2009年10月08日

完全型アンドロゲン不応症に悩み命を絶った医学生

境界を生きる:性分化疾患/4 告知…娘は命を絶った

 由紀子さん=仮名=は生後6カ月の時、卵巣ヘルニアの疑いで手術を受けた。自分も医師である父正継さん(54)=同=は手術に立ち会い、執刀医の言葉にぼうぜんとした。「卵巣ではなく、精巣のようです」

 検査の結果、染色体や性腺は男性型だが外見や心は女性になる疾患(完全型アンドロゲン不応症)と分かった。夫婦は迷わず女性として育て、本人には「小さい時に卵巣の手術をした。生理はこないかもしれない」とだけ伝えた。

 「出産も結婚も望めない。せめて一人で生きていける力をつけてやりたい」。両親の願いに応え、由紀子さんは医学部に合格。正継さんは「これで体のことを理解できるようになる。医者になるころにすべてを知るのが一番いい」と思った。だが、そうはならなかった。

 大学1年生のクリスマス。由紀子さんは同級生から告白され、交際が始まった。翌春、初めての性交渉がきっかけで生理に似た出血が1週間続き、母親に相談した。正継さんは「昔の診断は間違っていたのではないか」と淡い期待を抱いた。改めて診察を受けようと、娘に初めて病名を伝えた。夏、由紀子さんは「誰にも知られたくない」と、遠くの病院で検査を受けた。

 そこで告げられたのは、親子のわずかな望みをも断ち切る残酷なものだった。

 染色体は男性型の「XY」。子宮や卵巣はなかった。「あの医者、どうしてさらっと『子宮はないね』なんて言えるの?」。そう憤る娘が痛々しかった。

 診断から1カ月後。由紀子さんは下宿の浴室に練炭を持ち込み、自殺した。室内に遺書があった。「体のこと、恋愛のこと、いろんなことがあって……」。携帯電話には自殺直前に彼氏とやりとりしたメールの記録が残っていた。

 由紀子さんは自分の疾患のことを彼氏に打ち明け、距離を置こうと切り出されていたという。まだ若い学生が抱えるには重すぎる事実だったのだろうか。

 娘を失って2年。正継さんは今も「もし過去に戻ってやり直せるなら」と考えてしまう。思春期を迎える前に病気のことを話し、異性との付き合いを制限すべきだった。そのせいで多感な思春期に道を踏み外し、医学生の夢をかなえることも、恋をすることもできなかったかもしれない。「それでも、生きていてほしかった」

 95年から性分化疾患の自助グループ「日本半陰陽協会」を主宰する橋本秀雄さん(48)は部分型アンドロゲン不応症で、心身が男にも女にもなりきれない。親からは何も聞かされずに育った。

 自分の中の違和感に苦しんできた橋本さんは32歳の時、覚悟を決めて母親を問いただした。母親は一瞬たじろいだ後、言葉を絞り出すように話し始めた。

 3歳になっても外性器が小さいままで、国立大学病院を受診すると「半陰陽」だと言われた。男性ホルモンを投与したが、効き目はなく、治療をやめてしまった−−。

 それを聞いた橋本さんは「半狂乱になって母をののしった」。自分の体がどう診断され、何をされたのか。病院に問い合わせたが、30年も前のカルテは残っていなかった。大切なことが分からないままになった。

 母親への思いが変わったのは、自助グループを作ってからだ。多くの親たちの苦しみに触れ「母も精いっぱいのことをしたのだろう」と思えるようになったという。

 本人への告知をいつ、どのようにすべきなのか。医療現場も揺れている。医師たちは親に「本人には絶対に黙っていて」と口止めされる一方で、成長後に自分の疾患を知った子からは「なぜもっと早く教えてくれなかったのか」と非難されることも多い

 東京都内のある専門医は、前の主治医から引き継いだ20歳の女性に「中学生になったころ手術を受けた記憶がある。私には睾丸があって、それを取ったのですか?」とストレートに聞かれたことがある。言葉を選んで説明したつもりだが、女性は言葉に詰まり、ぼろぼろと泣き出した。

 「詳しく知らないまま楽しく暮らせている人もいる。すべてを話すことがいいことなのか」。あれから10年近く、医師にはまだ答えが見つからない。

 大阪府立母子保健総合医療センターの島田憲次医師は「思春期にはある程度話さねばならない。でも、どこまで明かすべきかは常に迷う。悩みは深い」と話す。




 難しい問題ですね。

 それこそ家族のように、その人のことを深く知っている人間にしか出来ない判断だと思いますが

 思うに、あれなんですよね

 もし自分だったら、出来るだけ早いうちに話してもらったほうがいいかな、と思います。癌の告知と同じで、否定したり怒ったり泣いたりするというプロセスを経た上で、その現状を「受け入れる」ことができるのだと思います。

 特に性に関することは大変大きい。体だけでなく心の問題です。医療従事者もこういうことに対してそっけなく言ったりするのではなく、親身になる必要があると思いますし、ご家族としても、できることなら波風立てたくないと思われるでしょうけれど、早めのほうが、自分を見つめることが出来るかな、と。年齢がいってから、自分のアイデンティティが崩れるのは正直言って過酷だと思いますから。

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posted by さじ at 06:28 | Comment(1) | TrackBack(0) | 生殖
この記事へのコメント
性同一性障害は認知されていますが、染色体では男性でも外部性器が女性で内部性器が男性だある・・この疾患はあまり知られていないし、オープンにされる機会も少ないため、衝撃を受けました。亡くなられた由紀子さん本当に悩まれて苦しかったことでしょうね。どうか安らかに眠りにつかれてください。ご家族もお医者様とはいえ、本当につらかったと思います。医学の道をめざしておられたのに、優秀な方だったのでしょうね。
学問として知識として入ってくる情報であれば客観的にとらえることもできたでしょう。けれど、思春期でまさに恋愛と性の渦中にいた彼女には過酷な状況だったのでしょうね。
これからこの病気をもっと語れる日が来ることを願っています。
Posted by makisenn at 2009年10月29日 21:49
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