8月1日,国立がんセンター中央病院(東京都中央区)にて「医学生・研修医のための腫瘍内科セミナー」が開かれた。このセミナーは,腫瘍内科の役割について学生・研修医により理解を深めてもらい,将来の抗がん剤治療を担う腫瘍内科医を育成する目的で2005年から毎年催されている。第5回となる今回は,北海道から沖縄まで,全国から70名近くの参加があった。
まず国立がんセンター総長の廣橋説雄氏が挨拶。抗がん剤の奏効するがんの種類も着実に増加し,分子標的治療薬など新しいタイプの薬も次々と開発されている。ゆえにそれらを扱う腫瘍内科という分野には大きな期待が寄せられていること,さらにはがん治療の均てん化のために腫瘍内科医の需要が高まっていることを語り,本セミナーで,腫瘍内科へのモチベーションを高めてほしいと締めくくった。
その後,医師,研修医,がん患者など7名が登壇。田村研治氏(国立がんセンター中央病院)は,抗がん剤の適応拡大や治療成績の向上に伴いその専門性も強まり,臓器横断的な治療を行うため腫瘍内科医が必要とされていると話した。氏は,腫瘍内科医にはまずEBMにのっとり患者を全人的に診られること,また分子生物学や薬理学,統計学に精通し,チーム医療の要となることが求められていると意見を述べた。
金容壱氏(聖隷浜松病院)は,緩和ケア医でありかつ腫瘍内科医という立場から発言。腫瘍内科医は患者の延命という重責を担うなかで,情緒的消耗や,達成感の減退などのバーンアウト症状が出やすい。そこで氏は,腫瘍内科医も緩和ケアにおいて重要視されるコミュニケーションスキルを磨けば,より円滑に仕事に取り組めると提案。逆に緩和ケア医は,今ある痛みを和らげるだけでなく,診断時から終末期までを見通しつつ患者に合わせた治療方針を採るという,腫瘍内科医の展望的な視点を取り入れるべきとした。抗がん治療と緩和ケアの有機的な連携で,緩急をつけながら患者を治療していくことが重要だという。
午後にはケースカンファレンスとグループワークが行われた。グループワークでは参加者は10班に分かれ,医師らとともに議論。ある班では「再発や副作用などのリスクも,臨床試験に基づいたデータもきちんと示した上で,患者に治療法の選択肢を提示できるのが腫瘍内科医」「腫瘍内科医をめざすなら,全身を診るので内科認定医レベルの知識が必要。初期研修でジェネラリスト研修をしっかり行ってから,がん拠点病院などで後期研修をすべき」といった話題が出され,参加者は熱心に質問・意見交換を行っていた。
閉会に際しては国立がんセンター中央病院レジデント専門委員会委員長の飛内賢正氏が挨拶。腫瘍内科を学べる場も増えつつあるが,治療法の発達に伴って高まる患者の要望に応えられるよう,しっかりとトレーニングを積む必要性を強調した。
日本では、例えば肺がんであれば呼吸器内科、肝臓がんであれば消化器内科が担当することが多いですが、やはり抗がん剤を扱うスペシャリストとしての腫瘍内科医は今後必要とされる分野でしょう。抗がん剤を扱える腫瘍内科医が増えれば、欧米のようにより多くの抗がん剤から選択して患者に合った医療を行えるようになるかもしれません。
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