2010年08月02日

国立感染症研究所情報センター長、岡部信彦氏の話

【感染症と人の戦い】国立感染症研究所情報センター長・岡部信彦

 子供の病気とみられてきた百日咳が最近はむしろ大人に流行している。10年前は約5割を0歳以下が占めていたのに、最近は5割以上が20歳以上。ワクチンの普及により子供の百日咳の発生が少なくなると病気に接触したことのない大人が増え、免疫の力を強固にする機会もまた減り、大人の免疫の力が下がる。そして、どこかで生き続けた百日咳菌が、こうした大人を狙い、軽い百日咳を発病させるのだ。これは子供のワクチン接種率が高い先進国特有の悩みだ。

 典型的な百日咳は、発病から1カ月ほど激しくせき込み、見ていて痛々しいほど苦しむ。その激しさから脳出血を起こしたり、新生児や幼児では呼吸が突然止まることもある。次第に楽にはなるが、文字通り咳は約100日間続く。ただ大人がかかってもそのほとんどの人の症状は軽く、仕事を休むほどではない。このため、大人での百日咳は、ほとんど無視されてきた。しかし大人の感染は、ワクチン未接種の小さな子供に、重症な感染を及ぼすリスクを高める。最近、米ロサンゼルスでは、大人を含む数百人の患者が発生し、数人の乳児が死亡した。

 それを防ぐのがやはりワクチンだ。百日咳ワクチンは乳幼児向けの定期接種として三種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風の三種、DPT)で行われる。通常生後3〜6カ月の時期に3回、1年後に1回、計4回受ける。だが小学校5〜6年生では追加接種が二種混合(ジフテリア・破傷風、DT)ワクチンで行われ百日咳は省かれる。軽く済む百日咳の追加ワクチンはメリットが少ないと考えられたためだ。

 しかし、その方針はそろそろ見直す時期にきている。米国では2005年、思春期での追加接種を二種混合から、三種混合に切り替えた。つまり、大人も百日咳を予防すべきだとの方針に転換したのだ。日本も腰をあげた。厚労省の厚生科学審議会「予防接種部会」が、小学5〜6年生で行う追加接種をDTワクチンから百日咳を加えたDPTワクチンに切り替える必要性について検討を始めた。大人自身の流行を抑える意味に加え、まだワクチン接種をしていない小さな子供に感染が及ばないようにすることを目指すためだ。

 予防接種の大きな目標の一つは皆で協力して社会的な感染症の流行や子供の病気の重症化を防ぐことだ。事情により予防接種を受けることができない子がいても、他の大多数が接種しておけば、その感染予防にもなる。もちろん、定期接種の対象となる子がきちんと接種を受けることがまず先決ではある。加えて、大人になる手前の小学校5〜6年あたりでジフテリア・破傷風に加えて、百日咳のワクチンも接種できれば免疫が呼び覚まされ、百日咳へのバリアを一段あげることができる。

 当面必要なのは、新生児や乳幼児のケアにあたる助産師や看護師、乳幼児を預かる保育士など、子供の身近で職に就く人々が咳が長引いた場合、「仕事は大丈夫」などとせず早めに受診し百日咳なら治療をすることだ。近い将来、大人への予防接種も検討課題となろう。わが身のためだけでなく、他の誰かのためにもワクチンを受ける。成熟社会の公衆衛生は「社会の利益」も重視すべき時代に来ている。



 感染症は、ウイルスや細菌との戦い、ではあるのですが、実際には「伝播」してしまう社会的な戦いです。要するに人対人での話。

 昔と違って「予防」できるようになった今ですら、広がる感染症。それは人類の怠慢といっても過言ではないでしょう。

 一人一人が感染症に対して理解するのもそうなのですが、せめて厚生労働省が掲げている予防接種ぐらいはしてほしいものです。自分の子供がどうのこうのという以前に、他者に感染させてしまうことを考慮すれば当然だとは思うのですが、なかなか難しいようで。
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posted by さじ at 03:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 感染
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