イスラム原理主義組織ハマスが主導するパレスチナ自治政府の発足から1カ月がたった。米欧諸国の支援停止やイスラエルの封鎖で「兵糧攻め」に遭うガザ地区では病院の医薬品が底をつきかけ、重病患者が生命の危機にひんしている。国際社会の人道支援物資は現場に届かず、選挙でハマスを選んだ人々は重すぎる「民主主義の代償」に悲鳴を上げていた。
「透析を受けなければ息子の命は10日しかもたない」。自治政府が運営するガザ市最大のシファ病院で30日、政府職員のガーニムさん(45)は人工透析機につながれた二男(15)を前に切羽詰まった表情をみせた。この日、担当医から「透析を週3回から2回に減らす」と通告されたのだ。
同病院で人工透析を受けている患者は約160人。担当医によると、透析機28台のうち6台は交換部品が無いため稼働不能の状態だ。消耗品の血液用フィルターやチューブは補充がなければ1週間足らずで使い切ってしまうという。
「あと2週間ですべての薬が底をつく」。広報担当のアルサッカ医師が説明する。約400種類の主要医薬品のうち約200種類は既に無くなった。ハマス主導政府が発足した3月末以降、満足な治療を受けられずに死亡したガン患者の数は10人に上る。アルサッカ医師は、購入費にあてる予算の枯渇とイスラエル・ガザ地区間の物品輸送ルートの閉鎖が医薬品不足の原因と指摘した。
ガン病棟では3月末まで1日あたり20人以上の患者が治療を受けていたが、今は7〜8人しか来院しない。化学療法の薬が無くなり、代替治療さえ事欠くようになったためだ。「大勢の患者が政治の犠牲者になってしまう」。患者を前に担当のマスリ医師が危機感を募らせる。
ハマスを「テロ組織」に指定している米国や欧州連合(EU)は、「イスラエルの承認」などの条件を自治政府が受け入れるまで直接支援を停止すると決めた。欧米は「人道援助は続ける」と約束したが、自治政府保健省の担当者は「現場には何も届いていない」と言い切る。ヨルダンから近く支援物資が届く予定というが、「焼け石に水」(同省担当者)だ。
イスラエルは自治政府の代わりに徴収している関税など月額約5000万ドルの税送金を凍結し、ガザ地区封鎖を頻繁に発動、人や物品の出入りを厳しく規制している。物流専用のガザ地区のカルニ検問所のパレスチナ側管理官によると、輸出入を合わせた大型トラックの通行量は最盛期の1日約400台から約100台に激減したという。
一方、イスラエル当局者は毎日新聞の取材に「ガザ地区向けのいかなる人道援助も阻止していない」と主張している。「ガザの経済状態は極めて悪いが、人道的な危機は起きていない」との見解だ。カルニ検問所の閉鎖日数や通行量もイスラエルとパレスチナ側との間で大きな隔たりがある。
世論調査によると、欧米の圧力にもかかわらず依然ハマスが多くのパレスチナ住民の支持を集めている模様だ。だが、悪化する一途の経済情勢を前に民衆の不安や不満は爆発寸前にまで膨らんでいる。15万人以上の自治政府職員の給与は3月分が未払いで、4月分も支給が危ぶまれている。
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経済制裁を受けた国では必ずといっていいほど医薬品の不足が起こります。経済制裁を起こす側としては国民の反政府感情を煽ることが目的でもあるのでしょうが、政府が圧倒的軍事力を持つ場合、そして今回のように国民が宗教観念に縛られている場合には、反政府感情を利用して政府を倒すことは難しいでしょう。
そんな時、犠牲になるのはいつも弱者です。治る病気が治らない。国のコマにされながら死ぬしかないのか。