厚生労働省が指定した全国の4つの大学院で、医師の包括的指示で特定の医療行為を担う特定看護師(仮称)に関する「調査試行事業」が7月からスタートした。講義や実習のデータを集め、特定看護師の要件などを検討する際に活用することが目的だ。指定校の一つ、東京医療保健大の看護学研究科は国内で唯一、急性期看護の日本版ナースプラクティショナー(NP)を養成している。8月3、4の両日には、大分県の大学から講師を招き、触診や打診などで患者の症状を分析するフィジカルアセスメントの実技演習を初めて行うなど、来年度の実習に向け、学生たちは着実に力をつけている。
東京医療保健大の看護学研究科は今年4月の開講。全国に144病院を持つ国立病院機構と連携し、充実した臨床実習を行えるのが特徴だ。同大東が丘看護学部の学部長には、NP教育の草分け的存在とされる大分県立看護科学大の草間朋子学長が着任し、これまでに同大が培ってきたノウハウを提供している。
同研究科の学生は現在21人で、30歳代が中心。全日制のため、学生たちは休職して勉強に専念しているという。大学では今年秋から、人工呼吸器装着中の患者のウイニング(離脱)や気管挿管など、クリティカル領域の治療や処置に関する講義、演習をスタート。2年次に筆記試験とOSCE(客観的臨床能力試験)を実施した後、病院での実習に入る運びだ。
今回の実技演習では、大分県立看護科学大の藤内美保教授が講師を務め、フィジカルアセスメントの演習を2日間で集中的に行った。
2日目には、腹部のフィジカルアセスメントや、耳鏡を使った診察について学んだ。同研究科の講師を患者に見立て、藤内教授が視診、打診、聴診、触診といった診断の流れを実演。仰向けになった講師の下腹部に指を差し、腸の動きを学生に目で確かめさせた。
「(脇腹に触れながら)肝臓の部分が硬いと肝硬変の疑いもある」「腹部の打診で、便がたまっているか確かめる」―。学生たちは藤内教授の説明に熱心に耳を傾けた。
「改めて医師に頭が下がる」。2日間の演習を終え、1年生の森寛泰さんと村田美幸さんはそう口をそろえた。
ICU(集中治療室)での看護経験を持つ森さんは、「数値に表われていないことも大切だと知った。急性期では、フィジカルアセスメントの高い能力が必要だと実感し、これからも追究していきたいと思った」と感想を語った。一方、村田さんは「今までは、教科書や参考書を目で見て勉強していた。五感を使いながら、音を聞いてそれがつながった」と、演習に手応えを感じたようだ。
「医師はすごいと改めて思った。だからこそ、チーム医療で一緒に患者さんを診ていきたいと強く感じた」と2人。実技演習を終え、医師を含めた多職種との連携・協働の重要性を改めて実感している。
看護師も科によってそれぞれ行うことが異なります。急性期を対応する救急外来の看護師やICUの看護師は、それ相応の身体診察能力が要求されるため、このような養成講座が求められるのでしょう。