県立循環器・呼吸器病センター(熊谷市)は9日、胸部大動脈瘤手術で併発しやすい下半身まひの回避手段として、脊髄を局所的に冷却するカテーテル(体内に挿入する治療用の細い管)を世界で初めて開発、臨床応用に成功したと発表した。脊髄損傷の危険と隣り合わせの大動脈瘤手術。その安全性を格段に高める治療器具として注目されそうだ。
同センター実験検査部と慶応大学医学部心臓血管外科が共同研究した。
同センターによると大動脈手術は国内で年間6500の症例があり、手術ではこぶのように膨らんだ部分を切除して人工血管につなぎ換える。この間、大動脈の血流を遮断するため脊髄への血液の流れも激減。脊髄はほかの臓器に比べて血流の減少に弱く、手術患者の約5〜10%に下半身まひの症状が残るとされる。
これを防ぐ処置として現在は、全身を32〜34度の低体温にして代謝を抑える方法が主流。だが、呼吸不全や免疫機能低下などの副作用が生じる危険性があった。
同センターは1998年から、循環回路を内蔵した冷却カテーテル(外径1・5_)の開発に着手。脊髄と背骨のすき間にカテーテルを挿入、カテーテル内部に冷却液を流して脊髄部分だけを25〜30度に冷やすことに成功した。
さらに、慶応大医学部で昨年12月から今年9月にかけて10例の臨床応用を行い、手術患者全員に脊髄障害が出なかったことを確認した。
今後は高度先進医療の許可を得るための治験を50例ほど行い、2年後の申請を目指す。厚生労働省が許可すれば保険診療との併用が可能になる。同センターの壁井信之専門員(工学博士)は「将来的には脊髄損傷の治療にも活用したい」と話している。
血流の途絶えやすい脊髄を冷却してやることで、機能低下を減らそうというもの。脳の冷却法は有名ですが、それを脊髄に応用しようということですね。
確かにこれを使えば、脊髄障害は出にくくなりそう。大動脈瘤という疾患はどうしても起こってしまうものなので、その根治手術を行う上では必要な技術です。全例に行うべきものだと思うので、保険適用も早急にお願いしたいところです。
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