急性膵炎の発症原因の1つとして、アルコール依存症の患者に多く見られるアルコールの多量摂取が挙げられます。アルコールの毒性により、膵臓を構成している細胞内で消化酵素が異常に活性化し、部分的に膵臓そのものを消化し始め、急性膵炎が発症することが知られています。
具体的には、アルコールと脂質を材料に脂肪酸エチルエステル(FAEE)という化合物が作られ、このFAEEが膵臓細胞内のカルシウム濃度を過剰に上昇させ、トリプシンなどの消化酵素を活性化させるとされています。しかし、詳細な分子メカニズムは不明のままで、膵炎の特効薬が存在しない状況が続いています。
脳科学総合研究センターの発生神経生物研究チームは英国・リバプール大学と共同で、アルコール誘発性の急性膵炎の発生初期にイノシトール三リン酸受容体(IP3レセプター)が重要な役割を果たしていることを突き止めました。アルコールの刺激によってFAEE量が増加すると、細胞内のカルシウム貯蔵庫から2型、3型のIP3レセプターを通ってカルシウムが細胞質に放出していました。これらのレセプターを欠損させたノックアウトマウスを用いた実験で、FAEEの毒性が減少することを見いだし、 2型、3型IP3レセプターが急性膵炎の原因となるカルシウム濃度上昇と消化酵素の活性化を引き起こすことを決定づけました。
最近、アルコール依存症から急性膵炎を発症する例が増えています。今回の発見で、2型、3型のIP3レセプターの働きを抑えることでアルコールによる有害なカルシウム濃度の上昇と消化酵素の活性化を人為的に止めることが可能となることが示唆されました。この発見は、膵炎の特効薬の開発につながると期待されます。
急性膵炎は結構怖い病気です。軽症ならまぁ問題ないでしょうけれど、重症急性膵炎となると膵組織が破壊されて出た蛋白分解酵素等によってショック状態に陥り、死亡する例もあります(1割ぐらいが死んでしまいます)
またも理研の研究結果ですが、こういう細かいメカニズムの解明が、いずれ臨床応用されたときに多くの命を救うのでしょう。