2010年08月01日

ダウン症の退行現象にアルツハイマー治療薬アリセプトが効く

ダウン症患者にも効果との研究成果 アルツハイマー型認知症の治療薬

 先天性の染色体異常疾患「ダウン症候群」(ダウン症)の患者にみられる急激な日常生活能力の低下(退行現象)などの治療に、アルツハイマー型認知症の治療薬「塩酸ドネペジル(アリセプト)」が効果がある、との研究成果を長崎大学病院小児科の森内浩幸教授や諫早市の重症心身障害児(者)施設「みさかえの園むつみの家」の近藤達郎診療部長らの研究グループがまとめた。今年に入り8年間の研究内容を日本小児科学会の雑誌で発表した。

 退行現象は、これまでできた日常活動が短期間にできなくなる症状。患者の約10人に1人の割合で起き、20歳前後に多くみられる。具体的には▽動作の緩慢▽表情の乏しさ▽会話の減少▽睡眠障害−が挙げられる。改善は容易でなく、家族に精神的苦痛を強いてきた。また患者は加齢につれアルツハイマーにみられる症状が増え、60歳以上の75%に上るという報告もある。出生率の増加、平均寿命の伸びが顕著な中で対策が求められていた。

 塩酸ドネペジルは、神経伝達物質「アセチルコリン」を分解する酵素「アセチルコリンエステラーゼ」の働きを阻害する作用を持ち、アルツハイマーの進行を抑える薬剤。国内では1999年に認可された。現在はアルツハイマー型認知症にしか医療保険適用が認められていない。

 近藤部長らは2001年7月に薬の存在を知り検討を始めた。1999年には英国の医学雑誌でダウン症患者のQOL(生活の質)を向上させた事例が報告されたことも判明。長崎大学病院倫理審査委員会の承認を経て、02年6月からこれまでに長崎、佐賀両県の患者約60人(使用開始年齢13〜58歳)に投与してきた。

 その結果、服用後1〜数カ月で▽起床や食事といった生活パターンの確立など日常生活の改善▽精神的安定の維持▽表現力や語彙数など言語機能の向上▽排尿機能の改善−といった効果があった。ただダウン症患者は解毒機能が低く薬剤の血中濃度が高くなりやすいため、過度に投与すると下痢や尿失禁、パニック症状などの副作用があることも分かった

 森内教授と近藤部長は「患者の合併症の治療は進んだが、生活能力そのものを向上させる医療的手段はなかった。適正な用法、用量を守ればこの薬物療法は画期的だ。ダウン症患者への保険適用化を目指したい」としている。



 なるほど、薬の血中濃度が高くなってしまう点が難点か。でも効果があるのなら、慎重に投与してうまくコントロールしたいところですね。ダウン症の症状を安定させることができれば、日常生活でのご家族の負担も軽減されるでしょうし。今後のアリセプトの使い方に関するガイドラインづくりに期待。

ダウン症候群(ダウン症)

 体細胞の21番染色体が1本余分に存在し、計3本持つことで発症する先天性の疾患群。英国人医師、ダウンが1866年に初めて報告した。さまざまな程度の精神運動発達の遅れのほか、先天性心疾患や白血病などの合併症を引き起こす可能性がある。高齢出産の増加や医療技術の進歩などに伴い、国内で出生する割合は1975年の932人に1人から、2005年は583人に1人に増加。11年は340人に1人にまで増えるとも言われている。西オーストラリアの研究では2000年度の患者の平均寿命は58.6歳だった。日本の患者の平均寿命は60歳程度と推測されている。
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posted by さじ at 11:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小児
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