血液中の微量な物質を利用して体内時計の「時刻」を測る方法を、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)のチームが開発した。マウスでは1時間程度の誤差で測定でき、「時差ボケ」の診断にも成功した。睡眠障害の診断法の開発などに役立ちそうだ。米科学アカデミー紀要で発表する。
人間やマウスは脳に約24時間周期の体内時計があり、実際の時刻と合わせ、体温やホルモン分泌を調節している。
同センターの上田泰己チームリーダーらは、血液に含まれる微量のアミノ酸や脂肪酸のほか代謝物質の濃度が、体内時計に合わせて周期的に変わることに着目。マウスの約300種の代謝物の変動を調べ、体内時計の時刻表のようなプログラムをつくった。
このプログラムで規則正しく生活させたマウスの体内時計を測ると、実際の時刻との誤差は1時間以内に収まり、体内時計の時刻をほぼ正確に測れることが検証できた。
さらに8時間の時差を人工的につくったマウスの体内時計を測ると、1日目は時差を生じさせる前と同じ時刻を示し、「時差ボケ」になっていることを確認した。時差ボケは、5日目では4時間半に縮まったが、完全に治ったのは2週間後だった。
現在の体内時計の測定法では、神経伝達物質を数時間ごとに1日かけて測る必要がある。上田さんは「体内時計の異常で起きる病気を簡単に診断できる方法の開発を目指したい」と話す。
ほぉー。これは面白い。
体内時計の異常、といっても、やはり睡眠障害に起因するものが多いのですが、大人と違って子供の場合は学校という義務が生まれる以上深刻な問題です。
夜寝つけず、朝起きられなくなる「睡眠相後退症候群」は、この体内時計が狂い、生体リズムが変化した状態である。
北九州市の女子中学生(14)は今年初め、「睡眠相後退症候群」と診断された。働いている両親の帰りが遅く、幼児期の就寝時間は午後10時過ぎ。小学校高学年で塾に通うようになって、寝る時間はさらに遅くなった。
中学入学後は寝坊による遅刻や欠席が増えた。ベッドの中で携帯電話の画面やテレビを見ながら眠気がくるのを待ち、午前2時に就寝する。
部屋には日がほとんど差し込まず、朝方、母親から声をかけて起こされると、怒鳴り返した。起床後はそのことを全く覚えておらず、普段は言葉遣いも普通で、優しい子どもだという。有吉院長は「同症候群の子どもを持つ保護者からは同じ経験をしているという話が多い。早朝の深い睡眠時で寝ぼけた状態が続いているからではないか」と語る。
体内時計がずれた状態では、学校や会社に通うといった時間的制約への適応が難しく、周りから意志の弱さを指摘されたり、ひどいときには二次的にうつ病を引き起こす可能性もある。
体内時計の異常で起こる病気には他にも、海外旅行時に時差ぼけと呼ばれる「時間帯域変化症候群」や、過度に早寝早起きとなる「睡眠相前進症候群」、約1時間ずつ眠る時間が遅くなっていく「非24時間睡眠・覚醒症候群」などがあり、総称して「概日リズム障害」と呼ばれている。
女子中学生が診断された睡眠相後退症候群は深夜のコンビニエンスストアなど、強い光を浴び続ける生活が続くことで、時計のリセット力が弱くなり、ある日突然、眠る時間が3〜4時間ほど遅くなったところで固定されてしまう。生活習慣を改めれば治る場合もあるが、生体リズムは遅くなりやすい面があり、専門医による治療が必要となる。
診断ではまず、就寝時間や起床時間などを1カ月ほど調べ、生体リズムの異変を調べる。朝、太陽光になるべく当たるように指導し、太陽光に当たるのが難しい環境では、タイマーを朝起動するようにセットして「高照度光照射装置」(3万〜6万円程度)の照度2500〜5000ルクスの人工光に20分から2時間以上あたる光療法を行う。ずれた生体リズムを元に戻すホルモン「メラトニン」やリズムを固定するため「ビタミンB12」などの薬も服用する。
治療期間は短くて1カ月、半年以上かかる場合もある。発症は30代前半までで、年齢とともに症状が改善する場合もある。予防策としては、毎日決まった時間に朝日を浴びるのが効果的だという。
有吉院長は「カーテンを開けて就寝し、日光を朝受けることで、睡眠障害の予防になる。睡眠相後退症候群は心の問題と関係が深く、(うつ病を予防する意味でも)周囲のフォローが重要だ」と話している。
この記事中にもあるような、生体リズムの検査を、より簡便に行えるようになった研究です。メジャーになればそれだけで診断がたやすくなるために、今後の臨床応用にも期待したいところです。
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