てもなお、政治家は移植を推し進めないつもりでしょうか。同じく移植を待っている他国の患者及び家族に会った時、顔をみることができるんでしょうか。
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最後は自分が大事、というのはまぁ動物なんだから当たり前かなぁとも思うんですが、我々人間は未来のことを予測して備えておく「知恵」がある。何故海外にまで買いに行かねばならないのか。法整備さえ進めば金を払うこともなく自国だけでまかなえるんじゃないだろうか、そういう面での議論に消極的な日本人の多いこと。