大阪市立大学の広常真治教授と山田雅己講師らは、脳の「しわ」がなくなり重い知的障害などを起こす「滑脳症」の症状を、薬剤投与で改善する動物実験に成功した。有効な治療法のない同症の治療に将来結びつく成果で、米医学誌ネイチャー・メディシン(電子版)に7日掲載された。
滑脳症の多くは神経細胞の移動に関係する「LIS1」というたんぱく質が健常者の半分しかなく発症する。遺伝性の疾患で、LIS1を作る遺伝子がうまく働かないのが原因。国内では新生児約1万5000人に1人の割合で発症する。
滑脳症:知能障害、てんかん伴う病気 酵素の働き抑える薬で、治療に光明
遺伝子が欠けていることで起きる先天性の病気「滑脳症」について、大阪市立大の広常真治教授(分子生物学)と山田雅己講師らが、関係する酵素を発見し、この酵素の働きを抑える薬で症状を緩和できることをマウスの実験で確認した。治療法につながる成果という。米科学誌「ネイチャーメディシン」に7日、論文が掲載される。
滑脳症は「LIS1」という遺伝子が欠けていることによって起き、発症は新生児1万5000人に1人程度。この遺伝子が作り出すたんぱく質が不足することで脳の神経細胞がうまく発達できず、通常6層の脳構造が4層になり、表面のしわができない。知能障害やてんかん、まひを伴い、治療法はない。
広常教授らは、「カルパイン」と呼ばれる酵素が、この遺伝子が作るたんぱく質を分解することを確認。遺伝子操作で滑脳症にしたマウスの胎児に、母親の腹腔を通してカルパインの働きを抑える薬剤を注射で投与。すると胎児の脳構造が回復し、運動能力も通常のマウス並みになった
胎児の段階から薬剤を注射すれば、脳機能が正常になると。先天性の異常であっても、このように早期から治療を行えばほぼ正常に育つケースは多くみられます。今まで治療不可能だった疾患の治療法を確立するというのは並大抵のことではありません。新生児1万五千人に一人というと、結構な頻度ですからね。
滑脳症
滑脳症(lissencephaly)は、脳の表面に脳回がなく平滑であることを特徴とする発達障害疾患。2つの遺伝的タイプにわかれ、17番染色体上のLIS1遺伝子に異常を有する常染色体優性遺伝病とLISX 遺伝子に異常を有するX連鎖劣性遺伝病がある。前者はLIS1遺伝子領域を含む染色体領域が欠失していることが多く、その場合特有な顔貌を呈するため、Miller-Dieker症候群(MDS)と言われる。欠失は染色体FISH法で迅速に診断できる。突然変異による散発例が多く、次子に遺伝する可能性がほとんどないため、出生前診断を必要とすることはまずない。
表面に脳回がなく平滑というモ滑脳モ所見は、通常MRIやCT検査で明らかにされる。MDS特有の顔貌所見とは、小頭、前額突出、前額性中部の背員上の隆起の陥凹(啼泣時に顕著となる)。精神遅滞は重度で、難治性のけいれんもほぼ必発。筋緊張ははじめ低下しているがのち亢進する.生命予後は不良。臨床症状は2つの遺伝的タイプ間でちがいはそれほどないが、脳回の平滑化領域は、LIS1が後頭部を中心に、LISXが前頭部を中心に見られる。
病理学的所見としては、当初より、正常6層である灰白質が本症患者では4層しかみられず、発生の段階で脳室部から外側に向けて行われる神経細胞の遊走に異常があると推定されていた。微小欠失領域に存在し、転座例の切断点にも一致した遺伝子LIS1において複数の滑脳症患者が変異を有することが判明し、この遺伝子が本症の責任遺伝子であると確定した。
本症患者はこの遺伝子領域の欠失もしくは変異で、正常産物が半量 しかつくられていない。したがって、正常な脳の発達には半量では不十分であることが明らかとなった。この機序として、LIS1蛋白がG蛋白のベータユニットをコードすることから、LIS1の異常によりG蛋白の多量 体構成に異常が生じるためと考えられている。