思考など高度な機能を担う脳の「大脳新皮質」で、成体でも神経細胞が新たに作られることを、藤田保健衛生大、京都大、東京農工大などの研究チームがラットで見つけた。成熟した個体では脳の神経細胞が増えることはないと長い間信じられ、論争が続いていた。米科学誌「ネイチャー・ニューロサイエンス」(電子版)に27日、掲載された。
近年、記憶に関連する海馬や嗅覚をつかさどる部位で神経細胞の新生が確かめられたが、哺乳類などの高等動物ほど発達している大脳新皮質については明確な報告がなかった。
藤田保健衛生大の大平耕司助教(神経科学)らは、人間の30〜40歳にあたる生後6カ月のラットの大脳新皮質で、一番外側の第1層に、分裂能力を示すたんぱく質が発現した細胞を見つけた。頸動脈を圧迫して脳への血流を一時的に少なくしたところ、この細胞が約1・5倍に増え、新しい細胞ができた。
新しい細胞は、形状から神経細胞と確認。第1層から最深部の第6層まで7〜10日かけて移動する様子が観察できた。このラットを新しい環境に置いて活動させたところ、新しい細胞が活発に働いていることも確かめた。
これらのことから、成体ラットの大脳新皮質には、やがて神経細胞になる「前駆細胞」が存在し、神経細胞が危機にさらされると神経細胞が生み出されて働くと結論付けた。チームは、ヒトでも同様の仕組みがあると推測している。
神経細胞は興奮性と抑制性の両方がバランスよく働いているが、この新しい神経細胞は抑制性だった。大平助教は「薬などで前駆細胞の働きを制御して抑制性の神経細胞を作り出すことで、興奮性の神経細胞が過剰に働くてんかんや、一部の統合失調症の新たな治療法が見つかるかもしれない」と話す。
脳関連に定評のある藤田保健衛生大学の研究。
脳の神経細胞が新たに増える、という点が今までの脳医学とは全く異なる概念ですね。
脳の細胞を増やしたり減らしたりするのを、部位別に行うことができれば、今のところ薬で抑えるしかない疾患の根治的治療法に繋がるかもしれません。