近い将来、ロシアの試験農場で、マウスの乳から人間の母乳の代用品を生産できるようになるかもしれない。同国の研究チームが実験の成功を報告した。
マウスのゲノムに人間の遺伝子を挿入したところ、人間の母乳に含まれるタンパク質「ラクトフェリン」が生成された。ラクトフェリンは、免疫系が十分に発達していない乳児をウイルスやバクテリアから守ってくれる。遺伝子操作された動物がラクトフェリンを生成したのは今回が初めてだ。
ロシアの研究チームの最終目標は、マウスの乳からラクトフェリンを抽出し、既存のものより健康にいい粉ミルクを開発することだ。同様の研究プロジェクトは他の国でも進められている。
デンマークのバイオテクノロジー企業ジェンマブ社のシニアディレクター、パトリック・ファン・ベルケル氏は電子メールで、「マウスの乳は非常にタンパク質に富むため、遺伝子操作で得られるタンパク質の濃度も非常に高いということだ」と説明する。
人間の母乳には通常、1リットル当たり4〜5グラムのラクトフェリンが含まれる。
モスクワにあるロシア科学アカデミー(RAS)の遺伝子生物学研究所に所属し、今回の研究に参加したエレーナ・サドチコワ(Elena Sadchikova)氏によると、遺伝子操作されたマウスは最大で1リットル当たり160グラムのラクトフェリンを量産するという。
ただし、このマウスをそのまま酪農に利用できるわけではないと同氏は警告する。マウスの搾乳のためには麻酔が必要であり、その小さな乳首に合う特製のポンプも必要だった。
「実用化を目指すのであれば、毎回このような処置を取らなければいけない。それは物流、技術の両面で大きな障害となる。実用化に適しているのはウサギやヤギ、ウシといった大きな動物だ」と、前出のファン・ベルケル氏は指摘する。
人間の遺伝子を挿入したウサギから搾った乳であれば、オランダのバイオテクノロジー企業ファーミング社が既に利用している。このウサギの乳に含まれている人間のタンパク質は、遺伝性の血管浮腫の新薬にも使われている。血管浮腫はまれな血液疾患で、体内組織に深刻な腫れを生じさせることがある。
「薬を作るのに必要なタンパク質の量は比較的限られている」と、ファーミング社の最高経営責任者(CEO)シモン・デ・ブリース(Sijmen de Vries)氏は言う。「だが、ラクトフェリンを作り、粉ミルクなどに使いたいのであれば、相当な量が必要だ」。
ブリース氏の予想では、牛乳から人間のラクトフェリンを抽出する技術は2〜3年後に実用化されるだろうという。
しかし、前出のサドチコワ氏によると、ロシアの研究チームは遺伝子操作したヤギで実用化を目指すという。
「ヤギの最も魅力的な点は、妊娠期間がウシの半分しかないことだ」と、サドチコワ氏は説明する。つまり、群れの形成に時間がかからないのである。「さらに、ヤギはウシより3倍早く繁殖の適齢期に達し、病気に強く、人間と共通の病気もない」。
マウスで成功したということは牛でも案外いけるんでしょう。
免疫機能をも向上させてくれる人工ミルクが誕生し、市場に出回るかもしれません。
まあ母乳のメリットっていうのはおっぱいをどうこうするだけではなく、母親と子供のコミュニケーションですからね。いくら補っても代えられないものはあるのでしょう。ですが、おっぱいの出が悪い人もいますし、こういう研究が促進するのは非常に良いことだと思います。
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