病院内に助産所を設ける画期的な取り組みが、浜松市北区の聖隷三方原病院を皮切りに静岡県内でも始まっている。分娩を仕切るのは、産科医ではなく助産師。役割分担で医師の負担を軽減し、妊婦には家庭的な出産環境を提供できる。いざとなれば医師が駆け付けるため、安心感も強く、お産の選択肢が広がった。
「初めてのお産だから、機械に囲まれた分娩室より、畳の上がよかった」。8月5日、同病院の院内助産所「たんぽぽ」が3月に開所してから50人目の赤ちゃんを産んだ愛知県新城市の団体職員松宮恭江さん(31)は、助産師の祝福を受けながら、笑顔が絶えない。
「家にいる安心感で産みたい」と、助産所を選んだ。妊娠20週すぎから助産師がマンツーマンでケアし、陣痛やむくんだ体の対策など、どんな小さなことでも相談に乗ってもらったという。
院内だけに医療設備は整い、産科や小児科の医師の目も届きやすい。「助産師さんと信頼関係があったから、リラックスして身を任せられた。主人も座って落ち着いて立ち会え、きずなも深まった。2人目もここで産みたい」
笑顔で振り返る松宮さんに、助産師の高林香代子担当課長らも「この信頼感やきずなこそ、私たちが求めているもの。出産は大変だけれど、一緒に乗り越え、いいお産だったと満足してもらいたい」とうれしそうだ。
院内助産所は全国で広まりつつある。県内は、4月に浜松市中区の県西部浜松医療センターと清水町の静岡医療センターでも始まったが、聖隷三方原病院は「専属助産師を4人置き、医師が同席せずにこれだけの件数を担当するのは珍しいのでは」と話す。
背景には、多様化するお産の要望に応えること、助産師の能力を生かすこと、そして多くの病院が抱える産科医の負担軽減がある。
同院の場合、最多時に7人いた常勤医師が、現在は4人。非常勤3人を加えて年間850件前後のお産を担当しており、院内助産所が担当目標に掲げる月30件は、大きな力となる。
妊婦の安心を高めるための「次の手」も進む。7月末に導入した「産科セントラルシステム」だ。妊婦のおなかの張り具合や胎児の心音を、外来や病棟の産科医が画面上で見ることができ、医師側も「すぐに確認できるので安心」という。
命だけでなく、心もつなぐ院内助産所。高林担当課長は「主体的にお産にかかわることができ、水を得た魚みたい。実績を積み信頼を得たい」と意気込む。宇津正二産科部長は「産科としても助かるが、みんなの達成感が違うのが一番」と手応えを語っている。
異常な妊娠経過をたどるような妊婦さんの場合は、大学病院や大きな総合病院でみてもらう必要はありますが、そうでないのであれば、こういうお産のほうがより自然ですし、良い出産を迎えられると思います。
助産師というのはやはり世間では町のおばあちゃんがやっているもの、というイメージが強いかもしれませんが、実際には大学で高度な産科の看護という学問を修めたスペシャリスト。高い能力とモチベーションを備えた人たちです。
こういう院内助産所の開設こそが、今の産科医療を救う道ではないでしょうか。全国の病院で導入してほしい仕組みです。
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